第1033話
「ここが奴のアジトか。話には聞いてたけどここまでデカイとはね………」
松明一本を手に出入り口を見張る衛兵。
そこは、数時間前ケン達がいたあの地下通路であった。
「そういえば、お前新兵だったな。白紙化の影響で地形も変わったんだ。こんなのが出来ていてもおかしくないって思ったら納得できるだろ」
もう1人の衛兵は、どうでもよさそうにそう言った。
武器も置きっぱなしで、人なんて来るものかと言わんばかりに怠けている様子だ。
「それにしては人工物感が拭えなくないですか? 見てくださいよ。梯子や扉もついてるんですよ?」
「馬鹿、全部がそうとは言ってないだろ。何個かは奴がつけたんだろ。それに、白紙化についてはわかってないことの方がずっと多いんだ。お告げをお下しになるあの方からのものという奴もいれば、そういう現象なんて言ってる奴もいる」
考えるだけ無駄だと、やる気のない衛兵は手を振った。
すると、懐から葉巻を取り出し、ぼーっとした様子でそれを吸い始めた。
圧倒的な数の不利を負い逃げた敵が、何かの間違いで戻ってきた時に捕らえるというあまりにも簡単で退屈な仕事。
戻ってくる確率はどう考えてもほぼ皆無であった。
だったら、この仕事は男にとってただ突っ立っているという誰にでもできる仕事。
気の緩みは当然だと言える。
そして相手は後輩。
同じく緩んでいる後輩が、注意などするわけもなく、職務中に平気で煙を入れられるわけだ。
「おーい、火ィくれ」
「………」
返事はなかった。
吸ってる側としては中々のストレス。
ムッとした衛兵は、眉間に皺を寄せながら後輩の方を向いた。
「おい、聞いてんの………か……………」
それを見た衛兵は、思わずポロっと葉巻を落とした。
目にしたのは、音もなく気絶させられた後輩と、マスクを着けた怪しい男。
そして、手配中のこの地下の持ち主の1人。
衛兵の手には葉巻。
武器は地面。
衛兵は直感した。
皆無だった可能性を………戻ってくるという万一の可能性を引いてしまったのだと。
そして、いつの間にか崩れている膝の感覚と、顎に感じるわずかな痛みによって、やれられたと直感した。
衛兵は、閉じていく意識の中こう思う。
怠けなければよかった、と。
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視点——————ヒジリケン
「職務怠慢って奴だな。ま、お陰で助かったけど」
神の知恵を解除し、極限まで落としていた気配遮断の技術を解く。
するとやはり、ステータス上は会得していない気配遮断のやり方が、スーッと消えていった。
この技術が抜け落ちるというか忘れるというか、とにかく使えなくなるこの感覚は、いつやっても気味が悪い。
「………」
「ん? どうしたじっとこっち見て」
心なしか目がキラキラしている。
「いえ………頼もしいなと思い………まして」
「そうか? そう言われて悪い気はしねーな」
さて、期待も受けたことだし、さっさと終わらせて救出しよう。
「ガキはどっちだ?」
「向こう………です」
指を指したのは中心ではなく外の方向。
しかし、目立つ扉はない。
暗いのは関係なく全て見えているのだが、よく探してもやはり出入りできるような扉はない。
「部屋………無くないか?………それに」
扉はない。
だが、その代わりに別のものがあった。
「敵、メチャクチャ来てるな」
魔力を極限まで抑え、忍足で向かってくる敵の姿があった。
エルフ特有の軽装のためか、音もない。
どうやらこちらが見えていないと思って近づいているらしい。
しかし、向こうはこちらが見えている。
アレは恐らく、
「暗視の魔法………だな」
「です」
光魔法の一種。
常時使用のため、制限時間付きの神の知恵との相性が最悪なので使えなかった。
ということは、だ。
もうこそこそ行く必要はない。
「………………ククク」
「「「!!」」」
ニヤリと思わず笑みを浮かべると、奥でビクッと肩を揺らす衛兵達。
やはり見えている。
ならば、俺が使えない魔法を存分に使っている事への腹いせついでに寝ていてもらおう。
「潰してくぞ。ついて来い」
「はい!」
ダンッ!! と、遠慮なしの一歩を踏み出す。
すると、
「!!」
明らかに自分達に向かってくるこちらに気づいた衛兵達は、隠れるのをやめて一斉に走り出した。
「クソッ………貴様らも暗視魔法をッ——————」
衛兵は間合いに入ると、すぐさま俺の首を狙って槍を突き出した。
速度でわかる。
実力………というより、ステータスではややこちらが不利。
そして同レベルの敵が7人集まっている。
これは——————
「………いけるな」
「っ!?」
足運びがやや雑だ。
恐らく、経験値で上げた【槍術】に頼った戦法。
つまり、白紙化前………元々はズブの素人だ。
隙、多数。
「ここ」
瞬間、抜刀と同時に、刀身で槍の軌道を逸らす。
そして、そのまま槍に沿って直進し、敵が槍を引っ込める前に一気に距離を詰め、
「圧倒的な差がない以上、技術の拙さは命取りだぜ、にいちゃん」
「なに、ぃ………ッ…………——————」
峰で顎を一撃。
先頭の衛兵は、白目を剥いて倒れた。
「!? 止まれッ!!」
距離を詰めるのを危険と踏んだのか、すぐ後ろにいた男が仲間達を静止させる。
いい判断だ。
そもそも、リーチの低い相手に無闇に突っ込むのは無謀。
倒れてるこいつはそれをわかっていなかった。
「貴様………………何者だ? 敵は1人だと聞いていたのに………」
1人?
思わず首を傾げそうになった。
仲間がいると聞いていたのだが………まぁ、それは後でいいだろう。
「まぁ、そういう事だ。悪いが押し通らせてもらう」
さぁ、戦闘開始だ。




