第810話
「おぉ!! 意外と様になってるじゃないか!!」
「ハァ………こんな堅苦しい服、また着る羽目になるとはな」
サイズはぴったり。
動きやすさも問題はないが、しかしやはりネクタイというのはいろんな意味で息苦しい。
格式ばった服というのは、こういうところがあるから嫌いなのだ。
「いいじゃないか。似合っていないよりはずっとマシだろう。ただ………………」
やっぱり視線が上へ行った。
言いたいことはわかる。
目つきが悪い、金髪というトレードマークが半分になったのだから。
まぁ、こちらではむしろ目立つとは思うが。
「俺は元々こっちだ。金髪は染めてたンだよ」
髪を摘んで説明をしていると、前髪が僅かに目に入った。
久々に自分の黒髪を目にする。
そう、実は今、魔法による染髪を解除することで元の色、つまり黒に戻しているのだ。
「ほー。それで戻したのはなんでまた?」
「アホか。流石に俺も名前が知れてるだろ? だったら黒髪で印象付けておいた方がバレずに済む。疑われないに越したことはねーしな………って、なんでお前らも着替えてんだよ」
リンフィア達は、何故かメイド服を着させられていた。
流石というべきか、ニールはなかなか様になっている。
元々リンフィアの騎士兼召使いだったからだろう。
リンフィアもまぁ似合っている。
ラビはなんというか、仮装感がすごい。
ハロウィンで見かける子供のような、妙なミスマッチ感を醸し出している。
「私たちは学院長の世話役って事で付き添うらしいです。なんでも………」
手招きをされたので、顔を近づけると、リンフィアはチラチラ辺りを見て、耳打ちをした。
「なんでもそのあとロゼルカ邸でちょっと調べたい事があるんだとか」
今見ていたのはミレアが余所を見ているのを確認したのか。
ニール達と会話をしているのも気を引くためと思われる。
ファリスは一体何を企んでいるのだろうか。
「チッ、あの女………まさかミレアに迷惑をかける気じゃねーだろうな?」
「大丈夫だと思います。会長はこの件に、悪い意味で関わることは無いって断言してましたから………あっ!」
ミレアの気配に気がついて、リンフィアは何事もなかったかのように背を向けた。
まぁ、迷惑をかけないのなら俺から何も言う事はない。
面倒ごとに巻き込まれても、リンフィア達なら早々やられはしないだろう。
「へぇ、ケン君でも格好次第では真面目に見えるものなんですね」
この野郎、バカにしてんのか。
だが、ミレアの言う通り、今回は真面目に見えるようにはしている。
印象は良い方が迷惑をかけずに済むだろう。
「うるせーよ。んで、早速行くんだろ?」
「ええ。表に馬車が用意されているらしいです。一応酔わないようにケン君が以前加工した馬車を使っているので、そこは心配無いと思います」
「そりゃ助かる」
さて、それじゃあさっさと行って、さっさと帰ってくる事にしよう。
「それじゃあ行くぞ。ミレア “お嬢様” 」
「うふふ。両親の前では敬語も忘れないように」
「マジかよ………」
と、この時はまだ、すぐ帰ることが出来ると思っていた。
だが、これから関わる出来事は思った以上に深く、そして後々俺にも………それからあいつにも大きく関わる出来事となる。
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ロゼルカ家。
魔法使いの名門であり、ミラトニアには数えるほどしかない公爵家。
魔法騎士を多く輩出しており、先の戦争でも活躍をしたとのこと。
領地も広く、資産も莫大であり、発言力も強い。
当然、屋敷は相当広い。
馬車に揺られて数時間。
いざそれを目の当たりにして、俺たちは唖然としていた。
門を潜り、屋敷へ着くまで結構掛かった。
しかも、屋敷に近い門だったらしく、この奥にはこれよりもさらに広い敷地があるとの事。
領地そのものも相当広い。
フェルナンキアがある領地も相当なものだが、領地の広さならばロゼルカ領のほうが広そうだ。
そんな広い敷地を進み、ようやく屋敷が見えてきたかと思うと、屋敷の前には使用人がズラっと並んでいた。
見渡す限り女だらけ。
ミレアに対する配慮なのだろう。
「こりゃまた派手な歓迎だ」
「はぁ………」
ミレアはやれやれと頭を抱えていた。
ただまぁ、放任という割にはちゃんとしているのではないだろうか。
そういえば、俺はこいつが男性恐怖症になった理由をまだ知らない。
これを機に知るかもしれない。
「さて」
いよいよ執事になる時が来た訳だが、このままだと素が出てしまいそうだ。
一応、スイッチを入れておく。
こう見えて芝居は得意だったりする。
執事。
そうだ、俺は執事だ。
言葉遣い、所作は問題ない。
後は………………我慢だ。
それだけ意識して、
「とりあえず、成りきれ——————」
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心の準備を整えていると、いつの間にか馬車は停車していた。
ミレアは物憂げな表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。
そして、チラリとケンの方を見た。
すると、
「……………ケン君?」
妙な違和感の塊がそこにいた。
それは扉を開き、馬車を降りるとミレアの方を向き、見たこともないような笑顔を浮かべた。
そして、
「お嬢様、お手を」
と。
そこにいたのは、知り合いの不良ではなく、一人の執事であった。




