◆一話『後輩の生まれ方』-1
――後輩ができた。
「天木先輩っ!」
初秋を過ぎ、秋も半ばとなった今日この頃。
衣替えによって羽織ったブレザーの防寒性能を丁度良く思う。そんな日である。
どうしてそんな中途半端な時期に後輩ができたのだろう? 別に俺は中途採用の多い職場で働いているわけではない。そも学生である。高校生である。
高校生における後輩というのは、ある日突然できるようなモノではない。年度の初めに百人近く自然発生するものである。……その表現もどうかと思う。
とはいえ、実際にその百人近くのそれらを見て『後輩』として認識することは少ない。精々が『新入生』で、だいたいは『同じ学び舎に入ってきたなんか』程度だ。そこから『後輩』としての確かな認識を持つに至るには他のプロセスが必要になる。
一番お手軽なのは、自身の所属する部活動に新入生が入ってくることだ。縦社会の縮図ともいえる部活動では、否が応でも上下関係というものを意識することになり、そこで明確な『先輩』と『後輩』という認識が生まれる。
俺が所属する部活動は最大手なので、今年も大量の新入生が入部している。
ただ、我らが帰宅部は極めて個人的な活動競技であるため、部員同士での交流が限られていたりする。実力や成果による主義などでもないため、年功序列が発生しないのだ。
……まぁ要は、俺は部活動に所属していないので、部活での後輩獲得イベントなど発生しえないというわけだ。
その他にも『委員会』やら『学校行事関連の役員』やら『アルバイト』やらがあったりするのだけれど、そのどれにも俺は該当しない。二年生の秋に至るまで、そういったイベントごとには悉く関わらなかったのが俺である。
「こうして考えると、俺の青春ってわりと灰色だなぁ」
「無視ですか? ねぇ先輩? 無視?」
そういった所属などとは別の――以前から知己であるなどの理由で――面識のある年下がいるわけでもないため、後輩と呼べるような――思えるような存在はいなかった。
「せんぱーい? あまぎせんぱーい? あまぱーい?」
では、どうして今になって「後輩ができた」などと言っているのかというと、
「なんだよ後輩」
隣で騒ぐ少女に視線を向け、言葉を返した。
「あっ、やっと返事した! 一緒に帰りましょうよ! 先輩っ!」
そう言って、少女は俺の腕に自身の腕を絡めてくる。
一学年下の可愛い女の子に『先輩』などと呼ばれれば、それを『後輩』と認識するのは当然の帰結であろう。