第817話
厄介極まりない。
決闘だとか言って連れてこられたここ厨房で行うのは、当然料理勝負である
こんな事あるんだなと思いながら、俺は用意された食材の山を見つめていた。
それにしても凄まじい量だ。
大抵のものはここで作ることが可能だとと断言できる。
「ここには、このロゼルカ領で収穫したありとあらゆる食材があるわ。ここにあるものを使って、娘の好物を作りなさい。そして、ミレアに食べてもらって、最も評価の高かった者の勝利よ!」
「「!!」」
好物ときたか。
一応、ルナラージャを旅している間、パーティメンバーの好き嫌いは把握しておいた。
特に、ミレアは同室でたまに弁当をくれてやるので、あいつの好物は作り慣れている。
自信はある。
あるにはあるのだが、
「お二方は、普段料理をなさるのですか?」
貴族とメイドがそもそも料理をするのか。
そこが気になっていた。
まさかとは思うが、なんの勝算も無しに挑んでくる事はないだろうと思いながらも念のために尋ねてみてしまう。
すると、
「私は趣味でやってるよっ! すごく趣味だよ!」
なるほど。
すごく趣味なのか。
ここでようやく気づいた。
こいつはきっと、頭が残念な人なのだ、と。
まぁ、自信は伝わってきたし、なんとなく意味はわかった。
「帰ってきたらお嬢様に食べてもらうために頑張ってたんだぁ。だからここは勝たせてもらうよっ! 7年間も一緒にいた実力を発揮してあげる!!」
よほど自信があるらしい。
問題はこっちだ。
チラリと目を向けてみると、
「ふふん、甘くみない方がいいわ。これでも一応、シェフ直々に教わっているんだもの」
「へぁぇ!? 本当ですか奥様っ!? 私には教えてくれなかったのに!?」
「当然よ。こんな日が来ると思って、シェフには私にかかりきりになってもらっていたのよ」
むくれるシェリア。
とんでもない不正だ。
こんな横暴を許していいのだろうか。
「不正ですっ!!」
言いおったこいつ。
仮にも主人だぞ。
「いいえ、金も実力のうちよ。夫の金だけれどね!!」
不正じゃねーか。
もうド不正だよ。
しかし図太いこの女は、ぐいぐいとシェリアを押し切ってルールを通したのである。
それにしても、シェリアのこの様子からして、ミレーユもあまり身分を気にしない系統の貴族らしい。
印象としては好ましいが、癖が強い。
「さぁ、好きな食材を選びなさい。幸い奪い合いになる程少なくはない筈よ。器具はそれぞれ自分で用意するように」
ミレーユはそういうと、2人とも各々自分が使う食材を選別し始めた。
食材を見る限り、作ろうとしているものは大体同じ。
俺もざっと見て食材を手に取る。
質の良さは見ればすぐに分かった。
問題はなさそうだ。
俺は適当な調理器具をとって、まな板の前に立った。
「それじゃあ合図をしたら一斉にスタートして頂戴。言っておくけれど、終わった順番で料理を運ぶ事。もちろん歩いてね」
なるほど。
仕組みは理解した。
これは、早く作った方がより有利になる。
結局皆同じものを作るのだから、後になった方が飽きられて評価が下がる可能性がある。
ちなみに作るのは、いわゆるシーザーサラダだ。
まぁ、中心となる食材がレタスやチーズではなくこの世界の食材なので、シーザーサラダとはいえないのだが、かなり味が近いので、シーザーサラダということにしている。
ベジタリアンというわけではないし、肉も好んで食べるのだが、ミレアは野菜をとりわけよく好んで食べている。
おやつがわりに特製ソース付きの野菜スティックを出すと、食い意地を張っていると思われたくないのだろう、素っ気ない礼を言うのだが、こっそり覗くとこれがまた幸せそうに食べるのだ。
一度見つかった事で砂鉄に埋められそうになった事はまた今度話すことにしよう。
「では、用意——————」
ああ、よかった。
火を使う料理じゃなくて。
これなら、確実に俺が有利だ。
「——————始めっ!!」
声が聞こえると同時に、野菜を全て上空に放る。
高さは目線の先。
距離は、ちょうど俺の間合いギリギリ。
そして、高さが最高点の達するその瞬間、
「「!?」」
鋭い音が、集まったようになって耳の音で響いた。
すると直後、ボトボトと小気味良いリズムで、切られた食材が皿の上に乗る。
「「………………はぁ!?」」
「こんなものでしょうかね………さて………」
漫画でよく見る、料理の達人が空中で食材を切る技。
ある程度のステータスになると、案外出来るものだ。
ただ、コツはいるので基本は要練習の技術。
暇を持て余した俺のような人物におすすめです。
俺は手が止まった2人を他所目に、さっさとドレッシングを作り、調理用に開発した炎魔法で瞬く間にベーコンを焼き、残った食材を盛り付けて、
「では、お先に」
そう言って、2人を置いてそそくさとミレアの元に向かったのであった。
「………………なん………なんですか、あれ………」
「………………勝負の方向性を………間違えたみたいね」




