第1007話
異様なまでの強さを見せるピクシー。
強化魔法の状態は、俺と同じデュオ4級。
ピクシーと同じく強化魔法を揃えていたとはいえ、ギルド最強のあのノームでさえ苦戦した神の知恵の三倍がけをものともしなかった。
明確な実力差を理解した。
悔しいが、この豆粒に今勝てる要素が見つからない。
だから、
「やっぱやめさせてもらう」
「?」
俺は、寝転んでいるガージュを蹴り上げ、風魔法と共に建物の反対側へと放った。
狙いは完璧だ。
屋外で、建物を挟んでいるので確認は出来ないが、きっと誰かが受け止めるだろう
「お、逃がすッピか」
俺らしくない惨めな手だが、そうも言ってられない。
くだらないプライドを捨てなければ、ガージュは逃がせない。
例えみっともなくとも、ここからは足掻けるだけ足掻いてやる。
「聞こえるかお前らァアアッッ!!」
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「あ!?」
放られたガージュを見て、抜けた声をあげるギリー。
リンフィア達との戦闘中だったが、一瞬でそれどころではなくなった。
建物の向こうから突然感じた異様な神威。
その瞬間に向こう側から飛んできたガージュは、縛られている上に気を失っていた。
それは即ち、ガージュは負けたことを意味していた。
「そんな………!? 負けたのか!? まさかあいつが………」
と、声を上げて驚くが、間髪入れずに向こう側から怒鳴り声の様な大声が聞こえた。
「聞こえるかお前らァアアッッ!!」
「「!!」」
リンフィアとコウヤは、すぐさま声に反応して身構えた。
声の様子から、切迫した状況が伝わってくる。
特にリンフィアは、普段冷静なケンが声を荒げている分、これがいかに重要か瞬時に理解した。
「そいつを連れてギルドへ駆け込め!!」
「「!?」」
色々と聞きたいことのある一言だが、わけがあるのは明白。
リンフィアたちは、迷うことなく指示に従うことにした。
「彼を………………っ、そこのあなた!!」
リンフィアはギリーを指差し、咄嗟にこんなことを口にした。
「受け取めたらすぐに移動を!! でないと多分——————」
ゾッ………と。
「「「——————」」」
“凍りつく” を同時に体験した3人。
息を止める程、得体の知れない絶大な恐怖が迫っていることを、本能は瞬時に察した。
ダメだ。
打つ手がない。
同じ恐怖のもと、思考は統一される。
すると同時に、戦いという選択肢は3人から消えた。
しかし、こうなれば目的地は明白。
ガージュを、言う通りギルドへと届ければいい。
3人は、それを敢えて口に出すまでいうことなく、一つの目標に向けて走り始めた………………その瞬間であった。
「役立たず2号発見」
どこからともなく聞こえた声。
聞こえた者は一人残らずその声の方角を向くが、目に見えたのは、謎の小さな影と、脚に大きな風穴を開け、訳もわからず倒れようとしているギリーだけであった。
「………………は………ぁ、ぎ……………ぃ、い!!!?」
気を失いそうになる激痛がギリーを襲った。
そして、その痛みでようやく自分の足がやられたことに気がついた。
「やれやれ、あれだけのものを得たというのに、たった数人殺すことも出来ないとは………ほとほと呆れたッピよ」
「っぁ………テ、メェ………………!! なんっ………で、こんなとこにィ………!」
そこでようやく、リンフィア達は敵の正体がピクシーであると気がついた。
そして、ギリーのこの反応………間違いなく顔馴染みだ。
しかし、反応したのはギリーだけではなかった。
「なっ………………なんで………」
後ずさるコウヤ。
顔を見ると、酷く血の気が引いている。
恐怖が、震えという形で外に出ていた。
「ああ、こちらの民であるお前は俺の事を知っていても無理はないッピな。ま、当然の反応ッピね」
ふふんと機嫌が良さそうに得意顔でピクシーはそう言った。
コウヤも、ギリーも、ガージュも、みな顔を硬らせている。
しかし、この場で唯一正体を分かっていないリンフィアだけが、いまいちピンときていない顔をしていた。
すると、コウヤはゆっくりと重くなった口を開き始めた。
「銀髪ちゃん………………ダメだ。こいつだけは逆らうな。消されるぞ」
「え?」
「何でこんなところにいるのかは知らねェが、出来ればこのまま去って欲しいところだぜ………」
「去るさ。この二人を葬ったら、ね」
葬るということは、少なくともこのピクシーはガージュ達にとっては敵であり、むしろありがたい存在だ。
しかし、何もわかっていないリンフィアでも、本能的拒絶があった。
見ているだけで、妙な胸騒ぎを感じる。
それだけに、正体がより気になるところであった。
すると、
「葬らせねぇよ。それは、カーバンクル達の仕事だ」
少し遅れて、頼れる仲間がやってきた。
が、あのケンですら、難しそうな顔をして警戒している。
「金髪。悪いけど諦めた方がいいかもだぜ………こいつはダメだ。手を出しちゃいけない」
「あン? お前、こいつを知ってんのか?」
コクリと頷くコウヤ。
しかし、そのまま黙ってしまった。
すると、
「構わないッピよ。どうせ調べれば素性は割れる。いや、そうッピね。自己紹介をしておいた方が良さそうだ」
ピクシーは、今遭遇するには早すぎる肩書きを提げて、自ら名乗りを上げた。
「申し遅れた。俺の名は妖精・ピクシー族7代目族長、ピクシル」
「「「族長!?」」」
それは、あらゆる妖精を束ねる妖精王の一つ下。
数多く存在する種をまとめ上げる、今のこの国に於いて、事実上のトップとなる存在であった。




