日報54『別セル分離』
ひと昔前ならば別動画として描かれていたパーツが、最近では一枚の動画用紙に描かれるようになった。主に涙や飛び散る血、透過光マスクなどだ。どれもベタ塗りで撮影処理が入らないものならば、別セルに分ける必要はないのだが、現在では大体において処理が入る。涙ではノーマル、影部分のダブラシ。血ではエッジのぼかしなど。
「涙流しながら斬られて飛び散る血飛沫・・・、これ両方とも分離案件か?」
カットナンバーを確認して、色指定打ち込みデータを引っ張ってくる。それを見ると、やはり血も涙も別セル分離の指示が入っていた。念の為タイムシートのメモ欄も確認する。案の定、涙はダブラシ、血はエッジのぼかしが入る旨が書き込まれていた。
「Aセルが斬られてるキャラで、Bセルが剣先、Cセルが土ケムリ・・・って、ケムリもTPに別色内線かあ、こりゃ時間かかるぞ。」
輪郭線のないケムリなどのエフェクトもそれなりに面倒だ。輪郭線が一色でその内側をノーマル、影色で塗る方法だと、それほど他のセルと変わりはないのだが、このカットのケムリは全体的にぼかしの処理が入る為、輪郭線がないTP処理になるようだ。ちなみにTはトレス、Pはペイント、トレスペイントでトレス線も含んでペイントするという作業工程になる。
さて、どれから手を付けようか。普段ならAセルから順に塗っていくのだが、面倒事は後に回したくなる性格が頭をもたげてくる。
「よし、Bセルからにしよう。」
大変なセルから手を付けて時間を取られたあげく時間に間に合わず、簡単なセルを他の人に引き取ってもらうなんて事も過去にはあった。仕上げの仕事は一枚塗っていくらの世界なので、まず簡単に塗り終えられる作業を優先したいというのは偽らざらぬ本音である。という訳で、簡単なBセルをはじめに塗り、Aセルより枚数の少ないCセルを次に、Aセルは最後に回す事にした。
「Bセルは問題なし、Cセルのケムリも山が大きいしなんとかなるだろ。」
B、Cセルは特に問題なく作業が終わり、とは言ってもCセルはそれなりに枚数があったので時間はかかったが、いよいよ本丸のAセルに取りかかる。
「んー、涙のトレスとハイライトは元セル描き込みのままだからいいとして、ノーマルと影は仮色で塗ったあと分離して色変えか、別セルで後からクミを切って塗るか。仮色で塗る場合は・・・?」
モニター上のセルを進めながら仮色が必要なパーツを確認していく。
「あー、結構瞳にかかってるなあ。」
後ろの方のセルになると、面積が大きくなり白目だけでなく瞳にも涙がかかってくる。仮色が必要なパーツは実線、瞳のふち、瞳のノーマル、虹彩、虹彩ハイライトトレス、白目ノーマル、肌のノーマルに一号影。あとは空中の何もない部分か。これはいちいち仮色を乗せていくのは面倒くさいかもしれない。
「まず涙の輪郭トレスとハイライトのペイントを先にやっちゃって、それと影色トレスの青をマスキングで分離・・・か?」
別の方法も思案する。そしてこちらの方が幾分マシに思えた。マシと言ってもこれはこれで面倒くさいのには変わりないのだが。
一枚の動画に全てが描き込まれているので、キャラの影色トレス、ハイライトトレス、目切り線トレスなどに涙のトレス線が重なっている。このカットは涙の輪郭トレスが濃い緑、血の輪郭トレスがマゼンタで出力されていたので多少は楽をできるのだが、他カットや他作品、要は描く原画さんや動画さんによっては従来の赤青緑しか使ってくれないので、どうしてもキャラの影、ハイライトトレスと同じ色を使われてしまい、同色のトレスが交差するハメになる。
「虹彩が緑トレスで虹彩ハイが赤だから・・・、でも重なるか。」
涙の輪郭トレスに濃い緑を使っていてくれても、涙のハイライトは赤色トレス、影は青色トレスで作画されているので、どうしても目切り線の赤色トレスや肌影の青色トレスと交差する線が発生してしまう。そこはもう、いちいち不要な線を消していくしかない。
