第1084話
「………………敵意はないらしいな」
丸腰で立っているベルドランドに向かって、俺はそう言った。
「もうその必要もない。皆に下されたお告げは取り消されたよ」
どうやら、領主が化け物になった時………つまりミッションが終わった段階で、彼らを強制していたなんらかのお告げが消えていたようだ。
大方、裏切るなとかそんな内容だろう。
「………………本当に、終わらせたんだな。俺よりもずっと弱い貴様が…………仲間たった数人と協力しただけで」
「その辺の連中とは出来が違う。そんで、アンタらと違って性根は腐ってない」
「ハッ………言ってくれる」
否定も口答えもしてこなかった。
憑き物が落ちたような風にスッキリした顔をしている。
「いるんだろう? あいつが」
ベルドランドは、やや硬い面持ちでそう尋ねてきた。
あいつ、というのはG・Rの事だろう。
「こんな事を言えた義理ではないが、通してくれるとありがたい」
「………」
大丈夫………と思いたいが、念には念をだ。
しかし、通すつもりがないわけではない。
俺はチラッとミレアの方を見ると、ミレアはコクリと首を縦に振っていた。
「いいのか?」
「危害を加える意思は、無さそうです」
妙な言い方をされたが、なんとなく意味はわかる。
ケジメをつけるつもりならば、俺たちは関与しない。
冷たい言い方だが、どうなろうと知った事ではないというのが本音だ。
「さいで。あ、患者を移すつもりだから、G・Rを連れて別の場所に行けよ」
「そうさせてもらう」
そういうと、ベルドランドは奥へ消えていった。
思えばこいつも不憫なやつだ。
お告げという理不尽なルールのせいで、道を踏み外さざるを得なくなったのだから。
誰かを傷つけてはいけない。
しかし、自分を蔑ろにしてまで、他人を優先することを義務付ける権利など、誰にもない。
こいつは確かに悪へ堕ちたが、仕方のないことというものは存在してしまうのだ。
俺たちは、止めることは出来ても、裁くことは出来ない。
それができるのは、奴から裏切られ、傷を追ったG・Rだけなのだ。
生かすも殺すも、この先を選ぶ権利があるのはG・Rだけだ。
「やり切れないな」
「管理者がいるせいで、ああいう人がこの妖精界には大勢いる………終わらせましょう。ケン君」
「ああ」
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落ち合う場所は決まっていたので、ミレアについて行ったリンフィア・コウヤ・ルージュリアがようやくこちらに合流した。
あらかじめ言っていたので、流たちもこちらに来ている。
今俺たちは、領主別宅の一室に集まっていた。
なんでも、今日は泊めてくれるとのことだ。
野暮用だと言って、コウヤとルージュリアは抜けたが、とりあえず、この1ヶ月で起きた事を報告し合うことになった。
「なんか………半分くらい足りないが、懐かしいメンツになったな」
俺、リンフィア、ミレア、流、ウルク。
戦争前に、ルナラージャを旅していた面々だ。
もうだいぶ前のことのように思える。
「だねー」
呑気そうな返事をしているが、ウルクはここ数ヶ月、結構きつかったと思う。
自分を慕っていたバルドとレトはもうおらず、救おうとした故郷はもう失われてしまった。
見て回って、それを強く実感したはずだ。
まぁ、あえて掘り返すことはあるまい。
今はとりあえず、“今” のことを聞くことにしよう。
「てかお前ら、よくここに入れたな。まさか、王の選別に参加したのか?」
「いいや? そもそも王様候補がいないし、正規からは外れたルートで入ったからねー。丁度マギアーナの学院に行ったときにクルーディオさんから調べて欲しいことがあるって依頼されたんだー」
学院とはこれまた懐かしい。
そう言えば、クルーディオ………元妖精王のあいつとファリスは友人だったか。
「俺の透明化のスキル固有スキルと、“ウルク” の持つチビ神の権能は、今の妖精界ではかなり便利だからね。うってつけだったってわけよ」
「てか、なんでお前ら固有スキル持ってきてんだ?」
与えられた能力は剥奪すると管理者が言っていたのだが、流はそのまま持っている。
一体どういうことだろうかと思ったがx
「さぁ」
と、あっさりそう言われたので、この先の答えは望めそうもなかった。
それはさて置き。
ふと、先程の会話の中で、あることに気がついた。
「アレ?」
「え? なに?」
キョトンとしている流。
俺は、興味本気で少し尋ねることにした。
「いや、お前は女を呼び捨てにしたの初めてじゃねーかなーと思ってよ」
「あー…………………」
