8-4 魔の塔へ
局アレクの兵団と公国軍のみで、魔王討伐の旅は始まった。
雲は黒く、濁ったような空模様だった。
兵団の長アレクサンダーと、公国軍のハルフォード元帥が先頭で馬に乗っている。
アレクサンダーの乗る馬は見事な毛並みの白馬で、ハルフォード元帥の馬は、幾多もの戦場を駆け抜けた、芦毛の名馬である。
旅といっても、魔王の塔はどこに出現するのかわからない。念のため街を出て、アレクの記憶を頼りにサラの家を目指してみたが、案の定、というか、驚いたことに、というか、そこは深い森に覆われているだけだった。
アレクが、フェトラの公国軍兵士たちに、ルーク・ダーリング氏の家に行ったことがある者はいないか訪ねてみると、そういえばダーリング家のお屋敷を一度も見たことがないと、みな一様に首をかしげるのであった。地元の名家の屋敷を誰も知らないというのは何とも奇妙な話だが、みんなそれに疑問を感じることなく今まで過ごしていたのだと言う。
冷静になって考えてみれば、ルーク・ダーリング氏に不審な点は数多くあった。決して人を家に招き入れないこと…これは妹のサラの友人や学校関係者も例外ではなく、家庭訪問もどうやら別宅を使用していたらしい……公爵家のパーティー以外には人前に姿を表そうとしないこと。教会になかなか足を運ぼうとしないことなどなど。冷静になって挙げ連ねてみれば彼にはあまりに怪しい人物だった。なぜか、それが国の人々には今まで疑問視されてこなかったというだけで。
やはり、フェトラ公国中に“誘導”か、それ以上の幻術を使っているのだろう。やはり手強い相手だとアレクは腰にさげた剣の柄を握り締めた。
しかし、魔王の居所の手がかりが掴めないことには、討ちようがない。アレクに、兵士の一人が、聖剣の力で魔王の居場所がわかったりしないだろうか、と尋ねた。
アレクは半信半疑ながらも、他に術も無いので、剣を鞘から抜き、空に切っ先を向けて祈るように言った。
「聖剣よ……どうか白の魔王の居場所へと我々を導いてくれ。」
アレクが剣に言うと、、柄の宝石から白く細い光が、まっすぐに伸びていった。おおっと、兵士たちが驚いてざわめく。
光に導かれて一行が歩いていくと、アレクたちが一番最初に立ち寄った森……サラの家があったと思われる所だった。
「なんだ、何もないじゃないか!」
「いや、聖剣のお導きだ。きっと何かあるに違いあるまい。」
兵士たちが調べてみるが、やはりただの森のようで、何も変わったところが見つからない。
剣の切っ先で地面を突いてみたり、手を伸ばして空を触ってみたりしたが、何も無かった。
「どうなってるんだ……。」
「まさかデタラメなんじゃ……。」
不安を口にする兵士たちをオットーが叱りつけた。
「不謹慎なことを言うな!アレク様自らが引き抜かれた剣が、偽物であるはずが無いだろう」
「はっ……!申し訳ございません、アレクサンダー様」
「あ、ああ……以後、発言を慎め。士気を下げないようにな。」
そう言いながらもアレクは焦っていた。自分の手にしている剣は、確かに聖剣ではないのだから。シュバルツ、僕には白の魔王を倒す資格があるんだよな?だったら教えてくれよ、アイツの居場所を……!
そうアレクが祈ると、剣の柄の宝石が、虹色に輝きだした。その光はみるみるうちに大きくなり、目を開けていられないほどに眩しい光となった。アレクも思わず目をつむった。
やがて、光が弱まり、人々は恐る恐る目をあけてみて驚いた。
目の前には、空に向かって高く高くそびえ立つ、不気味な黒い石の塔が出現していた。
「聖剣の力で幻術が解けたんだ!」
兵士たちは剣や銃など、自分の武器を構えた。幻術が解けたということは、いつ魔物たちが現れてもおかしくないということだ。
少し様子を見ていたが、魔物たちが現れる気配は無いので、一行は慎重に塔の内部へと歩を進めることにした。
アレクが以前尋ねたダーリング邸の面影は、この塔には無い。ただ、黒い扉だけは、あの屋敷に取り付けてあったものと同じようだった。
こんな不気味な塔が本当の家の姿だとも知らずに、サラは暮らしていたのかと思うと、アレクは胸が痛むような気がした。
歩兵隊が先頭に立ち、石の扉を息を止め、二つ数えて一気に開けた。




