134 不穏な影
遅くなってすいません。
「それでは、明日までに準備をしておけばよいですか?」
「そうだな。でもそんなに大層な準備はいらないぞ。村に戻るにしても俺が転移で連れてきてやるから」
「転移ですか……」
村に戻ってきて、再びズーグの家でそんな会話をする。
軍への顔つなぎや連携のことがあるから、王都(かマイトリス)に来てもらおうという訳だ。
まあ、ズーグだけならさして気にしなくてもいいかもしれないけどな。
今回は一緒に戦ってくれる二人の竜人(暗褐色の方がオクタ、暗緑色の方がリルドと言うらしい)との兼ね合いもあるから、必要なプロセスだろう。
それにしても、転移と言った時のズーグのリアクションたるや。
以前に転移を行った時の経験を思い出しているのか、渋面と言うにふさわしい表情である。
「今回はガッツリ魔法耐性装備を借りてくるから、そんなに心配しなくてもいいぞ」
「いえ、心配などは」
頑なな反応だが嫌がってるのは明らかである。
ズーグですらこれなのだから、初体験のオクタとリルドも転移をしたら酷い酩酊に面喰うだろうな。耐性装備がどこまで仕事をしてくれるかは未知数だし。
それも含めて、決戦の時にいきなり経験するよりは良いと考えよう。
いつ決戦が始まるか分からない以上、オーフェリア王国側にずっと逗留してもらう訳にもいかないしな。
「それで、旦那はこれからどうされるのです?」
「俺か? 俺はしばらくここに通わせてもらって、あの魔法を使いこなせるようにしようと思ってる。迷宮内部はフェリシアが決戦のための大広間みたいなのを作ってるらしいけど、爆発の範囲はさっき使ったヤツより狭くしないといけないだろうからな」
範囲を狭めると威力は上がるが、その分制御は難しくなってくる。
場合によっては込められる弾丸の数が変わってくるかもしれない。
その辺りを調べていこうという訳だ。
「ポータルバニッシュメントについて、私の方から一つ提案が」
「へえ、なんだ?」
「発動地点を事前に察知する方法が何かないかと思いまして」
聞けば、どうやらズーグは俺がポータルバニッシュメントを多重、連続して発動させているのを見て、自分がポータルが発動している地帯でどう戦うかを想像していたらしい。
ポータルに掠ったら大ダメージなんだが、よくそんな危険なことを思いつくものである。
「敵にあれを察知できる者が居ないとも限りません。追い込む、誘導する……あるいは回避しようとした相手の隙を突くというのが、使い道としては考えられるのではないかと。そのように思いました」
「なるほど……」
コカトリス戦で使ったような、魔法を障害物に見立てた連携ということか。
ズーグは俺とチームを組んでからずっと、魔法と近接戦闘の連携を考えてきたわけだからな。そこからの発想ということだろう。
「分かった。ちょっと心当たりもあるし、師匠に可能かどうか聞いてみよう。無理だったらこの話は無しか、あるいは声出しで指示するかって感じになるかな。その時間があるかは分からんが」
俺がそうまとめると、ズーグは承知しましたと頷いた。
その後、俺は席を辞して、転移でひとまず帰宅することにした。
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「ほう、ズーグがそんなことを」
帰宅した翌日、俺は早々にアルメリアに事情を話し、相談を持ち掛けた。
実用に関しては彼女も流石に知見が薄いらしく、興味深げな反応である。
「それで、以前言っていた魂共鳴って魔法で、似たようなことができるんじゃないかと思ったんだ。優先順位が下げられたって話だったけど」
「あれか。確か明晰と精神防壁を最優先にするからって話をしたんだったね」
「そうそう」
俺の言葉を聞いて、アルメリアが近くにある書類の山をガサゴソ探し、二つの冊子を取り出してきた。
「それなんだけど、ちょうどつい先日経過報告が上がってきてね。二つの魔法は術式の再現に八割がた目途が立ったらしい。しかもマインドプロテクションは、術式を調整して出力を上昇させられたみたいだよ」
そんなことできるのか、とも思うが、流石に英知が結集された学園の研究者というところか。
一つの冊子をパラパラとめくっていくと、そこにはそれらの魔法について記載されていた。強化された新魔法の名前は、勇心と言うらしい。
「ちょっとネーミングが大袈裟に感じるけど……。まぁ人間が邪神に対抗するための魔法と考えれば、ふさわしい名前か……」
「開発に携わった研究者は邪神のことは伝えられてないはずだけど、何か感じ取っているのかもしれないね。神気憑依とかは機密にしているけど、小転移消滅や極大魔力破は公開されてるから」
「確かに……あんな大大大魔法が必要って聞かされれば、想像できるものがあるのかもしれないな。……それで、こっちのもう一つの冊子は?」
俺が冊子を手に取りながら言うと「それはソウルレゾナンスの経過報告だよ」と回答があった。
