4-5 囚われているプリンセス
一方、アレクサンダーを兄の元に残して戻ったサラは、そんなことは知らずに自室で本を読んでいた。そこに、ノックと共にセリアが水差しと胃薬を持ってやってきた。今日はいつもより食べ過ぎてしまったのでその配慮なのだろう。サラは喜んでセリアを自室に入れた。
「ふふふ、でもセリアが夜に部屋に来てくれるなんて久々かも。」
「お伺いする用事もあまりありませんでしたからね・・・どうしてそんなに嬉しそうなんですか。」
「えへへ、昔はお風呂のあとに着替えしたり髪乾かしたり、寝かしつけてくれたり、全部セリアがやってくれてたもんね。なんかこの時間に来てくれたから、ちょっと懐かしくなっちゃった」
そう言うと、サラはにっこりと微笑んで、胃薬と水差しに手を伸ばした。
「…サラ様、ベルクール様のことなのですが…サラ様はベルクール様の伴侶にならなっても良いとお考えですか?」
真顔で尋ねられて、サラは水を吹き出しそうになった。
「ちょっ…いきなり何言って…」
「真面目にお伺いしているのです。どうなんですか?」
セリアの顔は真剣すぎて怖い。學校の友達と恋の話できゃっきゃするときとは明らかに空気が違う。
「え…えーと、アレクさんは、すごい人、だと思うよ?私とそんなに変わらない年なのに、世界のことを考えて、あんなに、怖い敵とも闘って…かっこいい、と、思う、けど…」
「けど?」
「結婚とか、恋とかそういうものなのかどうかは…わかんない。…恋したら、胸がキュンとしたり、苦しくなったりするって、いうでしょ?でも、そういうふうになったことは、無いかも。ただ、すごいなあ、かっこいいなあ、って思う。」
「もしも、ベルクール様がサラ様に求婚されたとしたら、サラ様はどうなさいますか?」
「えー?何言ってるのよ、そんなことあるわけないじゃない。」
「えっ?……いえ、もしも、の話でございますが…」
「うーん……もしも、そんなことがあったとしたら、多分すごく嬉しいと思うけど…でも、私なんかがアレクさんの奥さんなんて務まるとは思えないけど。もっとしっかりした人じゃないと大変だと思うな~」
「さようでございますか…」
セリアはなんだか拍子抜けしたような顔をしている。セリアがこんな表情をすることは珍しい。
サラは、こんな話になったついでに、セリアに聞きたいことがあった。
「…ねえ、今度は私から訊きたいんだけど、いい?」
「はい、なんでしょうか?」
「セリアは……兄さんのこと好き?」
「は?…ええ、好き、というのはあまりにも慣れ慣れしくはございますが・・・尊敬できる旦那様で、お使えできることを私は光栄に・・・」
「そうじゃなくって!その・・・結婚してもいいって、思う?」
セリアの動きが一瞬止まった。
「兄さんは、私のことばっかりで、全然自分の幸せを考えていないの、セリアもわかるでしょ?もし、兄さんに好きな人がいるならいいんだけど、全然そんな気配ないし…だから、もしもセリアさえよければ、兄さんの傍にいてあげて欲しいの。」
「サラ様……そんな、私なんか…ルーク様にはもっと相応しいご婦人方がいらっしゃいます。サラ様はご存知ないかもしれませんが、ルーク様は社交界でもご令嬢方の羨望の的で…」
「うん、それはアーニャから聞いてなんとなく知ってる。…でも、そんなワケわかんないお嬢様よりも、セリアが兄さんと一緒にいてくれた方が、私も安心できるっていうか。多分、兄さんもその方がいいと思ってるわ。」
ちょっとセリアをからかうつもりだったのに、いつの間にか真剣に話している自分に気づいて、サラはごまかすように笑った。
「ごめんね、変なこと言っちゃって。でも、私は…兄さんにもちゃんと……しあ…わせに…」
不意に、サラが机に突っ伏した。手に持っていたグラスがゴトリと音を立てて机に転がる。
セリアはサラの体を抱きかかえる。
「申し訳ありません、サラ・・・しかし、これもルーク様のご命令なのです。」
セリアはすまなそうに、その耳元に囁いた。




