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魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
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2-7 商談

 アレクサンダー・ベルクールと、ルーク・ダーリングは公爵家の執事に導かれて、別室のサロンへと入室した。もちろん、両氏の側近、オットーとセリアもそれに続く。

 オットーとアレクは、内心驚いていた。セリアが先程のパーティー会場では、全くその姿をみることができなかったからである。セリアという女性は、まるで最初からそうしていたかのように、ルークの2、3歩後ろを音も立てずにしずしずと付き従っている。

 部屋に用意されていたソファに、アレクとルークは腰を下ろして向かい合った。オットーとセリアはそれぞれの主人の後ろに立って控えている。公爵家の執事は、静かに部屋を立ち去った。

「それで、商談というのは。」

 アレクはルークに対して微笑みながら、口を開いた。

「ダーリング殿は、銃にご興味はありませんか?」

「銃?」

「実はハルフォード家のご主人にはもうおすすめしたのですが……、この国はあまりにも平和すぎて、いざというときに自らの身を守る準備が出来ている方がほとんどおられないのです。」

「……うむ、その必要がなかったからな。」

「しかし、この間のようなことが、また起こらないとも限りません。そこで、元々大きな威力を持ち、遠くからでも攻撃が可能な近代の武器である銃に、小さくはありますが、神聖なる神の力が込められた宝石をはめ込みました。護身用に、役立つかと思います。」

 アレクの言葉に合わせるように、後ろからオットーが出てきて、ハンカチで包んだ見本の銃をルークに差し出した。

 白い銃身に、金具に金メッキを施してある、まるで美術品のような装飾だ。しかし、ルークが手袋をはめた手でそれをとって調べてみると、最新の技術で作られた、精巧な武器だということがわかる。

「どこで手に入れたんだね、こんな精巧な代物。」

「旅先の教会で作っていただきました。技術革命が進んで、武器や防具が大量生産されている、先進技術国で、僕たちはこの国の教会と契約を結んでいるんです。」

「……それで。」

「この銃を、一丁十万バルクでお売りいたしましょう。いかがでしょうか?」

「……うむ…。」

「この先、きっと役に立つはずですよ。」

 柔和な笑顔でアレクは話す。

「…これは、装飾を凝らした高級品で、金のある貴族を相手に商売するためのものだろう?一般人相手には、もっと安い実用的なものを売るつもりかね?」

「……ダーリング殿はお目が高いですね。ええ、その通りですよ。市民の皆さんには、もっと簡素なデザインの、実用的な銃をおすすめする予定です。…最も、ハルフォード家のご主人は、この貴族用に作った品を喜んで五十挺ほど購入してくださいました。」

「五十……屋敷の人間すべてに配るつもりなのかあの方は……。」

ルークが苦い顔をする。

「ええ、これなら力の弱い女でも、扱いやすそうだと喜んでおいででした。」

「なぜ止めて差し上げなかったのだ、あなたも意外に人が悪いな……銃の扱いはそんなに容易なものでは無いだろうに。きちんと銃をコントロールできるようになるには、それなりに練習が必要だろう。ましてや力が弱くても使える武器などと喜んでいる人に持たせるのは不安だな。」

「ははは、ダーリングの心配も最もだな。」

 不意に、入口から声がして、四人が振り返ると、公爵が立っていた。

「銃の扱いについてはまたアレクサンダー殿からもハルフォードの奴にもう一度ちゃんと注意してやってくれ。私も気を付けておくがね。」

「わかりました。」

「アレクサンダー殿、ハルフォードとは違ってこいつはなかなか手ごわいぞ。なにせ公爵たる私の願いごとにさえ、なかなかうんとは言わない頑固なやつだからな。」

「人聞きの悪いことを仰らないでください、公爵。あなたのご命令には最大限応えるよう、私はいつも努力しております。」

「ん……まあ、そうだが。」

「しかしベルクール殿、私の屋敷では既にいざという時の備えくらいはしている。せっかくだが、我が家では必要ないものだ。」

 ルークは手にとっていた銃をテーブルにトンと置いた。

 アレクは一瞬、信じられない、といった目で銃を見て、ルークに慌てて向き直る。そして、先ほどまで浮かべていた柔和な笑顔を引っ込めて、真剣な表情で話し出した。

「ダーリング殿……魔王の力を甘く見てはいけません!神のご加護を受けた武器でなければ攻撃の効かない魔王や魔物も多い!特に白の魔王はどんな恐ろしい攻撃を仕掛けてくるか……」

「しかしだね、アレクサンダー殿。ここ最近、白の魔王の襲撃はぱったりと途絶えていて、もう死んでいるのではないか、という噂もある。そんなに厳戒体制をしかずとも、良いのではないだろうか?この前少女二人を襲った魔物だって、青の魔王の配下であったことだし……」

「いえ、公爵様。油断してはなりません。奴らは途方もない力と寿命を持っているのです。奴が今、人間を襲っていないのは、おそらく一時の気まぐれでしょう。いつ、白の魔王がこの国を滅ぼしにかかるか、わかりませんよ。」

「ふむ……アレクサンダー…アレク殿、で良いかね?」

「どうぞ。」

「アレク殿の話を聞いていると、君は随分と白の魔王にこだわってるいるように見える。何か理由でもあるのかね?」

「ああ……、“白の魔王”ブランは、私にとっては特別な存在といいますか…個人的な怨みもあるのです。」

「怨みだって?」

 アレクの言葉に、公爵、そしてルーク、セリアが怪訝な表情を浮かべる。

「アレク様……。」

 ここで初めてオットーが声をあげ、主人…といってもオットーとアレクは見た目には親子ほどに年が離れているようだが…を心配そうに見つめる。

「いや、良いオットー。もう隠すこともないだろう。」

 アレクはオットーを安心させるように少し微笑み、一度深呼吸すると、キリッと表情を引き締め、ルーク、セリア、アーク公爵を見つめ、口を開く。

「私の故郷は…、白の魔王によって滅ぼされました。」

 アレクの言葉に、三人が眼を見張る。

「私は、ザガイア神聖帝国の生き残りです。」



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