「作業前のトレスデータをコピーしておいて、キャラを塗ったあとから涙トレスとクミを切って・・・だと余計に面倒くさいか?」
先ほど一旦考えたように、まず最初に涙の輪郭トレスとハイライトを通して塗ってしまう。その後に涙の輪郭とハイライト、影色の青を選択してマスキングで分離。ダブラシセルとして分離した物をノーマル、影色ペイントして、輪郭とハイライトの色を消す。これでダブラシセルの完成になるが、この場合、あとからキャラを塗る際に絶対に涙の内側部分の輪郭線を修正してはいけない。ダブラシセルとのクミがずれてしまうからだ。
「よし、涙はコレでいくとして、血飛沫の方はマゼンタ、赤、青を作業前に分離、かな?」
飛び散る血飛沫だが、切り口の実線とのクミがある。ここはもう一枚ずつクミを切っていくしかないだろう。
まずは涙の処理。濃い緑のトレスは二値化の優先順位が実線、赤、青、緑より低いので、一番強い実線の部分は完全に濃い緑は途切れていて、赤トレスなどは多少濃い緑に食い込んでいたりする。それらを修正しながら涙トレスを繋げていく。輪郭とハイライトを最後までペイントし、彩色チェックした上で、輪郭、ハイライト、青トレスをマスキングでダブラシセルとしてファイル名を変更して分離。先に涙のダブラシセルを作業してしまおう。実線で途切れていた青トレス線は繋げ、同じ青トレス線が交差している部分は削っていく。そしてノーマルと一号影をペイントしたら彩色チェックで塗り残しがないか確認。バッチ処理を使用して輪郭とハイライトの色と余分な赤、青色を消したらダブラシセルの完成だ。
次に血飛沫の輪郭トレスのマゼンタとハイライトの赤、影色の青をペイント作業前に分離。色指定打ち込みの指示に従いダッシュセルにファイル名を変更しておく。こちらは切り口とのクミがあるため、キャラのペイントを済ませた後の作業になる。
「さて、キャラ塗ってくか。マゼンタはバッチで消しちゃっていいかな。」
すでに別セルとして分離し、避けているマゼンタ色はキャラのペイントには不要なので、先にバッチ処理で消してしまう。あとは原画を確認しながらキャラをペイントしていくが、涙と血飛沫の赤、青トレスを削りながらの作業なので、なかなかに面倒くさい。
「よっしゃ、キャラ終わり。最後は血飛沫っと。」
ダッシュセルとして分離した血飛沫のセルを開き、ライトテーブルに作業済みのAセルを読み込む。そして切り口とクミを切りながら血のノーマル、一号影、ハイライトと塗っていくが、クミを切るべき実線と交差する実線があるため、いちいち鉛筆ツールでポチポチと血の色で区切っていく作業が発生する。これが地味に面倒だ。血の色で区切ってから塗り抜けていた実線部分を塗り潰す。この作業を一枚一枚していく。
「涙みたいにトレス線が別色ならまだ塗りやすいのになあ。」
そう、血飛沫もTP処理だ。濃い緑同様マゼンタも二値化の優先順位が低いため、実線と交差していた部分はしっかり途切れている。それを繋げながらのTP処理は時間がかかる。
最後のセルまでペイントを済ませ、彩色チェック、モーションチェックをし、もう一度ライトテーブルを表示し、ちゃんとクミが切れているか確認する。
「よし、終わり!」
最後に全てのセルを再び開き、一通りセルを流して軽く確認。上がりフォルダにデータをアップしてこのカットは終了だ。
「分離したセルも枚数請求できればなあ・・・。」
仕上げがデジタルに移行した初めの頃は分離したセルも枚数請求できていたそうだが、今はタイムシートに表記のないセルは基本請求できない。物によっては本体のセルより作業に手間がかかる場合もあるのだが。
さて、まだ棚にカット袋は残っているだろうか?できれば別セル分離のない普通のカットを取りたいものだ。




