第4話
グロ注意。
獣人の男が営む宿を出て、遠くに見える城を見詰める。
「今度は、どこに行くんだ?」
「一回、故郷に戻ろうかと。その後は足を伸ばして、隣国まで行ってみようと思ってる」
見送りに出て来た獣人の方を見ずに、旅人はいった。
転生してからずっと頭にあるのは、元妻のことだ。
だが、転生して直ぐに思ったのは息子の安否だった。
魔王軍の残党だろう魔族に襲われ、息子を守るのが精一杯だった。
書類を捌くばかりで剣を握ることが少なくなった自分に、それ以上のことが出来るはずもなく。
何とか息子だけは逃がし、自分はズタボロになりながらもその場の魔族を全て屠ると、そのまま己の血で出来た水溜まりに倒れて動けなくなってしまった。
どんどん薄れていく意識を引き寄せ様も、それも出来ずに目の前が真っ暗になる。
片腕がもがれ、腹からは臓腑がはみ出し、骨は折られ、血は流し過ぎていたのだから、仕方ないことだったが、せめて息子が無事かどうか位、確認したかった。
獣人曰く、なかなか城に戻って来ないふたりを探しに行った先で、血塗れの息子を見付け、直ぐに保護してくれたらしい。
息子に付着した血は彼自身のものではなく、全て返り血であり、本人はまったくの無傷だったそうだ。
「本当にいいのか?」
獣人に、無言で頷いてみせる。
突然の魔族の襲撃は、当時の大臣が画策したものだった。
自分を殺し、幼い息子の後見人になって国を操ろうとした愚か者。
息子が巻き添えで死ぬかもしれないと、考えもしなかったその者は、獣人らの尽力によって捕らえられ、処分されたらしい。
そんなことがあったせいか、息子は王位を継がずに年下の叔父に譲り、自身はその補佐に徹した。
命を狙われる叔父の盾となり、ときには剣となった息子は、母親の血を色濃く引き継ぎ、今も直王家の守護者として各地を巡っているそうだ。
そして今回の様に、国賓が訪れる場合のみ城に戻って来る。
地位は公爵だが、未だに独身で父親は複雑な思いがあるが、元気であればそれでいい。
「行くなら、さっさと王都を出た方がいいぞ。寄り道しないで、出来るだけ素早く」
何やら城の方角を向いて、慌てた様に元親友はいう。
追い出すみたいな台詞に文句をいおうとするが、元親友の顔は青ざめていてとてもそんなことをいえる雰囲気ではない。
「わかった。じゃあ、またな」
「あぁ、じゃあな」
そうして、あっさり別れた。
その後、元親友の宿が何者かの襲撃に遭ったのを、旅人が知るのはずいぶん後になってからだった。