第1008話
——————ケン視点
族長………妖精界に行く前に、情報を整理していたから、俺はその肩書きを知っている。
妖精達の絶対的支配者として君臨するのが、妖精王、又は妖精女王と呼ばれる存在。
しかし、たった一人で数多く存在する妖精をまとめ上げるのは困難であり、王は各種族に族長と呼ばれるまとめ役を置くことにした。
特徴的なのは、その強さと圧倒的な寿命、そして代々受け継がれる名の継承。
族長の一族に生まれるものは、なぜか生まれながらに凄まじい力を持つため、何百何千と続く妖精の歴史において、世襲制が崩れることがないほどであった。
寿命も、族長でいる限り、それは他の妖精とは比べ物にならないほどとなる。
そして、親兄弟を凌ぎ、族長に就いたものは、生まれ持った名を捨て、代々受け継がれてきた名を名乗らなければならないというルールが存在する。
サラマンダー族長・サラマル
ウンディーネ族長・ウンディル
ノーム族長・ノームル
シルフ族長・シルフル
この様な四大妖精をはじめとし、そして、
エルフ族長・エルフル
ピクシー族長・ピクシル
といった、他の族長も同じような特徴的な名を継ぐことになるのだ。
「お前が、ピクシル………………現妖精界の、事実上ナンバーワンの一角………!!」
冗談じゃない。
ここがゲームならとんだクソゲーだ。
連中、敵として出しちゃ行けない段階でボスクラスを呼びやがった。
「他の族長と白黒つけたことないからわからないけど、まぁ概ねその認識で正しいッピよ………………ギルヴァーシューの息子」
「!?」
ギルヴァーシュー………それは、俺の親父【聖 秀明】のこの世界における名前。
何故………と思ったが、妖精族は長寿。
大昔、親父を見たことがあってもおかしくはない。
「ということは、さっきの化け物じみた間合いと動きの計算は【神の知恵】ッピか………ふふふ、使いあぐねているな」
「あ!? テメェ一体——————」
酷く耳に残る、何かが潰れるような音。
足だったものは、無残な形に成り果て、血の池が広がる。
その次の瞬間、目の前にいたギリーは、声にならないような悲鳴をあげていた。
「お喋りの前に処刑ッピ。いい加減、ギルドの連中も来ないとも限らないッピからね」
遠目にはもう見えている人の影。
流石に、小さいピクシーは捉えていないだろうが、もう間も無くたどり着くだろう。
その前に、このピクシーはギリーとガージュを殺す気だ。
それを裏付けるかのように、あたりには身の毛もよだつ様な死の空気が蔓延している。
息苦しさえ覚える濃い殺気。
ダメだ。
守る手立てがない。
そう、思っていた。
「………………!!」
いつの間にか、ガージュの姿が消えていた。
これは恐らく、ギリーの能力。
神威の力だ。
であれば、あるいは………
「神威か………小賢しい真似は無しだッピよ、ギリー」
「!!」
ピクシルの標的が、ギリーに移った。
肩を踏み砕かれるギリー。
一瞬、激痛に顔が歪むが、しかし笑顔を浮かべていた。
「は、ハ………………ダンナ………アン、タ………でも、この数秒は………ハァ………あいつに、気づけない………っ、ぜ」
恐らく、一定距離外であれば、僅かに気配と姿を消せる時間制限付きの能力。
流の固有スキル・一色の下位互換のような能力だ。
「小癪な………………」
「フ………フフ、フゥッ………!?」
ピクシルは、土魔法で作った手で首を掴み、ギリーを持ち上げた。
みるみるうちに顔を青ざめさせていくギリー。
しかし、それでも勝ち誇った表情が消えることはなかった。
「は………ふ、ぐゥ………は、ざ、ザマァ………みろ………殺させ、て………たまるか………………あい、つは………………俺………の、恩人だ………………貴様なんぞが、手ェ出すんじゃねェよ!!!」
「そうか」
無感情にそう呟くピクシル。
すると直後、土魔法を保ったまま、炎魔法で槍を生成。
槍先を、ギリーに向けた。
「まずは、お前からッピね」
「好きにしろ………………」
このままではマズい。
剣を構え、一か八か飛び出そうとしたが、ダメだ。
これではもう、間に合わない。
そう思いつつも飛び出し、抜刀した——————
その時だった。
「………………おやおや。これは意外だッピね」
魔法を受け止める一つの影。
神威は完全に消滅し、その姿は顕になった。
「お前………………何で………」
「………」
ホッとしたというより、驚きが優った。
俺たちはてっきり、ガージュは守護者達のことを、好きに使い捨てられる駒だと思っていると、そう思っていた。
………いや、恐らく実際そのはずだった
その証拠に、今一番驚いているのは、誰よりも庇われたギリーであった。




