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【WEB版】異世界に召喚されなかったから、現実世界にダンジョンを作ってやりたい放題  作者: 日富美信吾


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79:レストランでVIP待遇を受けてみた

6年ぶり?くらいに更新します!

メディアミックスが決まったとか、そんなオメデタイご報告でもできればよかったのですが、単純に100話までは更新してみたいなあと思ったのです。

のんびり更新していくつもりなので、お付き合いいただけましたらうれしいです。

 買い物を終え、食事に行こうと思っていた矢先、女性の悲鳴が聞こえてきた。


「田助様……!」


 衣子の言葉に田助は頷くと、悲鳴が聞こえてきた方へと走り出した。


 後に続く衣子たちの足音を聞きながら、果たしてとんでもない事件じゃないといいが、などと思っていたのだが。


 角を曲がった田助の視界に飛び込んできたのは、


「な、何だこりゃあ!?」


 あるレストランの前に広がる、阿鼻叫喚とでもいうべき想像を絶する人だかりだったのである。


「予約が取れない!? 私がどれだけ待ったと思ってるの!?」


「今月の予約枠がもう埋まってるなんて信じたくないっ!」


 どうやら、さっき聞こえてきた悲鳴は事件などでは全然なく、予約が取れなくて絶叫する客の声だったらしい。


 追いついてきた衣子たちもこの状況を目にして唖然としている。


 何より田助が目を疑ったのは、その行列に混じっている面々だ。


 テレビでよく見る顔がちらほら。


 芸能人だけじゃない。


 政治家や、企業の社長クラスと思しき人物まで。


 中には明らかに外国のVIPらしき人物もいた。


「ちょっと田助! 私にはあの人があの国の大統領に見えるんですけど……!?」


 すごい偶然があったもので、田助にもそのように見えた。どうか見間違いであってほしい。


「間違いないわね」


 最近、ネットを通じてこの世界の情報を入手しているウェネフが断言してしまった。なんてことだ。


「田助様、あそこを見てください」


 衣子が指さす先には、店の看板があった。


【肉料理専門店 幻奏】


「あれは確か……」


「……そうだ。道本が言っていたレストランだ」


 人気殺到で行列ができていると聞いていた。


 しかし、まさかここまでとは思っていなかった。


「え、どういうこと?」


 抱きかかえたアンファとともに、シャルハラートが首を傾げる。


「ここ、俺が卸したモンスター肉を使ってる店なんだよ」


「え、じゃあここに殺到してる人たちって」


「モンスター肉を求めて、なんだろうな」


 ダンジョンで倒したモンスターを解体して、道本に引き渡す。


 それだけのことが、こんな騒ぎを引き起こしているなんて。


「ねえ、田助。これじゃあ私たち食べられないんじゃ……!?」


「大丈夫だ。今日じゃないが、ちゃんと予約してあるから」


 シャルハラートがほっと胸を撫で下ろしているのを見ていると、黒いスーツ姿の男が近づいてきた。


 何だ? 敵か? しかし、ダンジョンで鍛えた勘では、敵意は感じられない。


 ならいったい——。


「私、この店のスタッフでして」


「ああ、なるほど?」


 スタッフであることはわかった。だが、スタッフが声をかけてくる理由がわからなかった。


「山田田助様、ですよね? お待ちしておりました! 道本様からお話は常々伺っております!」


 田助の風貌、あるいはこれだけの大所帯であることを、道本が話していたのだろう。


「どうぞ、中に!」


「いやいや、俺たち、別の日の予約だから」


「ええ、もちろん、わかっております! ですが、オーナーシェフがどうしてもと申しまして。本日お越しなら、最優先でご案内させていただきたいと!」


「いや、最優先って」


 行列を振り返る。あれだけのVIPたちを差し置いて、自分たちが先に入る? マジで?


