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第1057話



 その男はどう見ても戦士ではない。

 かと言って、領主に口答えできるような権力者でもない。


 なんの変哲もない、どこきでもいるような、無力な一般市民であった。



 G・Rの混乱は増すばかりであった。



 怒鳴り声は、確実に領主の元へ届いている。

 今は好感度稼ぎに没頭している領主でも、流石にこれは放置出来ないだろう。




 周りで演説を聞いていた市民も少しずつ騒ぎ始めている。

 次第に空気が張り詰めていき、男に敵意が向けられていった。


 歓声をあげていた側が突然の暴言を黙って見ているわけがないのだ。




 「何を………」




 これは自殺行為だ。

 余程の理由がない限り、周りの市民は許しはしないだろう。


 しかし、それでも男は怒りを訴え続けた。

 感情任せで支離滅裂だが、迫真と取れるその怒りに、G・Rは奇妙さを感じていた。


 そして、G・Rはその男の正体をここでようやく気づく事になる。





 「何が見捨てないだ!? 疫病にかかった俺の弟をアンタは助けなかっただろうが!!」


 「!!」





 ここで明かされた怒りの理由に驚くG・R。

 少なくとも、領主の悪行が彼には漏れていたのだ。


 だが、当の領主に焦る様子はない。


 それどころか、何処か憐れむような表情を浮かべ、演説の場から降り立った。

 何をする気だと思い、G・Rは身構えるが、領主は丸腰のままゆっくりと男の元へ歩いて行った。

 そして、





 「ブレア・スーマンの兄、タルレア・スーマンだな」


 「!?」





 男の名前を呼んで立ち止まると、ゆっくりと頭を下げたのだ。





 「申し訳ない。命を預かっておいて………治る保証が出来ないのは、本当に…………申し訳ない………っ!!」





 事実を知っているG・Rにとっては、明らかな演技。


 しかし、流石嘘をつき続けただけのことはあると思える程の、見事な演技であった。


 まさしく真に迫っている。

 それは更に、男に対する民衆の怒りを助長していった。





 「おい!! アンタ、何も領主様を責め立てる必要ないだろうが! この人が自分の別荘を使わせてくれなかったら、今頃疫病はもっと蔓延してたんだぞ!!」


 「そうよ! その………ご家族は気の毒だけど、仕方のないことじゃない!!」





 次々にヤジが飛び交う。

 こうなるのは目に見えていた。


 だが、男は一切動じる気配がない。

 それどころか、まだ領主に何か言うつもりだった。




 「まぁ、いいよ。アンタなんかいなくても、うちの弟はもう助かったから」


 「…………たす、かっ………た?」




 領主はもちろん、皆その言葉を聞いてポカンとしていた。

 すると、




 「ほら、来いよ」




 そう言った男の後ろから、何やら彼によく似た青年が現れた。



 その瞬間、明らかに領主の目の色が変わった。



 誰なのかはわざわざ口で言うまでもなかった。

 そう、この青年は彼の弟だ。




 「あの人のお陰で、弟はこんなにも良くなった。俺は、あの人に感謝している!」


 「あの人………?」





 領主がそう呟くと、男はあらぬ方に顔を向けた。


 G・Rも、民衆も、ついつられてそちらを見る。

 すると、そこには怪しげなローブを着た男が立っていた。



 フードを深く被っており、顔はよく見えない。

 しかし、そこからでもうっすらと見える金髪。



 視界に捉えたG・Rと領主は、思わず名前を呼んでいた。




 「ヒジリ………ケン………………!?」


 「ケンくん………?」




 ローブの男は歯を見せて笑うと、フードを取ってこう言った。




 「よ。生きてて驚いたか? それともショックだったか?」















——————————————————————————————











 同刻。

 ケンとG・Rが最後に拠点にしていた場所に、ケンを襲った黒服の男達がいた。


 そこには、例のセルビアの………セイレーンの件の時にもいたあの黒服の男も同席していた。



 この例の黒服は、ここにいる者たち中では最も地位が高かった。

 そして、セルビアの件もあり、少しばかりケンと多く関わっている。


 飄々としており、どこか軽い男だが、相応の雰囲気は持っていた。

 実力も、この中では最も強い。


 だが、タバコをつける火も定まらない今の彼の姿からは、どうしてもそうは思えなかった。

 震える手を引っ込め、不満そうに魔力をながし、直接魔法で火をつけると、安心したように壁にもたれかかって煙を吐いていた。

 すると、




 「良かったんですか? ………まぁ、言いなりになった俺が言うのもあれですが」




 ボロボロになった黒服の男が、例の黒服にそう言った。

 すると、例の黒服は震える手で一服しながら、あくまで平静だと言わんばかりのポーカーフェイスで返事をした。




 「良いんだよ。“危険だと判断したら領主は切れ” ………上からの指示だ。………ありゃ、明らかに危険だったろ?」




 答えた男同様、冷や汗を垂らしながら、男は頷いた。


 平静を装っても、消し切れない恐怖。

 ここ場所で刻まれた圧倒的な死のイメージは、未だ彼らの脳にこびりついていた。


 そして、例の黒服は、遠い目をしながらもう一度笑ってこう言った。





 「あれは………関わっちゃダメだ」

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