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日報49『ダンス』


 本編にはまったく関係ないが、オープニングやエンディングでキャラが踊るというパターンは最近よくある。今回引いた作品も、どうやらちょこちょこ踊っているカットがあるようだ。ちなみに何シーズンかにわたって続いている作品の新しいオープニングである。


「えーっと、打ち込みは、メインの冬服でひたすらダンス。キャラが一人だけなのが救いか。」

「一人なの?いいなあ。こっちは二人で回ってるわよ。」


 振り向くと、隣の席の北町(きたまち)さんがこちらのモニターを覗き込んでいた。


「北町さん、今日は塗りですか?」

「うん、面倒なの引いたわー。二人で手を取ってクルクル回ってる。なんで南花(なばな)のより下に置いてあったんだろ?」

「枚数じゃないですか?こっち六十八枚あります。」

「まあこっちは三十七枚だけど。」


 そんな話をしていると、他の仕上げブースも俄かにザワザワとしてきた。どうやらみんなもこのオープニングがダンスものだと気付き始めたようだ。


「主題歌に合わせてキャラが歌ってるOPEDは何度か塗りましたけど、ここまでちゃんと踊ってるヤツってうちでは初めてじゃないっスか?」

「見る分にはダンスバージョン好きだけどねー。あと、絵具の頃に一回うちにも入ったらしいよ、踊ってるヤツ。」

「へえ、そんな昔からあるんスね、ダンスバージョン。最近の流行りかと思ってました。」

「当時は相当ザワついたって、先輩たちから聞いてる。やっぱり珍しかったんだろうね。」


 オープニングのカラーモデルを落としながらそんな話をした。さて、始めるかと、一旦セルを流してみる。大きな作画不備はなさそうだ。という事は、裏を返せば細かい作画不備はあるという事。まあこれはいつも通り、よくある事だが。


「とりあえず原画あるとこから塗ってみるか?」


 実線と色トレスだけの白い画面では気付けない影パカなども、塗っているうちにあぶり出されてくる場合がある。まずは原画の①と②にあたる動画を塗ってみて、次に中割り部分を塗っていく。メカの塗りで自分がよくやる方法だ。すると案の定、左足の影付けが一枚で反転していた。


「うーん、動き速いからアリなのかな?念の為メモに残しておくか。」


 テキストメモにその旨を書き、フォルダに放り込むと、続きのペイントに取りかかる。原画の影付けは極力活かしたいのでこの塗り方をしているが、動画ナンバーが進むにつれ明らかにミスが増えてきた。いくら動きが速いとはいえ、このままでは完全にパカって見えるが、仕上げで修正できるかと言われると微妙なところだ。


「オープニングだからリテイクも厳しめだろうしなぁ・・・。下手にいじらずこのまま出すか。」


 フォルダに放り込んだメモに追加でパカる箇所を記入していく。少し線が足らないくらいならば描き足しもするが、影付けの動きはやはり作画さんの領分だ。


「なんかホントにメカ塗ってる時みたいだな。」


 ステップを踏んで一回転、素早い動作にごまかされがちだが、いたるところで影パカが発生している。それを逐一メモに追加していくのだが、随分な量になってしまった。完全な影パカが十四ヶ所、少しあやしいところが五ヶ所ほど。リテイクで返ってくるかは、もはや賭けだ。ひと通り塗りが終わって検査に移る頃には、北町さんは次のカットを取ってきて中身を確認していた。


「まだオープニング乗ってたよ。今度はひとりずつなんでさっきよりマシだけど。」

「北町さん、さっきのカットって作画どうでしたか?これちょっとパカがありすぎて修正しきれないレベルなんスよね。」

「私の方は普通の動画上がりだったよ。何ヶ所か塗り分け線がちょっと繋がってなかったくらいで。んー、でもコレは・・・あやしい、かな?」


 見せてもらうと、自分が塗っていたカットと同じような振り付けでキャラが踊っている。


「塗ってなくても分かるもんスか?」

「今、明らかに影線足りてないなってところはひとつあったわね。ほら、ここ。」

「あ、ホントだ。俺のもこの腕を回してるとこ、パカありました。」

「あとはパーツ抜けはなさそうだね。なんとかなるかな?」

「北町さん、ちょっとそれ塗り始める前にこっち見てもらっていいですかね?」


 モーションチェックでセルを流した物を見てもらうと「ああ・・・」と納得したであろう声が漏れて聞こえた。


「なるほど、影の中割りが上手くできてないカンジか。」

「このまま出そうと思ってたとこなんですけど、北町さんならいじりますか?」

「んー、一枚で影付けが逆になるところが多すぎるわね。作画さんに投げた方がいいかも・・・?」

「一応、都度メモは書いておいたんですけど、あんまり多いんで大丈夫かなと。」

「メモを残してあるならいいんじゃない?そもそも私たちの仕事はペイントであって動検じゃないんだし。」

「じゃあこのまま検査して出します。ありがとうございました。」


 先輩のお墨付きを得たところで、検査に入る。ちょこちょこと穴があった程度で、そう時間はかからずに検査作業は終わった。最後にもう一度セルを流してみて確認。まあ、見直したところでパカはパカのままなのだが。

 ダミーカット袋を上がり棚に置き、次を取ってくる。同じオープニングのカットは自分が取った物で最後のようだった。


「さて、ラストはどんなカットですかね?」


 サーバーから指定打ち込みと動画のデータを落として中を確認する。中身はステップを踏んでいる主人公の足下だけだった。


「靴はローファー本体と靴底の二色、それとズボン。枚数もそう多くはないし、なるほどこれが一番下になるか。」


 色指定は先程と同じノーマル色だったので、新しくカラーモデルを落とす必要もなく、すぐに作業に入る。

 塗り始めてから数枚、ズボンと靴の間にほんの少し隙間があった。


「あれ?靴下のボックスってあったっけ?」


 カラーモデルを隅から隅まで確認するが、どうも見当たらない。足下しかフレーム内にないので、肌色で塗ってしまっても色置換は容易だろうが、念の為、仮色ペイントをした上でメモを付けて出す事にする。


「あとは特に問題なし、っと。」


 最後のセルまでペイントが終わって検査に移る。今度は影パカなどはしていないようだった。上がりデータを提出したところで、同じブースから「お疲れ様でした」の声が聞こえてきた。どうやら今日の分のカットはもうなくなっていたようだ。すでに北町さんも帰り支度をしている。


「お疲れ様でしたー。」

「北町さん、お疲れ様です。結局今日は全部オープニングでしたか?」

「最後の数カットは本編の枚数少ないやつが乗ってたけど、ほとんどオープニングだったみたい。南花は?」

「コレもオープニングでした。まあ、わりと楽なカットでしたけど。見ます?」

「見る見る!あー、足だけか。華麗にステップ踏んでるわね。」

「踊るようなキャラじゃないですけどね。」

「それを言っちゃあ、他のキャラだって・・・。しかし、どんな歌でどんな絵面になるのかね?」

「早く見たいっスね。」

「そうね。じゃあ、お疲れ様。」

「お疲れ様です。」


 改めて挨拶をし、北町さんを送り出した。自分はダミーカット袋を置きに行って、今日の作業分のカットの山がなくなっている事を確認し、席へ戻る。


 帰り支度をしながら、まだ見ぬ新オープニングに思いを馳せる。イレギュラーな物は案外評判が良かったりするのだが、コレはどうだろうか?新シリーズのワンクール目が今月末までだから、きっと来月からこのオープニングに替わるはずだ。楽しみがひとつ増えた。




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