第4話
「今すぐ叶えてあげたいとこだけどちょっと待ってもらえるかな?」
「ああ、構わねーよ」
「そろそろ彼らを修行場に送らなきゃいけないからね」
そう言えばそういう話だった。
「1年間会えないんだ。挨拶くらいはしておきたいでしょ?」
「……そうだな」
俺はドアノブに手を掛けた。
「それじゃあ皆が転移した後にね」
神はフッと姿を消した。
「さてと、ちょっくらあいつらに会いに行かねーとな」
俺はドアを開いた。
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「ケンちゃん遅いね。なにしてんだろ……」
「そうだね……」
この2人は薄々気がついていた。
付き合いが長いだけあってケンの性格をよく理解してくれている。
ほかの2人もその表現から事を察していた。
「ねぇ、レンくん」
「なんだい?」
「私たちがケンちゃんを守ろうね」
その言葉には強い意志があった。
日頃のふわふわした雰囲気からは想像もつかないだろう。
ケンたちを除けば。
「……うん、それがいい」
琴葉はスッと立ち上がった。
そして、
「うおおおおおお!」
奇声を上げた。
たまにやる、琴葉式の気合の入れ方らしい。
「ななみん、スズっち、3人で1年間頑張ろうね!」
「おぉー!」
「……ん」
蓮は3人を微笑ましげに見ている一方で誰とグループになるのかを考えていた。
(グループ決め、か。1人余るのは確定だ。恐らくケンはそれになる気だな。こうなったらあいつはテコでも動かないからね。俺も止めないよ。俺はケンが困らないよう直ぐにグループを決めるべきかもしれないね)
「レンくんどこ行くの?」
「俺はグループを誘いに行ってくるよ」
「そっかぁ。行ってらっしゃい」
「うん」
その時だった。
轟ッ、と大きな音が鳴った。
「今の音は……まさか!」
蓮は血相を変えて走っていった。
音の発生源は生徒がいた所。
つまり、
「愚かな……!」
スキルを使って暴れている生徒が1人。
彼のスキルはSSランクのレアスキル。
4人の中の1人でそのスキルは恐ろしく強力だった。
「あれは、一体……」
床に大きな亀裂が入っている。
その中心にいたのは石田だった。
「ヒャハハハッ! つえー! なんだこれ! こんないいもん貰っちまったのかよ!」
こいつのスキルは『衝撃』
使用者が殴って起きた衝撃を何倍にも膨らませるというスキルだ。
SSというだけあって効果は凄まじい。
その威力に周りのクラスメイト達は恐れをなしていた。
「イイイヒヒヒヒ! たまんねぇ、最強だ……魔王なんざヨユーだろ!」
(石田君……君はわかっていない。それがどれだけ恐ろしい物なのか……周りが見えていないんだな。これじゃあまるでオモチャをもらった子供じゃないか)
「オモチャを貰ったガキかよテメー」
「あぁ?」
(なっ、)
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扉を開けると外はかなり騒がしかった。
悲鳴や雄叫びごえが聞こえる。
俺は足早にそこへ向かった。
「なんだ、ありゃ……」
床の亀裂。
叫んでいる石田。
腰を抜かしている生徒。
一目で石田が暴れているのがわかった。
「……しょうもねーことしてんな」
あんな危険な力を使っているのにその危険性を理解していない。
ガキだ。
俺はそれが気に入らない。
だから、
「オモチャを貰ったガキかテメー」
「あぁ?」
「なっ」
横で蓮が見ていた。
なんてことしてんだって目だ。いつものことだが過保護だねぇ。今回も後で言い訳しねーとな。
「誰かと思えば無能くんじゃないですかぁ。ははっ、粋がんなや雑魚が。スキルを持った今は俺の方が断然つえーんだよ! そうだ、前々からお前が気にくわなかったんだよ、ぶっ殺されたくなけりゃ俺の靴でも舐めるんだな! ヒャハハハ!」
