第1199話
「お前………るーちゃんと一緒にいた………」
「ヒジリケンだ。ケンでいいぞ、ガキ」
ガキ、と呼ばれると、ハルバードはわかりやすくムッとした。
「ガキじゃない。俺にはハルバードって名前があるんだ」
「そうか。でも呼ばねー」
ケラケラと笑っていると、わかりやすく腹を立てているのが見えた。
印象は最悪であろう。
だが、これでいい。
「どっか行けよ。今から散歩するんだ」
ハルバードは俺と目も合わせることなくそのまま横切ろうとした。
しかし、まだ逃すわけにはいかないので、俺は目の前に立ち塞がった。
「………なんだよ」
「無理。ちょっと付き合え」
「はぁ? ふざけんな。そんな勝手、俺が聞くわけないだろ」
「時間割いてわざわざついて来たんだ。お前もちょっとくらい時間割けよ」
目を丸くするハルバード。
ここでようやく尾行されたことに気づいたらしい。
「お前………!! ついてきてたのか!?」
「まーな。ちょっと気になってな」
ハルバードはすぐさまドアに手をかけ、家の中に戻ろうとした。
ここで、一つ燃料を投下した。
「お前、墓地で何やってたんだ?」
「!!」
扉を閉めようとした手がぴたりと止まる。
そして、さらに間髪入れずに続ける。
「家の中の靴はない。でも誰かがいる気配はない。そもそもガキが1人で住むにはデカすぎる家だ。手入れも甘いし、生活感も薄い。ひょっとしてお前………」
「うるさい帰れ!!」
叩きつけるように扉を閉められた。
わかりやすい奴だ。
だが、これで少しは事情がわかった。
あの墓地には、こいつの両親の墓がある。
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「………」
翌日。
こいつの今までの行動パターンからなんとなく墓に向かう時間を予測して待ち伏せしていると、まんまと家から出てきた。
「お参りか? 熱心だな」
「………はぁ……………… 後にしてよ」
「ほう? 後なら良いわけか。ならば待ってやろう」
と、ニヤニヤして言うと、「無理」と言って墓の方まで走っていった。
行くことには行くらしい。
どうせ入らないのに、なんてことは言わない。
受け入れられず、墓に行けない気持ちは、俺にもわかる。
それは罪悪感からか、誤魔化しのためか。
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「………うわ、ホントに待ってるし………」
「この時間に帰ってくるってことは、やっぱ今日も入れなかったんだな」
ハルバードは図星を突かれ、苦い顔を見せる。
そしてそのままこちらを通り過ぎて家の中に入ろうとした。
根気よく付き合ってやるという選択肢もあるが、生憎そこまでお人好しではない。
少し、踏み込ませてもらう。
「お前のその目、一体何を恨んでるんだ?」
「!!」
振り返り様に見せる目には、確かに恨みがこもっていた。
俺に対してもそうだが、それ以上に、何かに対して強く恨みを抱いている。
昔の俺と同じだ。
納得することを良しとせず、何かを引きずっている。
「………お前には関係ないだろ?」
「ああないさ。だが、お前の出方次第で、お前の敵に手が届くかもしれないって言ったら?」
子供は単純だ。
隠すことなく、興味を持った顔を見せてくる。
こんなふうに。
「本当に………………っ!?」
すぐ我に返ってそっぽを向いたが、どうやら何かあるのは間違いないらしい。
チラチラこちらの様子を伺うあたり、気にはなっている。
決まりだ。
「信用するかどうか、決めるのはお前だ。だからまず、話を聞かせろ」
「………………」
ハルバードは、一瞬思案して扉に手をかけた。
そして、振り向いて今度はこう言った。
「………話………話だけっ!………聞かせるから」
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「中は結構片付いてるな」
居間はそこそこ生活感がある。
この部屋は一応きちんと使っているらしい。
「最近るーちゃんが来て掃除してるから」
ルージュリアのことだろう。
あいつにはだいぶ心を開いているらしい。
俺が家に上げて貰えたのも、多分そのおかげだ。
普通なら、こんな初対面の怪しいやつを家に上げようなんて思わないだろう。
「ふーん。階段は埃っぽかったけど、掃除しねーのか?」
「上の階は………その………………かっ、関係ないだろ!」
どうやら触れられたくないらしい。
先程チラッと見たが、上の階は結構埃をかぶってる様子だった。
意図的に足を踏み入れてないようだ。
「で、本当なのか? 俺が、あいつに手が届くかもしれないって」
いきなり本題か? と少し茶化そうと思ったが、かなり思い詰めている。
どうやら、かなり本気で恨んでいるらしい。
「あいつってのは?」
「………」
「それを聞かねーと話が進まねーだろ。ほら、言ってみ」
拳を握りしめるハルバード。
まるで呪うように、その恨みのある相手の名を口にした。
「………………グロッゾ・アーストルム………ここの領主だ」
「領主!?」
予想以上の大物だったためについ声が出た。
「確かなのか?」
「いや、わかん………ない……………でも、きっとあいつなんだ! 犯罪者孤児のみんなの両親だって、俺のお母さんとお父さんだって、きっとあいつが………あ、あいつが!!」
錯乱したように急に口数が増えた。
確かではない。
しかし、関係を見出しているようだ。
「落ち着け。相手が相手なんだ。詳しく教えてくれねーと、対策のしようもない」
「………………信じて、くれるの?」
「!」
縋るような声でそう言われてしまった。
ああ、そうか。
こいつは、きっとこれまでも大人に相談してきたのだ。
だが、誰も相手をするはずがない。
敵に回すかもしれない奴が、権力者なのだから。
「………どいつもコイツも………」
と、憤るのも早計か。
しかし、子供がまあ違っていると決めるのもまた早計だ。
鵜呑みにするわけではないが、聞く価値はありそうだ。




