【第四章時点の主な登場人物まとめ】
※年齢は本作設定の数え年です。
※永禄五年/一五六二年、第四章終了時点の内容を含みます。
※史実・通説とは異なる独自設定を含みます。
※一部、本文中で年齢を明記していない人物は年齢表記を省略しています。
※第四章では、明国より流れ着いた鉄匠一家が登場します。
■藤乃
数え二十六歳。
柴田勝家の妻。柴田のお藤の方。
かつては尾張守護・斯波義統の妹で、義銀と義冬の叔母。
柴田家に入ってからは、帳面・兵糧・人手の差配など、実務面でも家を支えている。
第四章では、勝家との第二子・紫乃を出産する。
産後二月ほどでまだ本調子ではないにもかかわらず、明国から流れ着いた鉄匠一家の事情を聞くため、清洲へ向かうことになる。
言葉の通じない相手にも、まず腹を満たし、身体を休ませ、名を聞こうとする人。
本人は「飯を出しただけ」と思っているが、その飯が、異国の一家にとって尾張で根を下ろす最初の一歩となる。
■柴田勝家
数え三十歳。
織田家家臣。通称・権六。藤乃の夫。
本作では天文二年(一五三三年)生まれという独自設定。
鬼柴田と呼ばれる武将だが、藤七丸や紫乃を抱く時は、戦場よりも真剣な顔になる。
第四章では、明国の鉄匠一家を柴田邸で預かる役目を信長から命じられる。
彼らを守るため、使うため、そして危うい技術を不用意に外へ出さぬため、厳しく囲う立場となる。
藤乃が無理をしないよう「寝ろ」「紙を持つな」「筆を持つな」と何度も止めるが、だいたい止めきれていない。
■藤七丸
数え三歳。
藤乃と勝家の長男。のちの勝信。
名は、藤乃の「藤」と、権六の次の「七」から取られた。
よく歩き、よく転び、よく立ち上がる柴田家の若君。
妹・紫乃が生まれたことで「あにうえ、だぞ」と真剣な顔をする。
※かわいい。
まだ幼いが、本人なりに兄として振る舞おうとしている。
なお、木下藤吉郎のことを「さる」と覚えた。主に信長のせいである。
■紫乃
数え一歳。
藤乃と勝家の長女。
生まれたばかりの柴田家の姫。
名には、藤の花の色、紫の色、そして藤乃の名から少しだけ繋がる音が込められている。
藤乃は、この子がただ誰かの娘としてだけではなく、己の名を持って生きていけるようにと願って名付けた。
藤七丸にとっては大事な妹。
勝家にとっては、壊れ物のように抱く小さな姫。
■斯波義銀
数え二十三歳。
尾張守護・斯波義統の嫡男。藤乃の甥。
新たな斯波家の当主として立ち上がり、現在は信長の側近として働いている。
第四章では、明国の鉄匠一家との筆談に大きく関わる。
土に書かれた漢字を読み、尾張側へ伝え、さらに紙へ記録する役目を担う。
かつて藤乃に教えられた文字や礼、記録の意味が、信長のもとでの実務と結びつき始めている。
後年、『藤乃叔母上覚書』を書き残す人物でもある。
■毛利琴
数え二十歳。
毛利新介の妹。
信長の猶子となり、織田家の姫として義銀に嫁いだ。
人の顔色や傷の具合を見るのが上手く、無理をする相手を止められる娘。
第四章では表立った出番は少ないが、新しい斯波家の奥を担う存在。
無理をしがちな義銀にとって、家に戻った時に止めてくれる大事な妻。
■於光
数え三十七歳。
柴田勝家の姉。
柴田家の奥向きを取り仕切る、強く頼もしい女性。
藤乃の産後、藤七丸と紫乃の世話、客人対応、明国の一家の受け入れなど、柴田邸の内側を的確に支える。
藤乃が無理をしようとすると、勝家や八右衛門と共にすぐ止める側。
だが、藤乃に必要なものを先回りして用意してしまうため、結果的に藤乃の動きを支えてしまうこともある。
■渋川八右衛門
数え三十九歳。
柴田家の家令。於光の夫。
藤乃の知識や計算方法を、柴田家の実務へ落とし込む人物。
帳面・兵糧・人員管理など、柴田家の内政面を支えている。
産後の藤乃の体調を気遣いながら、明国の鉄匠一家を受け入れるための実務にも関わる。
藤乃が動くたびに心配し、確認し、止めようとするが、やはり完全には止めきれていない。
■渋川勝豊
数え十七歳。
八右衛門と於光の息子。
父譲りで現実を見る目があり、母譲りで気配りと度胸もある。