「はいはい、もうそういうのはいいからさ、ちょっと黙って大人しくしとけ阿保が」
石田の額にくっきりと青筋が浮かんだ。
完全にキレてるな。
「調子のんなや無能があああああ!!!」
走って来る。
手に当たったら死ぬな。ヨユーで当たんねーけど。
「らあっ!」
右の大振り。
左に体を捌き、避ける。
「ははははは!!!」
顔、腹へのワンツー
首をひねりながら横に避けつつそのまま顔を蹴り上げる。
「ひっ……!」
ギリギリで躱される。
「バーカ」
そのまま踵を落とそうとした。
しかし、手の甲が上を向いていて塞がれる。
これが痛恨のミスだった。
「なんだこ———!? ぎィッ!」
吹き飛ばされた。
俺は空中で円を描きながら飛んでいき、全身を強打。
「……?」
俺もだが本人も何が起きたか理解していなかった。
こいつは無意識にスキルを使い、ガードに使っていた手で俺の足を殴ったのだ。
そのおかげで俺は派手に吹っ飛び、気がついた頃には地面に顔が付いていた。
訳が分からず皆唖然としている。
暫くの静寂の後、1人がこう呟いた。
「石田が、聖に勝った?」
この一言は徐々に伝染し、石田への歓声へと変わっていった。
「すげーぞ石田!」
「あの聖に勝ったんだ!」
「ざまあねぇな。スッキリしたぞ」
「俺らでも勝てんじゃね?」
クラスメイトは完全に石田サイドのようだ。
俺を心配するのはおろか、どうなったか確かめるやつすらいない。
それどころか今までの鬱憤を晴らすかのように暴言を吐き散らしていた。
「ケン……!」
蓮が駆け寄ってきた。
声が出ない。
頭を打ったらしく、意識が混濁している。
「しっかりしろ、ケン!」
目は虚ろなままだ。
気がつく様子はない。
「石田ァ……」
蓮が石田へ向かおうとした。
が、横にいた人物に止められた。
彼女はゆっくり石田に近づいて行く。
「石田君」
「は? なんスか先生」
「聖君に謝りなさい」
場は再び静まり返った。
だが石田は黙らない。
「俺あの無能ヤローになんかしましたか? あいつが勝手に飛んでったんスよ。俺は悪くねーっしょ」
「君が暴れ回るのを止めようとしたからです」
「どっちにしろ俺はあの社会のゴミを掃除しただけっすよ」
「! 貴方ね……」
「い、い、春、もう、なん、も言うな……」
ぼーっとする頭で俺はそう言った。
ゆっくりと立ち上がる。
「あー……足折れてんなー。イテェな畜生」
「お、まだ息あんの? すっげ、バケモンかよ」
完全に調子に乗ったな、というのがわかるくらい声が上擦っている。
こういう相手は乗せやすい。
俺は人差し指をくいくいっと動かして、
「……来いよ。そんな大層なもん持ってこんな無能を倒せねーのか?」
ここからは皆さん予想通り、
「ぶっ殺してやるよ!」
そーらきた。
真っ直ぐ突っ込んで来る。
こいつは喧嘩をしたことないのだろう。
基本的に大振りのパンチしか打ってこない。
そんな奴に丁度いいのをお見舞いしてやろう。
石田は右で肩辺りを狙っている。
殴ってきた。
ここまで打ちやすいのも珍しい。
俺はそれに合わせてカウンターを打った。
「ざまぁねーな」
石田の顔が歪んでいく。
俺はそのまま地面に叩き落とした。
「…………」
石田はピクピクと小刻みに震えていた。
だがこいつは一つ俺に置き土産を置いていった。
「あ?」
脇の下あたりから大量の出血。
肩を狙った手の小指の端っこが掠っていたのだ。
「クソッ、失敗った」
視界が一気に狭まり周りの声が遠くなっていった。
2018年8月12日
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