日報52『料理3』
久しぶりにしっかり並べられた料理のカットを引いた。俯瞰気味のカットでキャラ二人が食卓を囲んでいる。三カット兼用なので、カット毎に料理の量が少し減っていたり、手元の皿の位置が変わっていたりする。
カラーモデルはちゃんと存在しているが、皿、椀、箸以外は直接色を拾って下さい、不明点は仮色で、のタイプだ。色指定の打ち込みも該当のファイル名が一行書かれているだけである。
机上にはご飯に味噌汁、漬物。大皿のひとつは野菜炒めだろうか。もうひとつは肉っぽいかたまり。
「まあ、この量の全部にボックス付けられないのも分かるけど、色拾いにくいんだよな。」
例えば食材のトレス線の色をスポイトしようとすると、カラーモデルをかなり拡大しなければならない。そこからさらに別の食材を探そうとすると、カラーモデル内を大きく動かさなくてはならないので手間がかかる。
「えっと、原画になんか指示あるかな?」
細かい料理の取説までは期待しないが、それぞれが手を付けている物が何なのかくらいの説明はほしい。原画データを見ていくと、料理が並んでいるCセルには料理名が書き込まれていた。どうやら大皿の二品は豚の角煮と野菜炒めのようだ。角煮の肉はしっかり脂がのっていて塗り分けが細かい。勘弁してくれ。
「A、Bセルの手元は・・・?」
Aセルのキャラは、まず取皿に取った角煮、次のカットはご飯を食べ、最後のカットは味噌汁を飲んでいる。同様にBセルのキャラは野菜炒め、角煮、ご飯の順だ。Bセルの原画には口元に持って行く物に「キャベツ、ニンジン」の指示がある。前後カットとの合わせがある為だろうか、特定してくれているのはとても助かる。
「Cセルの料理からいくか。面倒だけど・・・。」
大皿が合成親、盛り付けられている料理が合成子で、残っている量が変わっている。まずは大皿を指定の色で塗り、料理に取りかかる。
デジタル動画で色トレス線の色を増やしてくれているのもありがたい。通常の赤青緑に加え、濃い緑とオレンジ、ピンクも使用されている。角煮は肉の色トレス線が濃い緑、脂が通常の緑。また野菜炒めの色トレス線はキャベツが通常の緑、ニンジンがオレンジ、タマネギがピンク、ピーマンが濃い緑、しめじが実線の黒という風にそれぞれ作画分けされていた。余白部分にも「緑トレス→キャベツ」という風に指示がなされており判断に困らない。
判断には困らないが、面倒くさいのは変わらない。特に角煮は脂が細かく入っており、塗り分けが大変だ。野菜炒めのしめじも、パッと見は分かりにくいが、輪郭線は実線の色と同色ではない。濃い茶色になっている。RGB値オールゼロのトレスデータの上に指定の濃い茶色を乗せても変化が分かりにくいので、一旦仮色を乗せておく事にする。全て塗り終わったあとにバッチ処理で変換、親セルの皿に合成して作業完了。
「よし、止めの大皿と漬物はこれで良し。」
塗り分けは細かいがなんとか塗り終えた。あとはキャラに付随した物だ。
A、Bセル共に下半身が合成親一枚目、それぞれのカットで止まっている食器、料理類が合成親二枚目、三枚目、四枚目となって、さらに止まった上半身もカットの後半に合成親になる。まずキャラを塗り、料理類に手を付ける。取皿の角煮を箸で小さく分け、口元に運んで咀嚼を繰り返すまでが最初のカット。後半は閉じ口のままで六枚、口を動かすだけなので、ここはゴミがないかと補正を確認して終了。次のカットはご飯茶碗を手に持ち、一口食べてまた咀嚼。
「この大きさでご飯粒ひとつひとつ描かなくても・・・。」
ご飯粒ももちろん色トレスだ。濃い緑で作画された粒の、線で潰れてしまっているところを鉛筆ツールで削っていって、ご飯のペイント色を塗っていく。兼用三カット目は味噌汁を飲んでいるところ。もう一度原画をもう一度見てみると、お椀の中身にも「とうふ、ワカメ」と指示が入っていたので、問題なくパーツの塗り分けができた。とても親切な原画さんのカットに当たってラッキーだ。
Aの子セルを全て塗り終えたら、検査をして親と合成。さらに合成したセルを念の為もう一度検査。さてここからもうひと手間、上セルの作成だ。キャラは背景で描かれた、book分けされた机に向かって座っている。このままキャラのセルを配置すると、机の下に上半身と料理が隠れてしまう、もしくは机の上に下半身が乗ってしまうという事態が起きるので、机のbookを挟み込めるように机上にくるものは上セルとして分離しなくてはならない。なので、完成したAセルのファイル名をA上セルに変更してコピーしたものを、腕と料理以外の部分を消した状態にする。これでAセルの作業は終了だ。続いてBセルの作業を始める。
「これはニンジンとキャベツっと。」
ちゃんと色トレス線も原画で指示された色で描かれているので、ペイント作業も困らない。全てのカットでこうあってほしいものだ。今までなら輪郭の色トレス線は緑一色、パーツ分けも不明なまま何の指示もないようなカットがザラにあったので、原動画の時点で色トレス線に任意の色が使えるのは仕上げとしてもありがたい。
角煮、ご飯も問題なく塗り終わり、親セルと合成して検査。そしてAセルと同様に上セルを作成して終了。食事シーンはとにかく面倒くさいが、今回はトレス線の色分けや原画の指示が細やかだった為、なんとか塗り終えられた。もうひとつ新しいカットを取りに行けそうだ。
「わあ・・・、嫌な予感のするカット番号・・・。」
それは今、上がり棚に出してきたカット袋の、ちょうど間のカット番号だった。トレスデータを落として中身を確認すると、先程の兼用カットのBセルのキャラが野菜炒めを食べているカットだった。今度はバストアップ。キャベツのディテールが少し細かくなっている。
「まあ、ニンジンとキャベツだけだし、輪郭線も色分けされてるし、なんとかなるか。」
たぶん角煮のディテールアップされたものよりは楽なはずだ。そう自分に言い聞かせ、作業に入る。先程、大皿の止めセルと直前のカットを塗っている為、勝手は分かっているはずだ。
箸とニンジン、キャベツを塗り、キャラを塗っていく。口の中に入れてからは、体は合成親で咀嚼の口パクがあり、ラストにセリフの体パク。体パクとは、口だけ動かすのではなく、体全体を動かしてセリフを喋っている表現だ。
検査を終えてカット袋を上がり棚に出しに行くと、もう今日の作業分は捌けていた。
「今日は料理しか塗らなかったな、こういう日もあるか。」
そこそこの枚数は稼げたので、まあ良しとしようか。しばらくは料理のカットは引きたくないが。