第四章では、明国の鉄匠一家について、名、続柄、確定事項と推測の区別、出身地、倭寇との関係、作れる物、必要な道具、火器について知る範囲などを横で書き留める。
藤乃が言ったことを、藤乃より整理して紙にまとめられる子。
藤乃からは幼い頃から見ているため、「勝豊」と呼び捨てにされている。
■木下藤吉郎
信長に「猿」と呼ばれる男。
後の羽柴秀吉にあたる人物。
よく動き、よく見て、よく拾う。
寧々と向き合い直し、心を通わせた結果、ついに実子・猿丸を得る。
第四章では、知多の浜で明国の鉄匠一家を見つけ、見捨てられずに清洲へ連れ帰る。
その判断自体は情のあるものだったが、手順を違えたため、信長に厳しく叱責される。
「情で動く時ほど、手順を違えるな」
その言葉を腹に刻むことになる。
■寧々
数え二十五歳。
木下藤吉郎の妻。
十六歳で藤吉郎に嫁ぎ、長く子が宿らないことに苦しんできた。
第三章で藤吉郎と向き合い直し、実子・猿丸を産んだ。
第四章では直接の出番は多くないが、藤吉郎が明国の一家を見捨てられなかった理由の一つに、寧々と猿丸の存在がある。
子を抱いた女。
腹に子を宿した女。
老いた父母。
その姿を見た藤吉郎は、己の妻子を重ねてしまった。
■猿丸
数え一歳。
木下藤吉郎と寧々の長男。のちの秀信。
藤吉郎らしい幼名をつけられた木下家の若君。
寧々はその名を笑って受け入れた。
柴田家の紫乃とは同い年。
後に、藤七丸、紫乃、猿丸の三人は、不思議と兄妹のように育っていくことになる。
■織田信長
数え二十九歳。
織田三郎信長。尾張の織田弾正忠家当主。
桶狭間で今川義元を討ち、歴史を大きく動かした人物。
第四章では、木下藤吉郎が独断で連れ帰った明国の鉄匠一家を厳しく扱う。
ただし、それは単に異国の者を疑っただけではない。
彼らの技術、特に釘、荷車、そして西洋火器に繋がる知識の価値と危うさを見抜いたためである。
守るために囲い、使うために管理し、奪われぬために柴田邸へ預ける判断を下す。
■織田信行
数え二十七歳。
信長の弟。通称・勘十郎。
兄の隣に立つと決めた若君。
第四章では、明国の鉄匠一家をめぐる信長の判断を間近で見る。
義銀とは互いに礼を崩しすぎず、距離を置きすぎない呼び方として、信行は義銀を「義銀殿」と呼び、義銀は信行を「信行殿」と呼ぶ。
釘や荷車の価値を見ながら、兄が何を危ういと見ているのかを理解していく。
■陳宗鉄
読みは、ちんそうてつ。
明国より流れ着いた鉄匠一家の老父。
釘、農具、鍋釜などを作ってきた職人。
息子たちが西洋火器を見て、その仕組みを理解し、作ろうとしたことで、一家ごと処刑されかける。
家族を守るため、旧知の商人の助けを受け、倭寇まがいの者たちに財を渡して海へ出た。
尾張へ流れ着いた後、土に文字を書き、藤乃や義銀たちと意思を通わせようとする。
「妻、嫁、孫に罪はない。腹の中の孫にも罪はない。どうか我が家を救ってほしい」
その願いが、尾張で彼らの運命を変えることになる。
■林玉蘭
読みは、りんぎょくらん。
陳宗鉄の妻。
明国より逃れてきた鉄匠一家の老母。
海を越える逃避行を生き延び、尾張へ流れ着く。
幼い阿春や、腹の大きい李雪蘭を気遣いながら、異国の地で家族を支える。
言葉は通じない。
それでも、藤乃たちが女と子と年寄りを雑に扱わないことを、少しずつ感じ取っていく。
■陳承鋼
読みは、ちんしょうこう。
陳宗鉄の長男。
慎重な手を持つ鉄匠。
釘を真っ直ぐ打ち、木を割らずによく留まる品を作る腕を持つ。
弟・承明と共に西洋火器を見て、その仕組みを理解し、作ろうとしたことで一家が危険に晒される。
尾張では、まず「我、承鋼」と土に書き、自分の名を伝える。
家族を乗せた荷車の車輪を撫でる姿からは、職人としての誇りと不安がにじむ。
■王明玉
読みは、おうめいぎょく。
陳承鋼の妻。
幼い阿春の母。
明国からの逃避行を経て、夫や家族と共に尾張へ流れ着く。
尾張に着いてからも、阿春の袖を握る手や、家族を見守る姿に、異国で生き延びようとする母の強さが見える。
■阿春
読みは、あしゅん。
陳承鋼と王明玉の幼い子。
陳宗鉄と林玉蘭の孫。
明国から海を越え、尾張へ流れ着いた幼子。
粥を少しずつ与えられ、母の袖を握ったまま不安そうに周囲を見る。