「さあさあ! どうぞこちらへ!」


 スタッフが裏口へと案内するのを田助が躊躇する中、「ま、私女神だし! これくらいの扱いは当然よね!」とシャルハラートがついていってしまう。


 当然、シャルハラートに抱っこされているアンファも行くことになり、


「ったく、しょうがねえなあ」


 田助が苦笑しながら続けば、衣子、ウェネフ、それにポチもついてきた。


 行列を作っていた人たちの中にはこちらに気づくものもいて、


「なんであいつらが……!?」


 と騒ぎになっていたが、スタッフが対応していた。


 ブラック企業で理不尽な扱いを受けていた頃には、想像もできない待遇だった。




 裏口から店内に入れば、そこは落ち着いた感じの空間だった。


 高級感はあるが、嫌味はない。


 聞けばVIPルームらしい。


 普段、女神だなんだと言っているシャルハラートだったが、意外と根は小心者だったりするので、この状況がちょっと落ち着かないようで、少しソワソワしている。


 そんな様子を認めてから、田助は衣子たちに視線を移す。


 衣子はもちろん、アンファ、ウェネフ、ポチ、みんなうれしそうだ。


「田助様、どうかなさいましたか?」


「いや、みんながうれしそうだから、俺までうれしくなってきて」


「そうですか」


 衣子の言葉に、アンファが「た〜!」と同意する。


 ……などと、ほっこりしていられたのはそこまで。


 スタッフが丁寧にメニューを説明してくれたのたのだが……。


「お、おい!? このハンバーグ一つ十万円するんだが!?」


「庶民向けのコースでございましたら、三万円からご用意しております」


 聞き間違いかと思ったが、スタッフは至極真面目な顔つきである。


 これが、モンスター肉の価値なのか……!


 強気すぎる価格設定に衝撃を受ける田助だったが、


「……いや、まあ、外で行列を作ってたVIPのことを考えれば、当然……なのか!?」


「普段、ダンジョンを堪能するため〜、とかいって異世界ストアをバンバン利用する時はそんなの気にしないくせに」


「ウェネフ、何当たり前のことを言ってるんだ? ダンジョンを堪能するんだぞ? ケチってどうする」


「はいはい、さすがですねご主人さま」


「だろ?」


「褒めてないんだけどね」


 知ってる。


 さて、そんなことをやっていると衣子が注文した。


「では、全員、こちらのオーナーシェフのおまかせコースでお願いします」


 さすが生粋のお嬢様である。田助は金額は見なかったことにした。


 スタッフが退室すると、シャルハラートが興奮気味に話し始めた。


「ねえねえ、どんな料理が出てくると思う!? きっと天界にもないような、光り輝く神々しい料理に違いないと私は思うわ!」


「光り輝く料理って何だよ」


「そんなの決まってるじゃない! お皿の上で虹色に輝いているのよ!」


「ソシャゲの確定演出か? いや、それ、食べ物として大丈夫なのか……?」


 そんな話をしていたら、


「失礼いたします」


 ノックをして、スタッフが料理を運んできた。


 恭しく置かれた皿の上には——。


「……ハンバーグ?」


 シャルハラートが目を丸くした。


 そう、そこにあったのは、ごく普通のハンバーグだった。


 デミグラスソースがかかった、どこにでもあるようなやつである。


「なによこれ、ただのハンバーグじゃない! 光ってもいないし、虹色でもないし!」


 駄女神の戯言はさておき、値段が値段なので味が気になる。


 田助はナイフとフォークを手に取った。


「見た目は普通だが、香りがすごいな」


 肉の旨味が凝縮されたような、食欲をそそる匂いだ。


 ナイフを入れると、途轍もない量の肉汁が溢れ出した。


「いただきます」


 口に運んだ、その瞬間、田助は飛んだ。


「うっま……! なんだコレ!? うますぎる……!」


 口の中で弾ける肉汁。そして広がる濃厚な旨味。


 噛めば噛むほど肉の甘みが溢れ出し、デミグラスソースと絶妙に絡み合う。


 いや、肉だけじゃない。このデミグラスソースだってただものじゃない。


 これだけの旨味を持つモンスター肉に負けてない!


「俺がミノタウロスの肉を使って煮込みハンバーグを作ったこともあったけど……次元が違うな」


 これがプロの料理人の技術!


