6-3 二人の魔王
本格的に吹雪が激しくなってきた、ザガイア神聖帝国の跡地。
その岩山を前にして、赤毛の少年が宙に浮いていた。彼は、普通の人間なら吹き飛ばされるほどの猛烈な吹雪にあたりながら、不機嫌そうに顔をしかめている。
彼の金色の瞳が不満そうに岩山を睨んでいた。
赤毛の少年が岩山の中にある青の魔王の根城に現れると、パチパチと燃える暖炉の火の傍で、揺り椅子が動いていた……いや、青の魔王が揺り椅子に腰掛けて鼻歌を歌っているのだ。
赤毛の少年は、腕を組んで仁王立ちのまま、ゆらゆら揺れる椅子に向かって声をかけた。
「……よお、ブラウ。」
揺り椅子の動きがピタリと止まった。椅子の背もたれの上から、そっと青い髪が覗いた。そして、金色の瞳が見つめ返してくる。
「げ。ロットーじゃん……」ブラウは背もたれの影から、げんなりとした顔で赤毛の少年…ロットーを見た。髪の色が違うだけで、二人の少年の顔は、瓜二つだった。
「おいテメエほんとムカつくな……。」
「だって僕、君のことキライだもん。」
「俺だってテメエなんかに会いたくなかったよ。」
ロットーは髪をかきむしりながら、部屋にあるベッドにどっかりと座り込んだ。ブラウは仕方なくお気に入りの揺り椅子から立ち上がると、いやいやながらもロットーのとなりに座り込んだ。
鏡で映したようにそっくりな少年が向かい合う。
「で、なんの用なの?」
「わかってる癖に聞くんじゃねえ。」
ロットーは大きく深呼吸すると、真剣な顔でブラウに告げた。
「アレクサンダー・ベルクールが“黒の魔王”の手に落ちた。“黒の魔王”はアイツの心の中にうまく入り込んで、すっかり信用を勝ち取っている。それが黒の魔王の特技とはいえ、こんなにうまくいくとは正直驚いたけどな。こっちの手はずは万端だぜ。」
「ご苦労さま。じゃ、僕の方もタイミングを見て動くことにするよ。」
「準備はできたのかよ。」
「大丈夫だよ。あとは時機を待つばかり。焦ってはダメだよ、ロットー。」
「……わかった、てめえのそのいけ好かない態度は気に食わねえが、仕事っぷりは信用してるからな。」
「そりゃどうも。あ、せっかくだから乾杯でもするかい。」
そう言いながらブラウは右手を宙で振った。かと思うと、その手には、水差しが握られていた。
ロットーは別に驚いた様子もなく、自らの左手を振って、杯を二つ、出現させた。
水差しも、杯も、教会にある神具のようで、それでいて最上級の品質のものだった。
「聖水で乾杯するなら、それに相応しい姿に戻るべきじゃねえのか?」
「君もたまには、まともなことを言うんだね。」
ブラウは少し微笑むと、ゆっくりと眼を閉じた。ロットーも同じように目を閉じる。
二人の少年の背中に、二つの突起ができたかと思うと、服を突き破って、真っ白い大きな羽が、二人の少年の背中から現れた。
それは、紛れもない天使の羽であった。
二人の天使は、杯に聖水を注いで、目の高さまでグラスを持ち上げた。
「我らが偉大なる創造主にして」
「この世界の大いなる神に」
「乾杯。」
二人は杯の水を一気に飲み干した。そして、先ほどまでの険悪な雰囲気はどこへやら、二人は静かに微笑みあった。




