第2話
こんな日に王都に来るなんて、若い旅人は自分の間の悪さを呪った。
辺境のド田舎出身の旅人は知らなかったが、興奮気味の人々の言葉から理由を知ることが出来る。
以前から噂されていた精霊王の子息と、この国の王女の婚約。
今回の子息の凱旋により、噂が現実味を帯びたらしい。
「まっ、確かにめでてーな」
旅人は、乱暴な口調でひとり納得する。
精霊王の血筋との婚礼は、200年前を最後に久しぶりのことだった。
その当時の国王と、精霊王の妹の婚礼以降は一度もなかったはずだ。
精霊王の妹は既にないものの、王族はその血を受け継ぐ者たちで、婚姻は結ばなかったものの、精霊の国との交流はいまでも続いている。
この婚礼により、両国の結び付きもより、強まるだろう。
大通りを埋め尽くす人だかりを見つつ、旅人は目の下に指を這わせる。
そこには生まれつき刃物で斬り付けられた様な痣があり、考え事をするときにそこをなぞるのは昔からの癖であった。
自分の婿入りのときも、こんな風だったかと思い出そうとしたが、記憶にない。
当たり前だ、緊張し過ぎて周囲が見えなかったのだから。
王族でもましてや貴族でもない、どこの馬の骨かわからない自分だったが、国どころか世界まで救った英雄…陳腐ないい方をすれば勇者である。
それなりに民には、歓迎されていたはずだ。
…たぶん。
「お嬢ちゃん、若い娘がこんなとこにいるんじゃないよ!もっと前に行きなっ!」
「あっ?」
でっぷり…失礼、ふくよかなおばちゃんにいわれ、旅人はろくな返事をすることなく、ぐいぐいと背中を押される。
「精霊王の息子さんは、かなりの美形らしいじゃない。拝んどいて損はないよっ!」
「いやっ、いいって」
人の話しを聞かないおばちゃんに更に押され、最前列通り越して舗装された道に出てしまう。
警備はどうしたって聞きたい程、呆気なく道に転がり出た旅人の目の前に、一頭の馬が映り込む。
キレイに手入れされ、艶やかな鬣の白馬は、どう見ても騎士程度が持つ様なものではない。
高貴な乗るものに相応しい、知性の宿った瞳を見て、旅人はそう判断した。
昔の記憶から、高貴な存在が自分の様な薄汚れた田舎者に対して抱く感情を思い出し、旅人は素早く列の中に戻った。
馬上の人物なんて、見ないでいい。
どうせ、汚ならしいものを見るような、見下した視線だろうから。
人だかりから脱出した周囲を見渡して、先程のおばちゃんがいないのを確認して、旅人はホッと安堵の溜め息を吐いた。
正直いまは、魔王配下のモンスターより、おばちゃんのお節介の方が恐い元勇者であった。