3部
「おはよう。クリード。ラズのこと。ありがとうな。」
「もう、大丈夫なん?」
「ああ、落ちついたよ。」
『お久しぶりです。イワン』
「おお、ラズ。すまんな。忘れっていって。」
「そうだ、イワン。ウィンズロー君が来てたよ。今、教授と話してる。」
「マジ?就職したんだっけ?」
「おっす。イワン。」
「おっと、噂をすれば。なんか社会人って、感じだね。」
「ふっふっふっ。ちゃんと、社会人してるぜ。ところで、イワン、これ買わないか。」
「何?人型のロボット。これ高いんじゃない?」
「安くしとくよ。子供サイズなんだけど。売れなくて。在庫処分。」
「ウィンズロー君。これって、問題になったヤツじゃない?ラズの前の世代のロボットだよ。これの後、人型のロボット作られなくなったじゃない。」
「ちっ。ばれたか。もう、ほとんどタダであげるよ。いる?」
「これって、スペック上げれる?」
「演算装置と記憶装置だけなら、最新のに替えれるよ。このくらいの大きさだから、このくらいかな。」
「お~。すげっ。」
「ラズミンよりずいぶん性能高くなるね。この都市にいる全員分の頭脳を超えちゃうよ。」
「あと、顔のパーツとか変えれる?」
「顔のパーツだけなら。最新のは細かく動くよ~。他の身体のパーツは無いけど。」
「じゃあ、それも・・・かな。結構、高いな。研究費だしてくれるかな~」
「さあ?教授を説得してみたら?」
目の前に、男の顔が映し出された。25から30歳と推測される。
「お~い。見えてるか。」
『その声はイワンですか?』
その男はキツネの頭上に出た文字、グラフ、映像を見ている。
「うん。画像解析も出来てるみたいだ。クリード。そっちは?」
「ちょっと、待って。手がまだ。」
後ろの方から声が聞こえる。
「とりあえず、頭、くっつけて良い?てか、くっつけて。」
「自分で出来ないなら買わないでよ。組み立ててるの僕じゃん。」
「だって、ハードは全然わからないんだもん。」
「あ~、もう。一回切るよ。ラズミンも大丈夫。」
『大丈夫です』
再び男の顔が映し出された。左の方にもう一人、眼鏡をかけた男がいる。
「お、顔が動いた。ちゃんと、見えているみたいだね。」
「イワンですか。」
「うん。そう。3度目の誕生。おめでとう。ラズ。」
「ありがとうございます。」
「まだ、表情が動かないね。ラズミン。」
「プログラムし直さないとダメだな。感情値のところコメントにしたままだ。」
イワンは頭を抱えている。
「まあ、いいや。他は大丈夫かな。歩いてみて。ラズ」
前に1歩、2歩動く。
「お~」
「歩くのは、製品の仕様なんだから歩くに決まってるじゃん。」
「いやいや、クリード君。自分の目で見ると感動するもんだよ。なあ、ラズ」
「わかりません。」
「ぐあ、反抗期か、反抗期がきたのか!」
クリードの笑い声が聞こえる。突然、目の前が真っ暗になった。
「ん?どうした。」
「イワン。ラズミン見て。そっちじゃない。キツネの方。」
「うおっ。演算装置の使用率100%になってる。画像処理の負荷ハンパねぇ。」
「解像度高いまま計算してるじゃん。記録したままだし。」
「ラズ。すまん。一回切るよ。」
「イワン。そっちじゃない。人間の方。」
「あ~~~~~~~もう。」
「だれ?」
女の子はイワンの後ろに隠れてしまった。
「ラズだよ。」
「ちがうもん。ラズはもっと小さいもん。」
この声はカレンだ。イワンがキツネの身体をだす。カレンは受け取ると前に突き出した。
「これが、ラズ。」
イワンが近寄って来る。お腹の圧力計に反応が合った。キツネの頭上に警告マークがでる。
「わっ?」
カレンが驚いた表情を見せる
「何をするんですか?イワン。」
また、お腹の圧力計に反応があった。キツネ頭上の警告マークが増えて行く。
「わたしもやる~。」
真っ直ぐに走って来る。カレンの右手がお腹に当たる。一発、二発、三発。カレンの笑い声が聞こえる。目が輝いている。
「カレンちゃん。こっちもラズだよ。小さいラズは僕が使うから、大きいラズと遊んでね。」
「やだ、大きいラズはさんかくが出ないもん。」
イワンがこちらを向く。笑った。
「小さいラズの方も貸すけど、大きいラズとも遊んであげてね。」
「うん。あそんであげる。」
「どうかしたんですか?イワン。」
「ん?いや、ラズ。凄い悲しそうな表情だったから。」
イワンは楽しそうだ。
「あれ?今日はラズミンこっちのほうなの?」
『はい。こっちですよ』
「ああ、ちょっと。行動の優先順位をつけようと思ってね。スペック高い方は計算中。」
「ふ~ん。でも、さっきから、凄いログ出てるよ。」
「マジ!」
「ほら、ラズミンの頭の上。凄いことになってる。」
