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ウォッチ! ウォッチャー! ウォッチェスト!  作者: saco
第一章:夢を、見ていました 
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市川大哉の夢について

 ――いつからか記憶に無いが、分かることはまだ小さい頃。俺は毎日おかしな夢を見るようになった。

 普通夢はおかしなものだろうと思うかもしれないが、俺はそれが今の今まで現在進行形で続いている。今朝だってそうだった。

 毎回夢の舞台となる場所は異なる。どこかの大都会であったり密林、海岸沿い、ロールプレイングゲームにでも出てきそうなファンタジーな国など本当に様々だ。ただし、これだけは変わらないことがある――俺一人を残して生物が存在していないのだ。そんな閑散とした場所をあても無く彷徨う俺。

 夢の終わりはいつものように突然やってくる。

特に何をすればいいのか分からない俺がふらふらと歩いていると、空から何かしら物が落ちてくる。それを手にした所で夢は終わり。目が覚めている。

 ――ここまでは俺以外でもギリギリ、誰かしら見そうな夢なのだが、これで終わるのならわざわざこんな話はしない。

夢に出てきた物体の具現化――俺にはそれが出来る。

……と、言っても意識的には無理だ。じゃあ何が具現化するのかと言ったら。そう、夢の終わり。どこからともなく降って来るそれが具現化されてしまい、翌朝俺の布団の中に入っているという仕組みだ。正直言ってなんの意味も無いしょうもない特殊能力である。

で、今朝降って来た物がこの『素焼きカシューナッツ』だったというわけである。どんなチョイスだよカシューナッツって。

「おいこれ喉渇くんだけど。なんか飲み物持ってない?」

「無い。学校に着いてから買え」

 不機嫌そうに答える陽介。まださっきのことを根に持っているらしい。

「自分の見た夢を恨むことだね!」

 それに乗じて文子も俺をイジッてくる。

「はいはい」

 そんな文子を流しながら空になったカシューナッツの袋を制服のポケットに押し込む。

 ちなみに俺の謎の能力のことを知っているのはうちの両親とここの二人だけだ。小学校の頃文子に「もっと面白い物出してよ~つまんな~い」と無茶振りされて悔し泣きをした覚えがある。

 別に文子のためではないが、もうちょっと面白いというか役に立つようなものが出てきても良いと思う。もし俺が学園異能モノの漫画の世界にいたら確実にモブキャラ扱いされているだろう。本当、明日は頼むぜ、マイドリーム。

 今朝はいつも以上に駄弁りながらちんたらと歩いていたせいか、ふと腕時計に目をやると時刻は八時二十三分。あと二分で朝のホームルームの予鈴が鳴ってしまう。


 教室に到着したのは二十九分。ちょうど向かいの階段から我らが担任の姿が見えていた。担当教科は体育。襟を立てたポロシャツに下はジャージと、体育教師のテンプレートを見ているようだ。四月の半ばでもう半袖とは、本格的に夏が到来したらどうするつもりなのだろう。

「おーう、いつものように三人で仲良く登校か。しかも同じ七組とはラッキーだったな。だが次からはもうちょっと余裕を持って登校するように」

「は~い」

 文子が調子良く返し、俺たちはそれぞれの席に座った。

「よーしみんなおはよう。それじゃあホームルームを始める。今日の連絡事項は部活の入部期間についてだが――――」

 あー部活……。確かウチの学校、『文武両道』を謳っているせいか部活動には強制参加なんだよなぁ。ただでさえ勉強出来ないのに部活にも入れって……。俺の高校生活が順調に破滅の道へと向かっている気がしてならない。

「それと変質者について。今月はまだ何も起きてないが、特に水曜日。注意を怠ることのないように」

 俺は担任の話に半分耳を貸しながら窓の向こうに広がる青空を眺め――

ん? 今はそんなことより何かを忘れている気がする。

 そうこうしているうちにホームルームは終わり、教室はにわかに騒がしくなった。

「ねー一限目の数学の宿題やった~?」

「ん~、なんとか書くだけ書いたって感じかなぁ」

「だよねー、やっとかなきゃうるさいからねー笹川」

 そんな女子の会話を盗み聞き……いや小耳に挟んだ所でようやく思い出した。やばい。宿題写させてもらってない!

「おい文子!」

「大哉!」

 教壇から見て右側、窓際の最前席に文子、その列の一番後ろに机を構える俺は突然立ち上がり叫んだ。

 きーんこーんかーんこーん。きーんこーんかーん――――。

 それもつかの間。一時限目開始のチャイムが無情にも響く。

 俺たちに騒然とする教室だったが、チャイムと同時に数学教師笹川が襲来したことによってそそくさと席に着きだすクラスメイト。

「お、終わった……」

 唖然と立ちすく俺と文子。

「きりーつ」

 日直の一言でガタガタっと立ち始めるみんな。

「れーい」

 おねがいしまーす、とそれぞれが覇気の無い挨拶をして席に座る。

 俺たちはというと、教壇から見て左側、廊下側最後尾の席に座っている陽介を依然立ちっぱなしで、それこそ鬼の形相で睨みつけていた。

 視線を廊下側に逸らす陽介。

 ――その後、俺たちが笹川から大目玉を喰らったことは言うまでも無い。


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