ふと、気まずそうに顔を逸らす流。
ウルクは照れ臭そうに苦笑し、リンフィアとミレアは大きなため息を吐きながらやれやれと首を振っていた。
「ケンくんってば………………」
「いや、待てリフィ。ため息を吐くのはまだ早い。俺にもデリカシーのカケラくらい備わってるぞ」
誤解のないように言っておくが、流石に今の反応をされれば俺も気がついた。
流石にそこまで鈍感ではない。
「くっついたんだな」
「しかしカケラは散りました」
ゲラゲラと笑う流やウルク。
リンフィア達も、困ってオロオロしている俺を見て笑っていた。
久方ぶりの和やかな雰囲気だ。
思い詰めた話はするだけ野暮である。
結局その日は、ダラダラと飲み食いをしながら夜を過ごすのであった。
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妖精界編・年表
ケン一行、妖精界に入場。
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入場直後にラビとニールが失踪し、その状態で、管理者が主催する王の選別を目的としたゲームが開始される。
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入場直後に、記憶喪失の異世界人・コウヤとその仲間のイーボと出会い、戦いの末仲間となる。始まりの里・カイトへ向かう。
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収入源を得るべく冒険者の試験を受け、そこでルージュリアと出会う。お告げで通常のものとは外れた過酷な試験を受け、そこで妖精王の羽を取り込んだミレアが、感情を見る “妖精王の力”に目覚める。
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セイレーンのセルビアの声を取り返す異界童話のミッションを受ける。(ベースの童話は人魚姫) そこで初めて黒服の組織——————管理者が認める犯罪組織と対峙する。
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コウヤの持つ攻略本について知る。
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元ノーム族長にして、ギルド最強の冒険者である『ノーム』と友人になる。
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武器屋の店長に犬の使い魔の能力を使って、特殊な鍛治用の鉱石を見つけて届けるミッションを受け、攻略本の力で短縮してクリア。初めて対イレギュラーの敵であるデバッガーと遭遇する。
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俺たちの参加した戦争が原因で妹を亡くした王候補・ガージュと闘う異界童話に参加。敵は管理者が作った役職のシステム・レッドカーペットによって得たゴーレムを作る能力を使い、大暴れ。その後、直接対決をし、なんとか勝利するも、最終的にはガージュ達をけしかけた犯罪組織のメンバーであるピクシー族長・ピクシルが、用済みとなったガージュを殺す。
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疫病調査の名目で領主に呼ばれるが、領主が悪人だと判明。その後黒服と繋がっているとわかり、ミッションも発令され、領主を倒すことに。領主に恨みを持つG・Rと出会う。
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ここで、ウンディーネ族長の娘であるルージュリアがカイトにやって来た目的が、『管理者から影響を受けないプレイヤーの中から管理者を倒し得る人材を探すこと』だと告げられ、さらにその唯一の手段である『勇者のレッドカーペット』についても明かされる。
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ミレアは勇者のレッドカーペットを手に入れに、ケンは領主を倒す準備を整えることになった。ケンはG・Rと協力して領主を追い詰め、最終的には追い込まれた領主が敵側に用済みと殺され、ミッションは終了。死後領主はデバッガー擬きになり暴走するが、レッドカーペットを得たミレアによって駆逐され、戦いが終わる。




