第1092話
ルージュリアに通された一室。
そこは、中々に広い客間であった。
ここからさらにいくつかの部屋に繋がっている。
だが、今はそんなことよりも聞かなければならないことがあった。
「なんのつもりだテメー」
俺は早速ルージュリアに詰め寄っていた。
向こうはニコニコしながらまるで反省していないので余計腹が立つ。
「うふふ、申し訳ありません。見た通り、ちょっとした成り行きでこうなってしまいました」
「しまいました、じゃねーよ!! 見ろ、こいつらも固まってんじゃねーか!!」
ルージュリアに呼び出された隣の部屋には、いつの間にかやって来ていたミレア達が待っていた。
そしてどうやら、話の内容を聞いていたらしい。
「けけけ………けっこ、こけ、けっっ」
「おおおお、落ち着、つつい………ついて………み、ミレアちゃん………」
コケコケ行っているミレアと呂律が回っていないリンフィアが大変なことになっている。
おろおろとしながら部屋中を徘徊し始めていた。
「見ろオメー、どうすんだよ」
「子供の名前は私が考えたいな!」
「G・R、ちょっと黙っとこうか」
カオスだ。
ひどい阿鼻叫喚の中、収集がつかなくなっている。
しかし、あの男は何故か冷静であった。
「まぁまぁ、落ち着けよお前ら。いくらなんでもそんな暴挙に早々及んでたまるかってんだ。本当は裏があって、この花嫁争奪戦に金髪を勝たせるつもりなんて全くないんだろ?」
それを聞いてピタリと鳴き止むミレアとリンフィア。
しかし、わかっていない。
どうやら、こいつは根本から勘違いしているようだ。
「争奪戦じゃねーよ」
「へ?」
目を丸くし、素っ頓狂な事を出すコウヤ。
そう、争奪戦ではない。
恐らく、殆ど話を聞かずに状況だけを見て判断したのだろう。
本気云々は抜きにして、相手はもう決まってしまっているのだ。
「誤解のないように言っておきますが、ケン君の周りにいた彼らは、『元』夫候補です。全く好みでない方や初対面の方との結婚というのは流石の私も願い下げですので、これまで決めなかった夫を自分で決めることにしましたの」
「………………………………おい、まさか」
「凄まじい神威と唯一無二の特別な能力のみならず、高い潜在能力を持った貴重な外界人。加えて顔も整っていて、生活能力も高く、旅に出た時も心強い。これ程の優良物件なら、いっそ喜んで嫁ぎたいくらいです」
自分の腕を俺の腕に絡ませて、見せつけるようにルージュリアはそう言った。
「わあああああああ!!!! ふざけろテメェ!! なんでお前ばっかああああああああ俺が惨めだろうがよおおおおおおおお!!! シルビアさああああああん!!!」
再発した2人に加わり、コウヤまで参戦した。
頭が痛くなる光景だ。
「はぁ………あのな、これが嘘かどうかくらいわかるだろ。特にミレア。お前が惑わされてどうすんだよ」
そういうと、今度こそピタリと止まった。
そして、ルージュリアは何食わぬ顔で俺たちに向かってこう言った。
「さて、それじゃあ勇者のレッドカーペット向上についての本題を語りましょうか」
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茶番はこれくらいにしておこう。
それぞれ客間のテーブルにつき、今後について話すことになった。
「さて………ミレアさんが授かった、【裁定】の力には、現在4つのロックが掛かっています」
「ロックか」
無論、完全でないのは知っている。
この旅は、そもそもその未完成の能力を完全なものにするための旅なのだから。
「ロックの解除方法は意外と単純で、サラマンダー、シルフ、ウンディーネ、ノームの族長が持つ道具を身につければ、それが神威に作用してロックを解除していきます」
「確かアクセサリー………だっけ?」
G・Rの問いに頷いて答えるルージュリア。
『勇者』の力を得るためにアイテムを集める。
これも妙にゲームっぽい話だ。
ゲームという形に拘る管理者がシナリオとして組み込もうとする訳だ。
「ミレアさんが無事能力を得た以上、後はその装飾品を探すだけなので、早々にウンディーネのものは渡したい所だったのですが………」
「問題あるのか?」
「何せあれはわざわざ管理者が白紙化しなかった事で、一族に唯一残る伝統のある道具になってしまったんです。妖精というのは長寿種故に歴史や伝統に少し口うるさい所がありまして………」
手放したくない、というわけか。
俺にはわからない話だ。
惜しむ気持ちはわからないでもないが、賭けるべき時というものはある。
それでも手放さないというのは………
「まぁ、伝統云々は建前で、本当は日和っているんだと思います。管理者を恐るあまり、今のアクアレアは根性なしの腑抜けが跋扈したゴミ溜めと化していますから」
「本性漏れてるぞー——————………でも、やっぱそういう話なのか」
管理者に逆らう、なんて思想を持ってる奴は相当稀だ。
G・Rやルージュリアの方が圧倒的少数派なのは言うまでもない。
一度支配の檻に囚われれば、抜け出すことは容易ではないだろう。
だから、そこは俺たちが無理に押し通る他ない。
「それ故の結婚なんです」
「その装飾品と関わってんのか?」
一応そう尋ねたが、返事は聞くまでもなくイエスだ。
やはり、こいつもこの結婚は本意ではないのだ。
「例の装飾品………水精のペンダントは、代々族長が受け継ぐものなんです。正式な夫が決まれば、子供が産まれるまではその夫が預かることになりますから………」
「夫役を立てる必要があったわけだ。それならそうと先に言えばよかったのによ」
「申し訳ありません。可能であれば、結婚なしでペンダントを手に入れようと思ったのですが、いざ実家に帰ると想像以上にことが進んでいまして………一応、表向きには婿を探すために旅に出ていたんですが、ろくに連絡をしなかったせいで、話を進められてしまったみたいです」
そういえば、あの中の元夫候補とやらの中に初対面のやつもいると言っていたが、それがそうなのだろう。
特に、1人混ざっていた王候補は時系列的に旅に出た後妖精界に入っているので間違いないだろう。
「………」
何か言いたげな顔でルージュリアを見つめるミレア。
と思ったら、酷く不快そうに俯いた。
よく考えたら、この2人は勝手に婚約者を立てられていたものという嫌な共通点がある。
何か思うところでもあるのだろう。
「ですので、しばらく私の夫をやってくれませんか?」
ふと振り返ると、妙に曇った顔をしていたり、呆れたような顔をしたり、惚けた顔をしたりしていたが、考えていることは同じであった。
「………………ま、お互い目的のためだ。いいぜ、やってやる」
「!!」
やれやれ。
恋人のフリとは、初経験だ。
しかし、何としてもここでペンダントを手に入れなければ、俺たちに先はない。
ミレアの力を完全なものにし、俺たち本来の肉体を取り戻すために、ここは俺が一肌脱ぐことにしよう。




