エピローグ
こうして長きに渡……らない、たった二日間の不思議体験は幕を閉じた。
事件から一日。文子は今日も元気に学校へ来ている。体の傷などあるわけがない。
ただ、変わったことと言えば――
「ん? どうしたのさ、信号青だよ?」
「いやだってまだあいつ来ないし――」
「あいつ?」
「――いや、なんでもない。気にすんな」
文子をはじめとする、丹波陽介の存在を知っていた全ての人たちは、彼が存在していたという記憶を失っていた。
ではなぜ俺だけが陽介のことを覚えているのかというと、単にミアの配慮である。これがあいつに出来る最大限の罪滅ぼしなのだそうだ。罪も何もお前は何一つ間違ったことはしていないのに。俺がそう言ってあいつをなだめても聞いてくれなかった。
それに関しては何も謝る必要はない、ミアの判断は賢明だったと思っている。そう、あの陽介との一連のいざこざの時だけはだ。それより他に、俺はミアに対して物申したいことが山ほどある。その最たるものは――
「――しばらく住むぅ!?」
「うむ。ウォッチェストである私の独断と偏見で、この時代の取締まりは私が直々に行うことになった!」
「悪夢だ……これは悪夢だ……」
「どしたの大哉、頭なんて抱えて」
朝っぱらの通学路でミアにそんな衝撃発言をされた俺は軽く目眩がした。せっかくの青空が台無しである。
「いや、大丈夫大丈夫」
俺は文子になんとか気丈に振舞ってみせた。そうだ、こいつにはなんて言ってごまかそうか。まあミアは海外から来た留学生っていう設定だし、ホームステイに来ていると言ってしまえばなんの問題もないだろう。向こうもそう思っているに違いない。さっきも俺とミアが一緒に家から出てきたというのに何も言わなかったしきっと大丈夫だ。……言い方を変えるとただの馬鹿とも言えるが。
左にミア、右に文子と、文字通り両手に花(?)状態な俺は周囲から浴びせられる羨望と憎悪が交じり合った視線に胸を痛めていた。そんな時、ミアが俺を見上げて話しかけてくる。
「なあ大哉、今日は裏帰宅部には行くのか?」
「え、普通に行くつもりで考えてたけど」
「……そうか、お前がそう言うのなら私も全力で行こう」
「時空探検は当分勘弁だからな」
俺は苦笑してミアの面積の広い額を小突く。
「あだっ! うぅ……デコピンといい今のといい、貴様は私に対して借りがどんどん増えていくぞ……今に見てろ、そのうち強力な一発をお見舞いしてくれるわ!」
ミアは涙目になりながら赤くなった額をさする。
はいはい、と流しながら俺は別のことを考えていた。裏帰宅部部長――大月美小夜のことである。
俺とミアは大月が、自分のその存在を一度消されてしまっているということを知っている。しかし彼女はそんなことを知るよしも無いだろう。ただ、微妙に陽介と雰囲気が似ているのは昔の名残なのかもしれない。
幼馴染であり、親友でもあった陽介がいなくなってしまった。未練がないと言ったら嘘になる。しかし今の大月に陽介の影を見てしまっては彼女に対して失礼だ。大月は大月以外の何物でもないし、丹波陽介ではないのだ。それだけは心に留めておきたい。
そう頭の中で自己解決させると右サイドの文子に視線を移した。ボリューム満点のポニーテールが今日も元気に揺れている。
「なあ文子、四月もそろそろ終わるけど、部活は決めたのか?」
「うぐ、それを聞いちゃいますか……それがですね……誠にお恥ずかしい限りなのですが……」
文子はバツが悪そうに視線をそらす。まったく、面倒くさいことは土壇場まで残しておく辺り、俺たち本当に似た者同士だ。だが今回は俺の方が優秀だったらしい。
「なら丁度いい。そんなお前にな、オススメする部活があるんだけど――」
――そうだ、あっという間の高校三年間にしてやろう。それこそ、時間を早送りしたかのような最高の高校生活に。
おわり




