第1095話
宮殿内にある訓練場にて。
ルージュリアがケンを連れて散歩に出たせいで、他の4人は手持ち無沙汰になってしまっていた。
散策しようにも街には誰もおらず、かと言って宮殿………と言うか他人の家を歩く回るのも憚られるので、今ではすっかり寂れてしまった訓練場を借りて身体を動かすことにした………………が、そこで突然元夫候補とその仲間を名乗る集団に囲まれてしまった。
状況が飲み込めないまま、“ゲーム” について説明され、その後襲いかかって来た男をG・Rが瞬殺したのが、つい先程の出来事である。
「ゲームかぁ。要は、ちょっとした娯楽ってことだよね」
何故か服をひん剥かれて雑に拘束されている男を下敷きにしながら、G・Rはそう言った。
普段とはまた違う、獲物を狩る獣の様な鋭い目つきで場を制している。
「「「………………!!!」」」
やっている事はふざけているが、敵を一度踏みとどまらせるにはいいパフォーマンスであった。
こちらは先に説明を受けた上で襲撃されていたわけだが、それにしても直ぐに戦闘態勢に入り、敵を制圧するあたりは流石は元傭兵だとリンフィア達も感心していた。
「それで、どうしたのミレアちゃん。そんな嫌そうな顔して」
「そっ………それ、早くどこかにやってもらえませんか」
ミレアは手で顔を覆いつつ、下敷きになっている男を指差しながらそう言った。
恐怖症は克服したものの、若干の苦手意識は残っているミレアである。
「これ? まぁ、確かにバッチィよね」
「ひ、酷ぇ………」
既に鉄の鞭でボロボロになっているところを足地突きながらそんな事をいうG・Rに、コウヤは恐怖を感じていた。
まぁ、当の本人は実はよろこんでいたと言う話はその本人とやられ際の顔を見たミレア以外知らないのだが、そんな事はどうでも良かった。
「さて………ま、結局どこの権力者も結局頭がおかしい………なんて事は言わないけれど、これはそう思っても仕方ないよね」
「「「っっ………」」」
静かに、しかしひしひしと感じる怒り。
魔力が呼応し、大気が僅かに震え始める。
G・Rは、ふざけている様で怒っていた。
「ミレアちゃん。ここへの就職はパスしたいから、次の街までついていくね」
「あら、そうですか。まぁ、選べるうちに上司は選んでおいた方が良いですよ。どこかの学園の教師は、サボり癖のある上司の尻拭いをさせられて大変そうですから」
ふふ、と余裕そうなミレアは、どこぞの恩師を思い浮かべながらそう言った。
「くッ………………舐めやがって………………だが、所詮はヒジリケンのおまけだ。余裕ぶっていられるのは今の………うち………」
決まり文句の様な捨て台詞が止まる。
長髪の様な態度に対する苛立ちは、すぐさま畏怖へ転じた。
そうさせたのは、妖精の本能が持つ、王への畏敬。
跪きたくなる様な神々しい姿を見た男たちは、ただ茫然と立ち尽くしていた。
さて、ケンも言っていたが、ここにいる元夫候補とその仲間は勘違いをしていた。
ここにいる皆、決してケンのオマケでも金魚の糞でもない。
立っているのは、後ろではなく横。
例えこの妖精界でだけの事でも、それは確かであった。
「では、そのおまけの力を遺憾なく発揮するとしましょうか」
「「「!!!」」」
我に帰った元夫候補たちは、息を合わせて一斉に飛び退いた。
戦意を失ったわけではないが、目には僅かに怯えが宿っていた。
だが、元々襲うつもりだったせいか、無策というわけではないらしい。
「チィッ………………コケ脅しだ!! 騙されるな!! 予定通り仕留めるぞ!!」
飛び退いたうちの1人は真上に飛び、手をミレアたちに向け、何かを放出する。
すると、
「散れ!!」
ミレアたちの頭上で一気に弾け、吹き出した黒いモヤがあたり一帯を一瞬にして覆った。
武器を構え、失った視界を補填すべく神経を集中させ、すぐに警戒するミレア達。
しかし、少し妙であると、すぐに気が付いた。
このもやは、目眩しにしては、視界が開けており、あまりにも雑すぎる。
つまり——————
「「「!?」」」
だが、そう考えた時わかる至極当然の答えを得た時には、既に手遅れであった。
異変はすぐさまに訪れた。
「っ………………!」
「こ、れは………!?」
ガクンッ、と。
痙攣と同時に、突如全身を襲う負荷で身をかがませる一同。
硬くなった表情と、体を支えるために力む全身の筋肉。
異常な重力が、全身を包んでいた。
武器を持った腕は、やっとといった様子で何とか上げている。
当然、戦うなど以っての外である。
「くっ………」
パタン、とミレアの杖が地面に落ちる。
キッ、と睨む様に空を仰ぐが、視界に映るのは遠くに映る敵の影と黒いモヤのみ。
そんなミレアを見て、一度は怯えていた男も余裕を取り戻してほくそ笑んでいた。
「フン、やはりコケ脅しか」
「貴方……………仲間ごと………」
「あっけなかったな。同情ついでにいい事を教えてやろう。同じ状況でも、やられるとわかっている奴と分かっていない奴とでは、反応も、取るべき行動も、まるで違うという事だ!!」
「!!」
元夫候補が散った方々から現れる、強い魔力。
言うまでもなく、攻撃だ。
まだ、距離は十分にある。
しかし、ガードをするにも腕は上がらず、避けようにも鉛のように重くなった足では、飛ぶこともままならない。
初戦から窮地に立たされ、流石のリンフィア達も焦りが出始めていた。
だが、ミレアは、
「………なるほど」
好都合だと言わんばかりに笑い、モヤががって誰も見えない暗闇の中、余裕の表情を浮かべていた。
そしてその瞬間、
「ならば、こちらの勝ちです」
黒いモヤの広がる中心、突如切り取られた様に地面が露出した。
そして、まとわりついていた謎の重みが、消えて亡くなった。
意識は既に向いていた敵の魔法へ向けられる。
既に目の前、距離はほんの僅か。
だが、何にも縛られていない今、恐れる必要はまるでない。
「一気に行きましょう!!」
魔法を跳ね除け、敵がもう一度放ったモヤを危うげなく回避する一同。
「なッ、なぜ…………」
「杖は普通に落ちたので、重力魔法に見せかけた状態異常付加魔法だとすぐにわかりました。なるほど、これならば魔力効率もいいですし、気が付かなければ解除もままならない。騙し打ちとしてはかなり有用です」
「クソッ………回復系の能力か………!?」
「解釈は——————」
タン、と軽やかに地面を蹴るミレア。
しかし、その速度は完全に敵を圧倒するものであり、反応する以前に距離を詰めた。
「ご自由に」
ゼロ距離から放たれた雷魔法。
王の力によって強化された雷撃は、瞬く間に敵の意識を奪った。




