4部
「ラズ・・・た・・・カレンちゃん・・を・・」
ノイズが混じった通信だった。キツネの方のラズからだ。カレンが首を傾げてこちらを見ている。その時だった。世界が白に光に包まれた。音が聞こえる。窓ガラスが割れる音。建物が倒れる音。爆発音。悲鳴。カレンが泣いている声。
泣き声がする方を見る。画像がちらつく。カメラが故障している。人影が見える。視界が黒い。赤い。すぐ側にいたはずの少女の元へ急ぐ。
「カレンちゃん。カレンちゃん。」
泣き声が止まない。怪我。病院。電話。繋がらない。地図。カレンを抱き抱えると外に出た。記録していた建物がない。道が無い。方角はあっているはずだ。人の姿は無い。
病院の方へ歩いた。カレンの泣き声が小さくなっている。うた。この前、うたっていた歌を再生する。ノイズが入る。
「ラズ・・・。うた。へた。」
繰り返し再生する。歩き続ける。
病院だ。人影。しかし、返事はなかった。
次の病院を検索。歩く。歩き続ける。人影が見える。一つ。二つ。人影は増えて行く。話しかけても返事はない。みんな同じ方へ歩いて行く。地図を検索する。川?
最優先事項。病院。再び歩く。歌を再生する。
病院だ。人影がたくさんある。みんな座っている。
「怪我しているんです。助けてください。」
何人かがこちらを見る。しかし、返事が無い。
「カレンちゃん。もう少しです。お医者さんに見てもらいましょう。」
短い沈黙。
「ラズ・・・。変な臭いがする。あっち・・・行きたい。」
カレンが指差す方へ歩く。しばらく歩いた。広い場所。公園だ。
人影が集まっている。
「さあ、みなさん。主に祈りましょう。愚かな者達はメギドの火によって、粛清されました。生き残った私たちは選ばれたのです。、主の千年王国へ行くことができるのです。さあ、祈りましょう。」
歓声。
「ここ・・・うるさい・・・あっち。」
カレンが指を指す方角を検索する。離れているが病院がある。歩く。
「ラズ。うたって。」
歌を再生する。カレンが笑った。目を閉じた。歩き続ける。
警告。体内の電力が少ない。役に立たない視覚を切る。外部との通信を切る。行動の記録も切る。歌は再生し続ける。カレンが起きた時に寂しくないように。聴覚は残す。カレンの声を聞き逃さないように。
歩き続けた。ただ、まっすぐ。歩き続けた。