部活さがし その1
「いやーめちゃくちゃうまかったぞ弁当! ウインナーをウサギさんにするなんて、あいつは魔術師か何かなのか!? なんなんだ本当に!」
一日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、さて帰りますかとカバンを持ったところでミアが上機嫌に話しかけてきた。
「それさっきも話してただろ。何回言えば気が済むんだお前は」
ぐったりと溜め息をつく俺。弁当を開けてから放課後のこの時間まで、あまりの弁当のクオリティの高さにミアは終始興奮状態で、授業中もあの卵焼きはどうやって作っているのかとか、ご飯がただのご飯じゃなくて海苔で俵状に巻いてあるのがすごいとか、忙しなく俺に質問だったり感想だったりを語ってきた。よくあの空気の中で絶叫しながら弁当が食えたもんだ。そんなこと俺が知るかよ。一応俺もその辺の男子よりは料理するほうだと思うけど、さすがに文子と比べるのは畏れ多いものがある。あいつがどんな味付けをしてるかなんて本人に聞いてくれ。
「おーい文子ー」
俺は一番前の机で同じく帰り支度をしていた文子を呼んだ。心なしかムスっとしているように見えた。
「なに?」
「ええとさ、さっきからあいつがうるさくて、お前の弁当、すごい気に入っちゃったみたいなんだよ。んで、よかったら明日も作ってきてくんないかなあって」
「……やだ」
「え、なんでだよ。今日作ってくれた感じにまた頼むよ」
「……やだったらやだーっ!」
文子はそう言い捨てて脱兎の如く走り去ってしまった。
「な、なんなんだ……」
俺は文子が走り去ってしまった廊下を唖然としながら見つめていた。すると俺を後ろから陽介に声をかけられて我に返る。
「ダイヤ、お前もう部活は決めたのか?」
「いや、まだ」
「まだって……もう時間無いぞ? ちゃんと目星付けておけよ」
「まあなんとかなるだろ」
「お前なあ……」
陽介は嘆息しながら眼鏡の位置を直す。その動作一つで周りの女子たちがクラッとしたり黄色い歓声が飛び交ったりですごく胸糞悪い。
「……じゃあお前は決めたのかよ、部活」
「俺? 俺は生徒会に入るから部活には入らん」
「は? なんだよそれ」
「知らないのかお前。入学試験で上位三位に入った生徒は学校から生徒会へのスカウトが来るんだよ」
「そんなシステムがあったとは……実に能力主義な世界だな……」
社会の厳しさを垣間見た気がした。
「つまり、お前は三位以内に入ったってことなのか?」
「いや、このスカウト制度は生徒の自主性を重んじているらしくて辞退することも出来るから、繰り下げで俺に回ってきたって可能性もある。まあ順位は分からんがその近辺だということは確かだ」
謙遜気味に話す陽介がさらに憎たらしい。さっきからこいつの愚痴ばっかり言っている俺は劣等感の塊になっているような気がする。大丈夫心配すんな俺。こいつがすごいのは容姿と頭だけ。それ以外は同じくらいかそれ以上だ。うん、ポジティブに行こう。
そんなことを考える自分が多少惨めになってしまい負の連鎖が始まってしまいそうだが、そこんとこは必死にこらえる。
そんな俺たちのやり取りを相変わらずのくりくりとした目で観察しているミア。
「さっきから聞いていれば、大哉は部活に入るのか?」
「ああ、ここの学校の方針で強制的にどこかの部活に入らなきゃなんないんだよ。ここにいる陽介みたいな変態たちは別らしいけどな」
「誰が変態だ」
「ほうほう。部活かぁ、懐かしい響きじゃ。私も中学校の頃まで『ボール当て鬼ごっこ部』で仲間たちと汗を流していたものじゃ」
ミアがしみじみと頷く。
「ふざけた部活だなおい」
とても一千年後の未来にありそうな部活ではなかった。
「それで、まだ部活は決めてないと」
「そうだな」
「期限はいつまでなのじゃ」
「四月いっぱいまでだから、あと十日だな」
ぎこちなく陽介が会話に入る。
「なんと! もう日にちが無いじゃないか! よし、今日決めよう! うん、そうしよう! そうと決まれば行くぞ、大哉!」
ミアは自分のカバンを持ち俺の服の裾を引っ張って歩き出した。
「うお!? ちょっとおい引っ張るな! まだあと一週間以上もあるし、そんな急がなくても大丈夫だろ!」
「……私はそう言って後回しにした結果、失敗していく仲間たちを星の数ほど見てきた」
「え……」
「その星の中には小学校六年間、中学三年間と、夏休みの宿題を夏休みが終わってから必死こいてやっていた私もいる」
「お前の失敗談かよ! ていうか九年間って! さすがにどこかで改善しようと思えよ!」
「でもまあ、ダイヤにそんな失敗をして欲しくないと思うミ、ミア……さんの気持ちは見習うべき所があるな」
さりげなく(?)フォローする陽介にミアはまんざらでもなかったらしくうっすらと顔を赤くさせた。
「ふ、ふんっ! なかなかいいことを言うじゃないか眼鏡」
「眼鏡……」
そのまんまだった。
「よし、とにかく部活探しに出発するぞー!」
「分かったから! とりあえず手を離せ! 普通に歩かせろ!」
そんなこんなで、すごく、とても気乗りしない部活探しが始まってしまった。