「いいえ、田助様! 確かにこれもおいしくはありますが、私は田助様が作ってくださったあのハンバーグの味、今でもしっかり覚えています……!」


「サンキュー、衣子」


 本気でそう思ってくれているのが伝わるから、田助の胸の奥がじんわりあたたかくなる。


「たー! たーたーたーう!」


「アンファ様も同じですよね?」


「た〜!」


 ふんす! と鼻息も荒くアンファがうなずく。


 田助は礼を言うとともに、アンファの頭を撫でた。


 ウェネフもポチも一心不乱にハンバーグを食べ続け、見ればシャルハラートも無言で貪り食っている。


「おい、シャルハラート。光ってもないし、虹色じゃないが、どうなんだ?」


「……ま、まあ、認めてあげなくもなくわないみたいな感じかしらね!?」


 結局どっちなんだよと思わなくもないが、すでに答えはわかっていて、田助は笑った。




 次々と運ばれてくる料理は、どれも絶品だった。


 道本が言っていたとおり——いや、言葉で聞いていた以上の衝撃だった。


 食事を終える頃には全員が満腹で、しあわせそうな顔をしていると、


「失礼いたします」


 ノックとともに、白い調理服を着た壮年の男性が入ってきた。


「山田様、本日はお越しいただき、誠にありがとうございました。自分はこの店のオーナーシェフを勤めている不二原と申します」


 不二原は深々と頭を下げた。


「あ、いや、こちらこそ、素晴らしい料理をありがとうございました」


「恐縮です。実は、道本様から山田様には常日頃から大変お世話になっているから、その時がきたら全力で料理を作ってほしいと言われておりまして」


「そ、そうですか」


「道本様が卸してくださっているあの肉は本当に素晴らしく、私は料理人としての新たな境地に達することができました……!」


 不二原はまるで少年のように瞳をキラキラさせてモンスター肉の素晴らしさを語り、下がっていった。


 田助がダンジョンでモンスターを倒し、その肉を卸したのは、自分がダンジョンを堪能するためだ。


 だが、それがこんなにも喜ばれるなんて思ってもいなかった。


「……田助様、うれしそうですね」


 衣子の指摘に、田助は頬をかいてごまかした。




 会計をしようとして必要ないと言われ、いや払うからと少しだけ揉め、最後は田助が押し切った。


「払わせないなら肉を卸させないんだが!?」


 と脅して。


 外に出れば、相変わらずの行列で、


「いや、さらに増えてるよな」


 田助の勘違いではないようで、衣子たちも頷いている。


 モンスター肉の影響、恐るべしである。


 なんてことを思っていたら、田助は行列の中に、ある老夫婦を見つけて目を細めた。


 善良そうな人たちで、質素な服装だが、きちんと身なりを整えていた。


 たぶん、この店で食事をするために、せいいっぱいのおしゃれをしてきたのだと思う。


「……いつか私たちも、あんな感じになりたいです」


 衣子の言葉に同意する。


 最高の食事をして、あたたかい、ほっこりした気持ちになって、あとは家路につくだけ——そのはずだったのに。


 あろうことか、そんな老夫婦の前に、横柄な態度の外国人男性が割り込もうとしたのである。


「どけ! オレがどれだけ偉い人間か、知らないのか!!」


 困惑した様子の老夫婦。


 田助は、別に正義の味方というわけじゃない。


 だが、許せないものもある。


 田助は何気ない素振りで、アイテムボックスから小石を取り出した。


 以前、ダンジョンで拾ったただの石ころだが、田助にしてみればそれは黄金と同じだけの価値があって——いや、今はそんな田助のダンジョンガチ勢なこだわりはどうでもいい。


 田助は指にはめていた指輪——魔法を使うための触媒をアイテムボックスの中に収納すると、魔法を使った。


【エアショット】


 触媒があれば、それは敵を吹き飛ばすほどの威力が発揮されるのだが。


 今は微弱な風が吹くだけ。


 それを使って、田助は小石を外国人男性の足元に転がした。


 その結果、


「んなあっ!?」


 外国人男性が盛大に転んだ。


「だ、誰だ! 今、何をした!?」


 周囲の視線が集まる中、男性が怒鳴り散らすが、誰も反応しない。


 当然だ。田助がやったとは、誰も気づいていないのだから。


 その乱暴な態度に腹を立てていた周囲の冷たい視線に、外国人男性は耐えきれなくなり、悪態をつきながら列を離れていった。


 ほっとした様子の老夫婦を見ていると、


「……田助様」


 衣子が、にっこりと微笑んだ。


「タスケがやったのね」


 ウェネフも、どこか満足げだ。


「た〜」


 アンファもうれしそうに手を振っている。


「さあ、何のことかな?」


 バレてても隠したいのだ。照れくさいから。


「おなかいっぱいで動けない……。田助、私を背負っていきなさい! 女神にそんなことができるなんて光栄なことなんだからね!」


「甘えるな」


 わいわいと騒ぎながら、田助たちは帰路についた。




 その日の夜である。


 道本からスマホにメッセージが届いた。


『山田様、本日は誠にありがとうございました。シェフも大変喜んでおられたとのこと。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます』


 田助は返信しようとして、考えた。


 今日、店で見た光景。


 あれだけのVIPが行列を作る一方で、庶民が入りづらくなっている現状。


 これは、あまりよくないんじゃないか?


 田助は道本に電話をかけた。


「もしもし、道本か? 今後、肉の供給価格を変えようと思うんだが。VIPからはふんだくって、庶民でも食べられる価格帯のメニューを作るってのはどうだ?」


 電話の向こうで、道本が息を呑む音が聞こえた。


『……利益だけでなく、市場のバランスと社会貢献までお考えとは……』


 そんな大層なことじゃない。ただ、せっかくのうまい肉、いろんな人に食べてもらいたいと思っただけである。


『……さすがです! 不肖、この道本、山田様のお考え、必ずや実現させていただきます!』


 大げさだなと思いながら、田助が考えていたのは、あの老夫婦のことだった。


 楽しんでくれただろうか、あの店での食事を。


 それならこんなにうれしいことはないのだが。

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