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第1030話



 「カイトの襲撃に関してはまだ伏せておくよう仰せ付かっていたのですが、どうやらあなたは知ってしまわれたようですね。一体誰から洩れたのかはあえて聞きますまい」




 やれやれと首を振る執事。

 どうやら襲撃があったことは知っていたらしい。


 そして、口ぶりからして領主も知っていたようだ。




 「爺さん一体どういうことだ!? アンタなんのつもりだ!?」




 手をワナワナと振るわせながらコウヤは怒鳴り声を上げた。

 表情に一切余裕がない。

 気が気でないのだろう。



 しかし、それは俺たちとて同じこと。



 拠点である以前に、あそこには見知った顔が大勢いる。

 襲撃と聞いて黙っていられるわけがない。



 そして最も焦りを見せていたのは、他でもないギルマスであった。




 「ちょっ………いや、それ私も聞いてないッピよ!? ほっ、本当に襲撃が?」


 「はい。それは間違いございません」




 ギルマスの顔からサーッと血の気が引いていく。

 しかし、それと対比するかのように、執事の表情は一切変わらなかった。


 …………が、どうやらそれは、悪い意味で余裕があるから無表情になっているわけではなかった。





 「ご安心くだされ、皆様方。防衛はすでに完了していることだと存じ上げておりますゆえ」



 「「………………………………え?」」




 

 あっけらかんと明かされた事実に、目を丸くするコウヤ達。

 そして執事はこう続けた。




 「別段悪意をもって隠していたわけではありませぬ。話を聞いて、調査に支障をきたすと良くないからと、主人様がお気を遣われた故に隠していたのです」


 「つまり里は………?」


 「主人様の出兵により、防衛に成功しています」





 執事はそういうと、ギルマスは大きくため息をつきながらその場にへたり込んだ。





 「ただ一つ問題がございまして、その出兵によってご帰宅が少し遅れるとのことです。この後予定していた主人様とのご対面は後日に延期となりますがよろしいでしょうか?」


 「いいッピよそんなことは………………領主様のご都合に合わせるッピ」


 「連絡が遅れてしまったことを主人に代わって謝罪します」





 執事は深々と頭を下げた。


 まぁ、ともあれ、この件はコウヤの杞憂で済んだということだ。

 となれば、後は予定通り患者を調べることになる。





 「よし、里が安全ならなんでもいいッピ。みんな、領主様の期待に応えるためにも疫病について少しでも調査を進めるッピよ!」





 ギルマスは随分と息巻いているが、何かあるのだろうか。


 いずれにせよ、張り切るのはいいことだ。

 俺たちも、イーボの妹を助けるために疫病のことはキチッと調べておきたい。





 「では皆様、参りましょう。中で作業中の職員もおりますので、何かお聞きになりたいことがあれば、遠慮なくお申し付けください」





 そうして、俺たちは扉の奥へと向かった。














——————————————————————————————












 「! 更新きたな………………どれどれ………」




 大量のウインドウに囲まれた謎の空間。

 管理者のカラサワは相変わらず、そこでフェアリアの運営をしていた。




 「レッドカーペットの到達者はちょくちょく増えてきたからな………人によってはそろそろ “始まりの里” を出てくるプレイヤーも現れる頃か………僕の仕事も増えそうだ。お前はどう思う?」




 管理者を見守るよう後ろに立っている人型の何かは、無機質な声で『おっしゃる通りです』とだけ呟いた。


 心なく、ひねりもなく、変化すらないその汎用性の高い返事に辟易としつつも、お前はそうだったなと呟くカラサワ。

 これも何度繰り返したやりとりか。




 「………おっとそうだった。新しい更新内容は……………あ………?………………おお!! もう『この国の物語』にたどり着いた者が現れたのか! いやぁ………という事は、()()()()()を知ることになるってことかな」





 弾んだ声で1人延々と話すカラサワ。

 物語を終えた者を王に据え、その人物がそれまで培った力を根こそぎ奪う事を目的としている彼にとって、物語の進行は吉報に他ならない。




 「“全てのレッドカーペットは、ある大きな問題を解決する事を目的に進み、その果てに英雄となった者が王になる” ………これを考えるのにだいぶかかったものだよ………うふふ。ふふふははは………僕の、僕の描く物語が形になる。ああ………やっぱりこの感覚は何度味わってもやめられない。全てが手のひらにあるようなこの圧倒的な支配感!!」





 理性的とは言えない獣のような笑い声が、誰もいない空間に響く。


 妖精王の力を使わずとも見え透いている、強い欲望。

 彼がその末に求めるものがなんなのかは、彼以外誰も知らなかった。


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