藤乃がまず飯を出した相手の一人。
■陳承明
読みは、ちんしょうめい。
陳宗鉄の次男。
好奇心の強い手を持つ鉄匠。
兄・承鋼と共に西洋火器を見て、その仕組みを理解し、作ろうとした人物。
尾張では「我、承明」と土に書き、自分の名を伝える。
釘だけでなく、馬で引ける荷車についても身振りと文字で伝え、実際に作ってみせる。
覚えたばかりの尾張の言葉で「ありがとう」と言おうとする姿が、彼らがこの地で生きようとしていることを示している。
■李雪蘭
読みは、りせつらん。
陳承明の妻。
腹に子を宿したまま、明国から海を越えてきた女性。
尾張へ着いた時点で身重であり、藤乃や産婆たちから特に身体を気遣われる。
清洲から柴田邸へ移る際には、承鋼と承明が作った馬で引ける荷車に乗せられる。
彼女と腹の子の存在は、陳一家をただの職人集団ではなく、守るべき家族として藤乃たちに強く意識させる。
■李雪蘭の腹の子
陳承明と李雪蘭の子。
第四章時点では、まだ母の腹の中にいる。
陳宗鉄が「腹中の孫にも罪はない」と土に書いたことで、藤乃の心を強く揺さぶる存在となる。
尾張に流れ着いた陳一家が、過去だけでなく未来も抱えていることを示す命。
【補足:第四章における史実との相違点について】
本作は、史実・通説を下敷きにした戦国IF作品です。
第四章では、木下藤吉郎と寧々の間に実子・猿丸が生まれています。
これは本作独自の大きな改変です。
史実における豊臣秀吉と寧々の間には実子はいないとされますが、本作では第三章で夫婦が向き合い直した結果として、猿丸が生まれています。
また、藤乃と柴田勝家の間にも、第二子・紫乃が生まれています。
こちらも本作独自の改変です。
さらに第四章では、明国より逃れてきた鉄匠一家が尾張へ流れ着きます。
陳宗鉄たちは、史実上の特定人物ではなく、本作独自の登場人物です。
彼らは西洋火器の知識を持つ可能性がある危うい技術者である一方、釘、農具、鍋釜、荷車の金具など、暮らしと物流を支える技を持つ職人として描いています。
本章で重要なのは、いきなり火器ではなく、まず釘と荷車から始まることです。
刀や槍のように華やかではありません。
けれど、よい釘は家を支え、よい荷車は兵糧を運びます。
兵糧を運べることは、戦の形を変えていきます。
本作では、そうした地味な技術の積み重ねもまた、異なる歴史を作る力として描いています。
【コメントでいただきました津島について】
コメントにて、津島についてご指摘をいただきました。
津島は、尾張における商業・水運の重要地です。
尾張の物流や商業を考える上で、かなり大きな場所であると認識しております。
ただし、本作では、津島については「尾張における商業・水運の重要地」として想定しておりますが、第四章時点ではまだ作中に直接登場しておりません。
また、第四章時点では、明国との交流に慣れた商人や、明国より流れ着いた者たちの事情をすぐに聞き取れる通訳者が、信長たちの手の届く範囲にいる、という設定にはしておりません。
本作において、異国との交流に慣れた人々が集まりやすい場所、いわゆる国際都市に近い場所としては、堺を想定しております。
また、遠方では五島列島、対馬等も、異国との往来や伝手がある場所として考えております。
そのため第四章では、津島へ人を送ればすぐに通訳者が見つかる、という流れにはせず、義銀たちが漢字を用いた筆談によって、明国より流れ着いた鉄匠一家の事情を聞き取る形にしました。
もちろん、フィクションとしての面白さを優先した整理でもあります。
津島を軽視しているわけではありません。
むしろ尾張における商業・物流の拠点として、津島の重要性は本作内でも大きいものと考えています。
ただ、今回の明国の鉄匠一家については、商業地としての津島と、異国語・異国事情に通じる人材が集まりやすい場所とを、本作内では少し分けて描いております。
史実・通説を下敷きにはしておりますが、本作はあくまで戦国IF作品です。
人物配置、情報の流れ、地域ごとの役割についても、本作独自の整理を含んでおります。
その点を踏まえて読んでいただければ幸いです。