どうやら対邪神の基礎となる精神防御・精神異常修復の魔法の目途が立ち、改めてソウルレゾナンス開発が着手されることになったようだ。
魂共鳴。
この魔法は使用者と他者の魔力体をリンクさせることで、互いの強化魔法や魔法耐性などを共有し、わずかではあるが平準化させられるというものだ。
基本的には「強化魔法が切れてしまった。でもリンクしている人の強化が切れていないから、多少は強化切れの影響が少なくなる」というような用途になるらしい。
ただ、俺が使用者になった場合、効果が劇的に変わると予想されている。
なぜなら俺には、俺だけが使える覚醒という強化魔法、それに加えて神気憑依による大量の魔力に下支えされた魔法力・魔法耐性があるからだ。
本来低いところを少しだけ助けるようなイメージの魔法が、突出した強化・耐性の持ち主がリンクの中に入ることで、全体を底上げする魔法に代わるという訳だ。
例えば各自で魔法抵抗などを使っていたとしても、俺の耐性が高いことでそっちからも耐性が共有されてきて、実質二重強化になる、みたいな感じである。
もちろん俺の耐性も多少は目減りするだろうが、フル強化状態だったらあんまり気にしないで良いはずだ。
それくらいの開きはあると思うし、そもそも平準化による能力の共有はわずかなもので、問題になるほどの変動は抑制されるみたいだからな。
あと、この魔法にはもう一つ想定されている用途がある。
それは「全体の力を少しずつ分け与えてもらって、使用者に対して強力なバフを施す」というものである。
正直オーバーパワーな効果にも思えるが、未知の相手だし、備えるに越したことはないだろう。
「この魔法の開発に、君の言っている『他者との意思共有』を追加してもらう感じになるかな。こりゃあ研究員たちが短い夜を過ごすのもまだまだ続きそうだね」
そんな風にアルメリアは苦笑を浮かべる。
今の時点でもかなりデスマーチ気味らしいからなぁ。申し訳ないが、頑張ってもらうしかない。
「その補填という訳じゃないが、魔力学の先生のところに行って、ポゼッションを見せてきたらどうだい? 大魔力量が魔法力や魔法耐性に与える影響を知りたがってるらしいから」
「知見が増えれば、多少の苦労は我慢してもらえる……かな?」
「今の時点でも神聖魔法や魂魄魔法の術式がどんどん解析されて行ってて、感謝はされてるだろうさ。でも、もう一押し、ってところだね」
そう言うアルメリアの勧めに従って、俺は後日(明日にでも)、件の先生の研究室を訪れることとなった。
「忙しいのに時間取ってくれてありがとう、助かったよ」
「忙しいのは君の方もだろう、気にしなくともいいさ。……この後は?」
「迷宮に行って、決戦場を確認してこようと思う。準備もかなり進んできたし、実戦の想定もしていかないとだからな」
場所を見て、多重装填・究極魔力破を使う方法を考えて、ズーグの村の近くで試し撃ちをして、あとは精鋭部隊の連中にも見せておかないとないといけないか。
魂共鳴のことも含め、他にも色々。
最初からそうではあるが、やることがたくさんである。
「そうか……個人的な訪問は、しばらく先になりそうだね」
詰みあがったタスクに辟易しながら俺が扉の方に向かっていると、後ろからそんな声が掛かった。
振り返ると、アルメリアはもう手元の書類との格闘を再開させていて目は合わなかった。
ただ、若干耳が赤いようにも見える。
俺もさっさとやることを片付けて、ここに個人的に来る時間を作りたいところだ。
後ろ髪引かれる思いを振り切って、俺はアルメリアの居室を立ち去った。
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と、学園から出ようとしていたところで、イリスさんに捕まった。
どうやらローグレン総帥からお呼びが掛かっているらしい。
フェリシアも、と言われて若干不穏な気配を感じつつ、媒介の宝珠をアルメリアの居室までとんぼ返りで取りに帰り、会議室へと向かう。
その部屋には、総帥だけでなく宰相、更にはヘリオス王太子殿下の存在もあった。
陛下ではなくヘリオス殿下なのは、陛下が現在、近隣諸国との会合に参加するため王都から離れているからである。
メンバーからしても物々しい。
気を引き締めて席に着きフェリシアを呼び出すと、総帥から前置きも何もなく、
「邪神の噂が流れている」
との言葉があった。
なぜ? どこから? 単なる噂なのか、あるいは何か他の……。
そうした考えが巡る。
けれどその思考とは別に、俺の脳裏には邪神との戦いの開戦の狼煙に他ならないと、そんな直観が芽生えていた。
平日忙しすぎて執筆する思考力が残ってないので、今後日曜投稿に変わるかもしれません…
(プロの方々はなんで仕事しながら執筆できるんや)
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