第1004話
巻き込んだ………ガージュにそう言われた。
俺は、助けるつもりだった。
けど、“つもり” では救えず、結果としてガージュの妹は………レイジュは、死んでしまった。
前回のあの戦争、あれはどう転んでも犠牲者は出る規模の大戦争であった。
レイジュが死んだのは戦場ではなく、その以前。
前準備として行なっていた奴隷解放の時だ。
本番ではないとはいえ、どの道反乱軍を建て奴隷解放を行なっている時点で、持ち主の貴族どもとの争いは避けられない。
どうあっても犠牲者の出現は避けようがなかった。
それでも俺たちは、どうにか反乱時に犠牲が出ないように動いたが、犠牲者ゼロなど叶うわけがなく、死人は出た。
だが、あの時動いていなければ、敵は奴隷を間違いなく兵に仕立てて俺たちと戦わせただろう。
奴隷解放をしなければ、より多くの死人が出たことは間違い無いと確信している。
だが、そんなことはガージュには関係なかった。
解放、救い、勝利………………それは結局、生き残り、失わなかった者が見ているものだ。
遺族の目にそんなものは映らない。
あるのはただ骸と事実のみ。
恨んだとしても、仕方のない事だ。
そうだ。
俺が巻き込んだ。
それはなぜか。
決まっている。
「救うために、俺は戦った」
俺はただ助けたかった。
生きる価値もないゴミに虐げられ、死すら救いだと信じるほどの絶望を受けた奴隷達を、せめて今からでも自由にしてやりたかった。
ただ、それだけだ。
「でも………レイジュは死んだ………………お前が、っ………殺したッッ………………!!」
「ああ。それも同然だ」
キッと俺を睨みつけるガージュ。
攻撃の手は止まない。
それどころか依然強まった。
しかし、問答は続く。
「だったら何故!? お前はのうのうと生きている!!」
痛いところをついてくるものだ。
だが、他人を巻き込み、それでも尚生き続ける理由はある。
自分の命に頓着のない俺が、それでもこうして生きるのは——————
「まだ、俺の命の使い所が残ってるからだ」
そう。
俺にしか出来ないことがまだ残っている。
それを果たさない限り、俺は死ねない。
だから、
「倒させて貰うぞ。ガージュ」
「それを俺が許すと思うか?」
「だから、俺はお前に拳を向けるんだ」
飛んでくる魔法を一切その場から動かずに全て躱した。
「!?」
ある程度、動きはインプットした。
もう、大丈夫。
勝ち筋は見えた。
ただ、差があることに変わりはない。
だから、少し痛い目を見るが、今更それを躊躇うほど腰は引けていない。
「行くぜ」
確証を持ったことを警戒してか、建物から降りて距離を取ろうとするガージュ。
自信があるのも見えている様だ。
しかし、問題ない。
もうすでに魔法でボロボロになっているが、それでも周りは建物で溢れており、壁やら床やらは十分にある。
詰め方を注意しつつ、魔法にも警戒する。
そして、誘導する様に攻め、それを続ければ、
「っ………!?」
敵を壁際に追い込むことができる。
「逃げ道は塞いだ。さぁどうする?」
「チィッ………!!」
剣を構え向けられた殺気から、逃走を捨てたことがわかった。
そうだ。
戦え。
この状況なら、そうするだろう。
「良い気になるなよ………ヒジリィイッ!!!」
攻撃体制に入ったガージュ。
振りかぶった剣は、容赦なく俺の喉元を目掛けてやってくる。
だが動きは見切った。
初撃は躱す。
しかし、
「!? ………ぐゥ………っ」
背後からの魔法。
流石に、正面に敵がいる状態では数発は被弾してしまう。
だが、これで良い。
ガージュも困惑している。
感情が見える準備尚更だろう。
こいつは感情が見えても思考は見えない。
だから、今ただ魔力を練り続け、攻撃を一切狙っていない俺が、何をしようとしているのかわからないのだ。
それでも、ガージュのやる事は変わらない。
俺を殺すため、尚も攻撃は続く。
剣はダメだ。
そして、魔法も喰らいすぎると死んでしまう。
最低限。
それを心がけ、避ける。
避ける。
避け続ける。
すると、
「………………良い加減諦めろ」
ガージュは、諭す様に俺にそう言った。
だが、そうもいかない。
「い、ま………更、だな」
「………俺は最後に慈悲をくれてやってるんだぞ?」
慈悲と奴がいうが、それは結局俺が死ぬということ。
つまり、この先俺が助けるべき者を助けられないということ。
受け入れるわけにはいかない。
「くっ………………はは、は………………願い下げだ」
「そうかよ」
恐らく、これ以上この戦いで言葉を交わすことはないだろう。
向こうも完全に意思が固まった様だ。
そして奇遇な話だが、反撃の時はやって来た。
上段の部分に防御を集中。
当然敵は腹部へと攻撃をシフトする。
ここからが勝負だ。
一瞬、タイミングを見誤れば即死亡。
リスクは高い。
しかし、おそらく剣術にステータスを振っているガージュを一気に弱化させることが出来る。
集中………………腹部——————致命傷となる部分を把握し、魔力を集め——————
「死ね」
その一撃を、たった一度だけ——————




