第2章
俺と篠原さんは、仲がよかったわけでもない、ましてや付き合っていたわけでもない。
良くいえば、クラスメイト。悪くいえば、知り合いの他人。
彼女と俺をつなぐ言葉は数えられるほどしかない。
それでも。それなのに。
俺は、そんな無色な関係に意味を見出したかったんだ。
色づかないでいい、何色にもそまらないで。
それからのことは、記憶をいくらたどってもよみがえることはなかった。気づいたら、ベットに座っていた。
維は帰ったのだろうか。今は何時なのだろう。シーツをきつく握った。
無だった。考えなくてはならないことは、たくさんあるはずなのに、思考がまとまらない。
とにかく息がつまる。呼吸をしなくては。息を吸うのだ。
人間ってこんなことを無意識にできるんだな。生きるとは貪欲だ。どこまでもどろどろしている。
自分はこんなに足掻く醜いいきものだったか。
俺は耐え切れずに窓をあけた。しめった空気が俺をつつむ。とにかく体に俺以外のものをとりいれたくて、大きく息を吸い込んだ。
ちらほらと外灯の明かりや、部屋からこぼれる光がみえる。なぜだか安心した。俺はたまに自分の気持ちが分からなくなる。それがいまだ。
鏡をのぞいても、自分を見出せないのと同じで、俺は俺自身が一番わからないのかもしれなかった。
ちらり。
きらりぴかりとなによりも目をひく光をみた。
昔はそんなでもなかった気がする。
俺は純粋に喜怒哀楽を表現していたのだ。
うれしいときは笑い、耐え切れないときは泣いたりもした。
あっ、維も昔はいっしょになって顔をゆがませてたなあ。
でもいつの日か、維はあまり表情を出さなくなった。俺は、維が変わりつつあるときも、隣りで笑って泣いて怒っていた。それが俺と維の絶対的な違いなのだ。
維は無事に人間になれた。
俺はみごとなりそこねたのだった。
それは誰かのためのウソだったはずだ。はじめはちゃんと。俺はウソをついている自覚があった。
そんな自分が嫌いだと思えた。
なのに。
いつしか麻痺していった。
俺のこの笑い声はなにで出来ているの?
君を励ますこの腕は、君を突き放すためのものになり下がったのかもしれない。
誰かを思って流れる涙は、俺の幸せを再確認するための物質なんだ。
それを自覚した日、誰かのためのウソは俺のためのウソになった。