「ちょっと、早く言ってよ。」
「自分で見てないからだよ。ご飯食べてないでさ~。」
「待って、麺が延びる。解析しててよ。」
「知らないよ。優先どこで、計算してんのさ。重みの付け方適当じゃない?」
「わからないから。そこの論文に載ってる値で計算したけど。」
「あ~、わかった。同じとこでループしてる。」
「どこどこ?」
「なんか全部の感情値でカレンって、出てきてるけど、全部の値が最大値まで計算されてるよ。」
「マジで、負の感情の時は減算してるはずなんだけどな。それって、ドMじゃね?」
「なんか、ラズミン可哀そう。作った人が変態で。とりあえず、強制終了させるよ。」
『計算中です。電源を切らないでください』
「いいよ。クリード。切るしかないから切って。」
「え~、自分でやりなよ。壊れたら嫌だし。」
「ちっ。じゃあ、またな。ラズ」
「カレンね。絵、描いた。」
「お、どれどれ。」
イワンと一緒にカレンが書いた絵を覗き込む。大きい丸の中に小さい丸が三つ。丸の上の方が黒く塗ってある。それが、4つ。
「これは誰?」
イワンが一番大きいのを指差した。
「これ、カレン。」
「じゃあ、これは」
イワンが二番目に大きいのを指差す。
「これは、ママ。」
「じゃ、これは?」
「これ、ラズ。」
「じゃあ、残ったのは。僕?」
「んん。それは、ちっちゃいラズ。えへへ。」
イワンが両手を机に着き頭を下げている。
「くそ、ラズ、お前、何うれしそうな顔してんだよ。」
「ラズ、変な顔~。」
「そうだ、ラズ。お前も絵を描いてみろ。」
イワンが紙とペンを渡す。目の前の光景を描き始める。
「じゃあ、その間。折り紙しよう。はい。カレンちゃん。」
「えへへ。」
「イワン。終わりましたよ。」
記録した映像の通りにイワンとカレンを描き終えた。
「早っ。うわっ。できそこないの写真みたいな絵だな。お前の絵には心がこもっとらん!」
「こもっとらん。」
二人は腕を組み偉そうな態度だ。
「ねー。」
「ねー。」
「ほら。カレンちゃんも言ってる。」
何故か、息がっぴったりだ。
「イワン。カレン。ラズ君。お祈り行くわよー」
イワンは紙で折った飛行機を飛ばした。歪な形の紙飛行機はすぐに落下した。
「よし、行こうか。カレンちゃん。」
イワンが両手を出すと、カレンが両手を上げる。
「ぐっ。重い。」
イワンが頼りなく歩きだす。
「イワン。なんで、お祈りに行くのですか?」
「ん~、大事な人に会いに行くためかな。」
そういうと、イワンは空を見上げた。
「へー、これが、ラズミーヒンか。人間にしか見えないね。いや、人間にしては、整い過ぎているか。」
始めてみる男が目の前にいた。初老の男だ。観察されている。
「学部長。何か用ですか?」
イワンの声がいつもより低い。
「論文の発表会の前に、実物を見てみたくてね。」
学部長の目はこちらを見たままだ。
「概要は読ませてもらったよ。発表の内容は、まあ良いとしよう。」
学部長がイワンの方を見る。イワンは無表情だ。
「これは、昔、問題があったロボットと同じ型だろ。倫理の問題はどうする。主を冒涜する行為ではないのか。研究者の前に一人の人間としてどう思うのかね。イワン君。」
イワンは無言だ。
「発表の時までに回答を考えておきなさい。」
学部長は研究室から出て行った。
「学部長も優しいね。」
クリードは論文を書きながら言った。イワンはため息をつく。
「ちょっと、トイレ行ってくる。」
イワンはよろよろと出て行った。
「クリード。問題とは何ですか?僕は欠陥品ですか?」
「いや・・・、欠陥品は僕ら人間だよ。」
クリードは論文を書く手を止めない。僕はネットにアクセスして僕の製品番号を調べた。
「僕の製品情報には、プロテクトがかかっています。なんですか?」
クリードがこちらを見て笑った。
「ラズミン。きみは大事にされているよ。」
トイレの方からイワンの雄たけびが聞こえる。
「このバカップルめ。」
イワンが少し離れたところで言った。カレンは大きな声で歌っている。家で見ていたアニメの歌だ。すれ違う人たちが振り返り笑う。カレンの手は僕の手をしっかり握っている。
「本当にバカップルみたいね。ラズ。うちの息子になってくれたらいいのに。」
「姉さん・・・。ラズ、成長しないから。」
「成長しないなんて、素敵じゃない。ずっと、可愛いままなんでしょ。」
「この馬鹿姉め。人の気も知らずに」
イワンが殴られる。仲が良いのかわからない姉弟だ。
「よお。イワン。」
懐かしい声だ。この声の波長はアレンだ。車の中から手を挙げている男がいる。車の運転席中央に2足歩行のネズミが見える。
「おお、久しぶりだな。卒業式以来か。」
