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日報53『アオリとフカン』


 通常、原画には動画や仕上げに必要な情報が書き込まれているものなのだが、少々不親切な原画もたまに、いや多々ある。

 今日引いたカットは、向かい合ったキャラ二人の足元にカメラがあり、ほぼ垂直に見上げているアオリのカットだ。普段あまり使われない角度の為か、パーツの描き分けがよく分からない。一枚止めなので動画さんも原画通りに線を引いているだけで、どのパーツなのか理解して動画を描いているとは思えない。


「上着の裏は表と同色だよな?スカートの下のヤツは何て名称だっけ?カラーモデルにはボックスないからここは仮色で・・・。この紐みたいのは胸のリボンの先か、髪の毛か、どっちだ?」


 長い髪を右側にまとめて体の前に持ってきているキャラで、制服の上着、シャツ、リボンタイ、髪の毛のうちのどの色で塗ればいいのかよく分からない。原画にも指示はないし、影色の塗り分けも青一色で判断がつかない。


「顔がこれで髪がここまで?だとすると、リボンがこれで、両脇がシャツ・・・でいいのか?」


 原画に一言でも指示が入っていればここまで悩まなくても済むのにと思いながら、何度も塗り分けを変えてみて、一番しっくりくる塗りを模索する。

 もう一人のキャラはシャツとベルトの区別がつきにくい。最初はベルトかと思って色を入れたが、実線が数ドット途切れていたようでシャツの方まで塗り広がってしまった。この実線が故意に繋がっていないのかどうかで塗り分けが変わってくる。


「位置的にはベルトだよなあ?」


 悩んだ上で実線を繋ぎ、ベルトの色でペイントすることにした。ズボン、ベルト、シャツ、上着と塗っていって、顔と髪も塗り分ける。あとはそれぞれの口パクを作業すればこのカットは終了なのだが・・・。


「この角度だと舌じゃなくて口の中か?」


 開き口には歯の作画だけがあって、舌と口の中を分ける線はない。原画の塗り分けは影色になっているのだが、口の中の色で塗ると、色が暗すぎる気がする。逆に舌の色では明るい気がするし、何より角度的に舌が見えるのはおかしいとも思うが、アニメでは意図的に嘘をついた作画をする事もあるので、正直どちらが正しいのか分からない。


「んー、口の中にしとくか。」


 口の中の色に決めてペイントして上がりを出した。




 次の日、今度は極端なフカンのカットを取った。真上からのカメラで走っているキャラのカット。このカットの原画には肘、膝、靴など、都度指示が入っていた。これくらい丁寧な原画だと、仕上げとしてはありがたい。


「ここは手、ここは靴の裏。んで、次のセルはここが肘で、ここが爪先、っと。」


 中割り動画には怪しいところも少々あるが、塗り分けられないことはない。動画さんもどのパーツを描けばよいのか理解して線を引いているのだろう。

 指示付きの丁寧な原画は後のセクションの人間の心を穏やかにすると言っても過言ではない。こういう細かいパーツやヌキ場所の指示入れは、仕上げ時に本当に助かるので、全原画さんはこういう原画を描いてほしい。ちなみにヌキというのは色を塗らない場所の事で、大体は赤色などでバツ印が書いてある。稀に『ヌキ』と言葉で書いてくる人もいるが。

 走っているキャラを三人塗り終え、もう一度チェックをしてからデータを上げ、次のカットを取りに行く。今度は別の作品のカット袋だった。


「さて次は・・・、あれ、またフカンのカットだ。」


 トレスデータを落として見てみると、少し角度は付いているがほぼ真上からのカメラで、画面の上にいるキャラが下にいるキャラに近付いて行って両肩を掴むという内容。原画データには前のカットのようにどのパーツかを指示する文字はない。角度が付いてはいるので、多少洋服などのパーツ分けは見て取れるが、自分が考えている塗り分けが正しいかどうか確証が持てない。色指定打ち込みを開いてみると、指定さんがパーツ分けの指示を入れてくれていた。


「なるほど、ここがベストのボタンで、ここがバックルにベルト。」


 下のキャラは左手に何かを持っているが、これには仮色のボックスが指示されていた。


「えっとこっちのキャラは、髪、襟、上着、スカート、タイツに靴。それと仮色か。こっちは問題ないな。」


 下にいるBセルのキャラは後ろ姿なので、特に気になるところはなく塗り進められそうだ。それに途中からAセルにセル渡りするので、先に塗ってしまおうか。


「あ、セル組みあるか?これ・・・。」


 タイムシートを確認すると、一枚だけAセルの指先がBセルの上にこなくてはならないところがあったので、やはりAセルから塗っていく事にした。Aセルを塗り終わりBセルに移る。必要な組みを切りつつさらに塗り進める。今回は打ち込みに指示があった為、ほぼ悩まずに塗れた。まあ、Aセルの一枚にバックルの作画が足りていなかったのだが、小さい面積だったので、前後のセルに合わせて自分で実線を引き足して塗ってしまった。


「よし、終わり、っと。」


 極端なアオリやフカンの絵はやはりある程度パーツの指示を入れてくれないと、どの色をのせていいのか判断しにくい時が多い。原画の時点で指示入れしてもらうのがベストだと思うのだが、そう気の利いた人ばかりでもないので、仕上げとしては悩ましいところだ。




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