第1005話
魔力が、溜まった。
それは即ち、来るべき時がきたと言うこと。
準備は整った。
横腹を目掛けて放たれた攻撃。
すでに敵は、この攻撃が避けられた時の為に、魔法の用意を済ませている。
避ける、受け流す、さまざま対処法はあれど、膂力に差があり、既に負っているダメージはなかなかに大きいので、もう簡単なことではない。
要するに、余裕はもう無いのだ。
しかし、それでも、この状況下で俺が浮かべた表情は、
「!?」
引き攣りながらも、笑顔であった。
当然、ガージュは困惑する。
感情が見えているのであれば、尚更であろう。
何せ、今の俺に一切害意はない。
攻撃をする意思が消え、しかし笑っていて、諦めてもいない。
気でも狂ったかと思うだろうが、見えているガージュに、その選択肢はあり得ない。
混乱するだろう。
何を企んでいるのか。
攻撃を続けるべきか。
迷いは隙を生む。
余計な考えは思考を鈍らせ、太刀筋にブレが生じる。
そして、その数瞬後——————
「………………げっ、が………ふッ………!!」
ガージュの剣は、俺の肉を裂いていた。
「っ………一体何を………!?」
「ふ、は………ははは………………………いやァ、痛ぇな………」
もう何度も切り裂かれたこの身体でも、耐えられるだけで痛みは感じる。
怒りの篭った太刀筋。
その怒りが、なによりも痛かった。
しかし——————
「………やっぱ、レイジュの言った………っ、通りだ、な………………でも、俺が変えちまった………」
訳がわからずさらに混乱するガージュ。
「何が言いたい!?」
「お前………は、所詮戦士の器じゃ無い………戦える者じゃないってことだ」
いざ殺すという瞬間、たとえ仇であっても殺しきれないその甘さ。
死に、慣れていない。
剣を握り、命を刈り取るには、その手はまだ未熟すぎる。
当然だ。
レイジュによれば、ほんの1年近く前までは、ただの農夫だったのだから。
殺す事が出来ても、それを受け入れきれるだけの心がまだほんの少し出来上がっていないのだ。
「………残念だが、ここまでだ」
トントン、と刀身を叩いてそう言った。
当然、ガージュはトドメを指すべく剣を押し込もうする。
そして、ようやくそこで気がついた。
「お前………………!?」
「殺し屋の友人の得意技だ。驚いたか?」
内臓をずらし、魔力によって補強した肉体を利用し、剣を押し留める。
これで、致命傷は避けた。
そして、押し留めた剣は、筋肉で固定させて動かなくしている。
これで、ついに捕らえた。
「こんな………ふざけた手で………………!!」
しかし、とはいえ思い切り押されれば敵わない。
だから、ここで武器を奪う。
「させねぇよ」
腕を掴んだその瞬間、腕に魔力を流し込み、ついさっき取得した魔法を使う。
属性は雷。
弱々しく、範囲がごく僅かで一瞬だけ有効な、言ってしまえばダメ魔法。
だが、この状況、この体制においては絶大な威力を発揮する。
「『パラライズ』!!」
「っぃ!?」
手首に集中させた電流。
それはほんの一瞬ガージュを脱力させ、剣から手を離させた。
しかし、やはり効果は一瞬。
ガージュはすぐさま手を伸ばし、剣を奪い返そうとしてくるが、
「もう………遅い!!」
つかを握り、腹に刺さった剣を抜きつつ、そのまま横なぎの一閃を放つ。
傷口が、さらに熱を帯びる。
全身を絡め取るかのように、痛みは瞬く間に全身へ伝染した。
しかし、もはや死ぬような痛みだろうが、俺は怯まない。
「俺の剣を………」
身体を逸らし、なんとか回避したガージュは、舌打ちをしながら後退した。
形成逆転。
目的は果たした。
「今度は………俺の、番………っ………だな」
「はっ………そんな死に体何が——————」
剣を落とし、拳を握りしめ、最小限の動きで一歩踏み出す。
咄嗟に構えるガージュだったが、それは失敗だとすぐに気がついたようだ。
この世界は、『剣術』や『格闘』と言ったアビリティのレベルが厳格に反映される仕組みになっている。
つまり、剣を手放した瞬間、スキルポイントを割り振っていないアビリティは、全くのど素人の動きになってしまう。
魔法が背後から負ってくるがもう関係ない。
拳は、魔法が届く一歩前で、ガージュに届いた。
「が、ぐ…………??」
顎に一撃。
依然隙だらけ。
背後は簡単に取れた。
「ぅ………………ぐ、ぉ」
格闘スキルが有れば簡単に振り解けるであろう固技。
首を絞めながら、俺は淡々とその時を待った。
「首を絞められた時の経験が足りてない。血中に含まれる魔力を上手く使えば、酸欠にはならない。冒険者とか国の兵なら習う基本だ。他にも魔力はこういう時………って、聞いてないか」
酸欠による思考力の低下。
それは魔法への命令が不確定となり、用意されていた魔法も、放たれた魔法も消失。
ガージュは、何も出来ないまま意識を沈めたのであった。
「技も経験も不十分………………俺に復讐するには、まだまだ足りねーよ」