「ああ、そうだな。お前はまだ、ラズの研究か。ラズはまだ動いているか?」
「あそこにいるぜ。」
イワンがこちらを指差す。アレンがこちらを見る。
「ん?どこだよ。」
「おいラズ。」
イワンに呼ばれて、車のそばまで歩く。
「な?これが、ラズか?」
アレンの口と目がこれ大きく開く。イワンがニヤニヤしている。
「こんなに、大きくなって。俺のラズは?」
「あっちも使ってるよ。ときどき。」
手が引っ張られる。カレンが不満そうな顔だ。
「あ、カレンちゃんだろ?覚えてるか~。覚えてるわけないか。そうだ。」
アレンがネズミを取り出し、頭上に出た画面をいくつか押す。ネズミが踊りだす。子供向け番組で人気の踊りだ。
「かわいい!名前は何ていうの?」
「アルだよ。可愛いだろ?」
「うん!」
カレンが一緒に踊りだす。イワンとアレンが笑っている。
「あ、そうだ。イワン。アレ見に行くか?ニュースで話題の新エネルギーってヤツ。学院の近くだろ。研究所。うちの会社も絡んでんだよね。」
「来週だっけ?行こうかな。でもな。姉さんが出かけるからカレンちゃんを預かることになってるんだよね。ラズひとりで大丈夫かな?」
「ラズなら、あんたより安心できるから大丈夫よ。」
アレンが笑う。イワンは口を尖らせている。
「じゃあ、来週はカレンちゃんを頼むよ。ラズ。」
「はい。まかせてください。」
カレンの方を見る。アルと一緒に踊っている。可愛い。
「アレ?また、こっちのラズミンなの?」
「もう。人間のラズは電車で止められるからな。家に置いてきた。」
『イワンは貧乏です。』
「一言、余計だっつーの。」
頭の上に警告マークが出る。
「ハハハ。誰に似たんだか。」
「そうだ。次の日曜にアレ見に行くんだよ。最近話題の新エネルギーの臨界実験。」
「大丈夫なの。反対派の人たちが抗議してるよ。」
「神の意志に背くって、やつだろ?でも、これが成功すれば、エネルギー問題は解決するんだぜ。」
「そうだけどさ。本当に大丈夫なのかな。調べても、機密文書で閲覧権がないんだもん。」
「だから、見に行くんだよ。気になるだろ?」
「気になるけどさ。僕はこの前の論文の方が気になって」
「うっ!さて、論文書くか。」
「まだ、再提出してなかったの?」
「・・・うん。」
二人の会話を録音しながら、家に置いてきた、身体にアクセスする。そこからネットにアクセスする。研究所の実験について検索する。アクセスできる範囲では、賛否両論だ。情報が多すぎる。解析が完了するのは1ヶ月後という予測だった。処理をキャンセルする。
『イワン。実験について教えてください。』
「ん?後でな。今は、俺の未来がかかっている』
イワンの論文を音と唸り声は深夜まで続いた。
明日、イワンが見学に行く実験について、ニュースが流れている。
討論形式で収拾がつかなくなっている。
「イワン。僕は人の心がわかりません。」
「どうした?」
「なぜ、こんなにも一つの事柄でいろんな意見が出るのですか?」
「おれも、わからん。」
「イワンもわからないのですか?」
「他人の心がわかるヤツなんて、居ないよ。俺の心なんか覗かれたら恥ずかしくて死んじゃう。」
イワンが笑う。顔が赤い。
「でも、僕には覗かれる心すらありません。」
イワンが上を見る。
「心は、どこにあるか知ってるか?」
答えれなかった。今までにいくつもの回答をイワンから入力されている。頭、胸、答えがどれかわからない。
「俺とお前の間にあるのさ。俺がいて、お前を見る。それで何かを感じる。どちらが欠けてもダメなんだよ。」
「どういうことですか?」
「お前にも心が存在するって、ことだよ。」
イワンは笑うと、コップに入った飲み物を一気に飲み干した。そのまま、ソファーに倒れ込む。鼾が聞こえてくる。
僕も寝ることにした。寝るといっても、今までの記録の整理だ。記録のネットワークを整理する。心。今日、新しく情報が加わった。記憶領域の優先度の高いところに移動させた。
「イワン。いつまで寝てるの。お姉ちゃんもう行くからね。」
「あ~、頭痛い。呑み過ぎた。」
イワンが頭を押さえてゆっくりと起きる。
「おじさん。寝ぼすけ~。」
「お~、カレンちゃん。ヒゲぐりぐりこうげき~」
イワンは抱きつくとあごをカレンの頬にこすりすける。
「痛い。お酒臭い~。」
カレンが思いっきり、イワンの顔を殴る。
「ぐあ~、ん?ラズ、今何時だ。」
「10時ですよ。」
「な、遅刻だ。」
カレンを僕に抱っこさせると、ソファーにかけてあった服を持ってドアに手をかける。
「イワン。」
「どうした?」
「ありがとう。」
「急になんだ。どこか壊れたか?」
イワンは笑う。カレンに手を振ると、走って出かけて行った。




