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日報48『打ち込み不備』


 色指定さんもひとりの人間、たまにはミスもするだろう。だが、丸々指定が打ち込まれていないというカットには初めて遭遇した。


「朝イチから問い合わせかー。まだスタジオ入りしてないだろうな、きっと。」


 厳密に言うと、打ち込もうとした形跡はある。余分なファイルは新しいフォルダにまとめられており、打ち込みに必要なファイルだけが表に出ていた。しかしそのファイルはまっさらな状態で、何の書き込みもされていないのだ。打ち込み素材がレイアウトやラフ原ではなく、ちゃんとした原画なので、キャラや服装は分かるし、前後数カットの打ち込みを見れば「この色のこのキャラなんだろうな」とも分かる。とりあえずノーマル色で作業をして、返事待ちか。こういう時に、担当が社内の色指定さんだとすぐ聞きに行けるのだが、今日引いた作品は社外の色指定さんなので、返答に時間がかかるだろう。


「とりあえずノーマルカラーモデルを引っ張ってきて・・・、このキャラとこのキャラとそれぞれのスマホだな。」


 学園モノの作品だが、服装は私服、手にスマホを持っている。まずノーマル色で塗ってしまって検査後に色置換バッチで本番色に変更する。便利な世の中になったものだ。絵具時代にはできなかった『とりあえず』という作業が可能なのだから。


「そういえばこの指定さん、前にも打ち込み抜けがあったような・・・?」


 ワンクール作品でもニ、三回は指定のローテーションが回ってくるのはよくある事だ。そして仕上げの人間は各指定さんの打ち込みの癖というかフォーマットをわりとよく見ている。この指定さんはおそらく三話前の人と同一人物だろう。ちなみにカラーモデルを作る色彩設計さんも、カラーモデルの作り方で「あ、あの人のカラーモデルだ」と分かるようになってくる。大体の設計さんが自分の作ったフォーマットを変えず、次々と作品を当てはめていくからだ。


 ペイントが終わり、検査も済み、あとは打ち込みの確認だけ、なのだが、やはり返事はまだこない。とりあえず手元に置いておいて、次のカットを取りに行く。戻り際に今日の制作進行に聞いてはみたが、やはり折り返しはまだとの事。諦めて次のカットを進めよう。


「またこれの同じ話数か。」


 先ほどと同じ作品の同じ話数のナンバーがダミーのカット袋に書かれている。今度はちゃんと打ち込まれていますように。


「さて、打ち込みは、と。」


 このカットはきちんと打ち込みがされていた。渡り廊下色で制服の女子キャラの指定だ。後ろ姿のA1原画に打ち込まれている。


「Aセル二十三枚・・・、あれ?なんか持ってんな?」


 カット頭こそ後ろ姿で歩いているだけだったが、セルが進むにつれて振り返り、胸に本か雑誌かを抱えている。タイムシートを確認してみると、メモ欄に『本の表紙貼り込み』と書き込まれていた。


「んー、抜けが多いなあ、この人。」


 ただ、撮影での貼り込み処理に対応するための仮色は、仕上げ注意事項に見本があるので、それを使う事にする。その旨、テキストファイルにメモを残しておけば、問い合わせまでしなくても大丈夫だろう。


「香盤表とかシートとか見てないんかな?」


 ちなみに香盤表とはその話数のシーン色や登場キャラ、その服装、作画になる小物などを一覧表にしたものだ。

 連続での指定抜けに直面し、顔も知らない別会社の色指定さんに対して怒りよりも嘆きや心配の方が先に立ってくる。


「まあ、とりあえずこのカットはメモでいいか。」


 気を取り直して塗り始めようとしたところで昼休みの時間になった。うちの会社の入りが遅い設計さんや指定さんたちは、遅くとも昼休み明けには席に着いているので、よその会社でも指定さんたちのスタジオ入りはそれくらいかと勝手に思っている。


 昼休み明け、作業を再開して十五分ほど経っただろうか、制作の川上(かわかみ)さんがこちらにやってきた。


「朝の問い合わせ、返事きたよ。指定入れ直したって。」

「ありがとうございます。確認します。」


 サーバーから改めて該当の打ち込みデータを落とし、内容を確認すると、やはり色変えのカットだった。すでに落としておいた色変え、夕景色のカラーモデルを開き、ノーマル色のものとズレがないかをライトテーブルで確認する。ズレがなければ『セルから色置換を作成』するというものが使えるので、一気に色変更ができる。


「便利とはいえ、手間は手間なんだよなあ。」


 色置換バッチを全てのセルにかけ、ちゃんと変換されているかどうか、もう一度パーツごとにスポイトして確認したあと、上がりフォルダに放り込んだ。

 次は作業中のこのカットだ。持っている本の表紙、裏表紙、背表紙をそれぞれ別の仮色でペイントし、ページ部分は色が不明なので、さらに別の仮色でペイントしておく。そして、それもテキストメモに書き残しておけば、打ち込みにないパーツも作業終了。


「まだもうひとカット行けるな。」


 ふたつのダミーカット袋を上がり棚に置き、次のカットを山の上からひとつ取る。また同じ作品、同じ話数だ。今度こそちゃんと指定打ち込みが入っていますように、と祈りながら席へ戻ったが、結果祈りは届かなかった。


「今度は服装違いかー。」


 打ち込みには制服のカラーモデルの指示が入っていたが、作画されているのはどう見てもジャージだ。指定色はノーマル色なので、制服もジャージもどちらのカラーモデルも存在する。これもメモを付けて出すしかない。


「打ち込みは制服でしたが、作画はジャージだった為、ジャージのカラーモデルを使用し作業しました、と。」


 テキストファイルにメモを書き付け、先にフォルダに放り込んでおく。


「そういや打ち込みデータがアップされた時間、ほとんど夜中だったな。よっぽど眠たかったのか?でもこれは前ふたつと日付け違うしなー。まあ何か抜けてるのがこの人のデフォルトだと思ってればいいか・・・。」


 嫌な心構えをひとつ覚えたところで、ペイント作業を開始する。他に指定抜けがないかをまず確認してからだが。




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