第1話
ヤーの名前はロシア…ロシア・ソヴェートコフ・ルーシ。
カントリー学園の新入生だ。
…と仰々しく名乗ってみたものの、ヤーは今絶望している。
なぜか?
校門をくぐって約10分が経つというのに、自分の教室、1-Aがどこにあるか分からないのだ。
「ここは2-B、こっちは3-E…」
カントリー学園は地球共和国の中で最も大きな学校で、とにかく校舎が大きい。
まずい、このままでは初日から遅刻することになる…。
「おーい!そこのお前!ネクタイの色が緑ってことは、お前も一年生か?」
猛ダッシュでこちらに接近しながら大声で話しかけてきたのは、恐らく同級生だろう。
この学校では、学年毎にネクタイやリボンの色が変わる。
その為、すぐに先輩後輩が分かるのだ。
「そうだが…お前は?」
「俺の名前はアメリカ!アメリカ・イングランド・ゲルマン。一年生だ!」
「よろしくアメリカ、ヤーはロシア・ソヴェートコフ・ルーシだ。」
どうやらこいつはアメリカと言うらしい。
「ところで、道に迷っていてな…1-Aがどこにあるか知らないか?」
「なんだ、1-Aってことはクラスも同じじゃないか。でももう1つ、俺とロシアが同じことがあるぜ!」
「…なんだ?」
なんとなく嫌な予感がしつつも質問する。
「それはな…俺も道に迷ってるってこと!俺ら気が合いそうじゃないか?」
「笑いながら笑えないことを言うな…。このままだとヤー達、入学初日に遅刻することになるぞ?」
「ハハハ、心配ないって!俺の特製GPSアプリがあれば一発さ!」
そう言ってアメリカはスマホの画面を突き出してきた。
「おい…ハンバーガーショップのクーポン画面になってるぞ?」
アメリカが見せてきた学園にはカントリー学園のマップではなく、ハンバーガーショップの公式アプリが開かれていた。
「おっと、開くアプリをミスった…。えーと、どこだっけ?…あ。」
「なんだ?また嫌な予感がするんだが…」
「やべ、バッテリー切れちまった…。」
「マジかよ…てかそもそもこの学校スマホの持ち込みダメだろ?」
「ハハハ、ルールは破る為にあるんだよ!」
ヤーが呆れていると、後ろから呆れた声が聞こえてきた。
「まったく、初日からなんて大声をあげているアルか」
後ろを振り向くと、そこには赤いリボンをきっちりと結んだ小柄な髪の長い女子が立っていた。
「お前は誰だ?」
「我は中国或夜、お前たちと同じ1-Aのクラスメイトアル。」
「なんだ、お前もか。1-Aの教室の場所を知らないか?」
「…知ってるも何も、お前たちの後ろにあるのが1-Aの教室アルよ。看板が裏返っているのを差し引いても、目の前で迷子になるのは流石にアホすぎるアル…」
見上げると、確かに∀-1と書かれた逆さまのプレートがあった。
「マジか…ありがとう、助かる」
「…別に良いアル。」
俺が礼を言うと、チューゴクは少し顔を赤らめながら素っ気ない態度で返事をし、教室に入っていった。
後を追うように教室に入ると、黒板にそれぞれの席が書かれている。
俺は3号車の廊下側、一番後ろらしい。
どうにも廊下側から2列ごとに1号車、2号車、3号車というふうに号車が決まっているようだ。
1列につき5個机があるから、2×5×3でクラスメイトは30人だろう。
ヤーが席につくや否や、右隣からふわりと甘い香水の匂いが漂ってきた。
「あら、よろしくね。お隣さん。」
振り返ると、そこには美しいブロンドの髪を揺らした女子が、妖艶な笑みを浮かべてヤーを見ていた。
「ああ、よろしく…俺はロシアだ。」
「ふふ、知ってるわよ、廊下でアメリカとあんなに大騒ぎしていたら、嫌でも耳に入るもの。それにしても…あなた、近くで見ると結構いい男じゃない?私はフランス・フランク・ローマ。改めてよろしくね。」
「んなっ…あぁ…よろしくな…」
初対面で距離感のバグっているフランスにヤーが困惑していると、ヤーの左隣から「はぁ…」という深い溜め息が聞こえてきた。
「…フランスさん。初日からクラスメイトを困らせないでください。ごめんなさいね、ロシアさん…。私はイギリス…イギリス・イングランド・ゲルマン…イギリスって呼んでちょうだい。」
「ああ、イギリスさん…よろしく。」
彼女の名前はイギリスというらしい。
整った顔立ちに、少しドキッとする。
「イギリスで良いわよ。その代わり、私もロシアって呼んでいいかしら?」
「ああ、もちろん。」
そう答えると、イギリスは嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「キーンコーンカーンコーン」
絶妙なタイミンクで、予鈴のチャイムが校舎内に響き渡る。
「あら、もう時間ね。お喋りはまた後で」
フランスがウインクを投げかけ、イギリスも前を向いて背筋を伸ばす。
ガラガラと前方の扉が開き、「全員席につけー」という野太い声とともに、いかにも厳格そうな担任の先生が入ってきた。
ヤーは深い息を吐き出し、いよいよ始まる学園生活に向けて、黒板へと視線を向けた。




