日報47『衣装2』
衣装のディティールの細かさはファンタジー作品ばかりとは限らない。現代モノでも厄介な物はある。色トレスのストライプやボーダーはそれなりに面倒くさいが、さらに上をいくのがチェック模様だ。これが制服のスカートやズボンによく使われる。
「貼り込み処理はそれはそれで大変なんだろうけど、作画のチェックは塗りのカロリー高すぎるよなあ。」
今、自分の手元には学園モノの作品のカットがある。女子生徒が走り抜けて行く内容だ。チェックのスカートが揺れている。
「見映えはいいんだろうけど、やっぱキツいな。せめてトレスだけならな。」
そう、チェック模様にもいくつかパターンがある。色トレスだけの物。色トレス線の間をトレスペイントで塗りつぶした物。さらに交差した中央部分の色を変える物。そしてさらに前述のパターンで色トレス線が別色の物など。今日引いた作品は縦ラインと横ライン、中央部分がそれぞれ別色で、トレス線も別色という、言うなればフルバージョンだ。
「これで影付きはさらにキッツいな。」
まずはスカートの地の色を塗ってしまい、縦ラインと横ライン、中央部分も続けて塗る。最後にトレス線を処理し、作業を終える。一枚塗り終わるのにそこそこの時間がかかった。
「枚数少ないのだけが救いだなあ。」
画面の端から端まで素早く横切っていくので何十枚とあるわけではないが、それなりにストレスはかかる。早くこのカットを終わらせて次のカットに取りかかりたい。
スカート、縦、横、中央、トレス。スカート、縦、横、中央、トレス。地道にこれを繰り返す。
「よし、終わった。もう一回見直して、と。」
彩色チェックとモーションチェックを再度行って検査は終了。上がり棚にカット袋を持って行って次のカットを取ってくる。
「これはメイン服なら模様なしだけど、どのキャラかな?」
取ったカットはずいぶん長く続く作品でメインキャラはメイン服を着ている話数が多い。そのメイン服はわりとシンプルだ。
「指定データ落として、っと。」
サーバーから落とした指定打ち込みデータを開き、内容を確認する。キャラはメインキャラだったものの、残念ながらメイン服ではなく私服だった。
「しかもチェックのワンピースって、いつもは私服でもこんな凝った服着てないじゃん・・・。」
原画を見ただけでは塗り分け方が分からないので、カラーモデルも確認する。すると今回のチェック模様は、縦ラインと横ラインは同色のトレスペイントで交差する中央部分は別色のトレスペイント、そして縦横ラインの中に色トレス線が一本走っている。引いたカットは頭から膝下くらいまでがフレームに入るサイズで、ラインの中のトレス線は一本作画。だがもっとキャラにカメラが寄っている場合はそこも二本線のTPになるという。まだ一本線の作画のカットでよかった。
「今回はトレス線を先に潰すか。」
どの順番が一番塗りの効率がよいのか分からないので、毎回色々と試してはみるのだが、何となく真ん中の色トレス線が邪魔になる気がして、最初に色を付けてしまう事にした。まず真ん中の色トレス線を全てノーマル色に変え、念の為保存。次にワンピースの地の色を塗り、縦横ライン、中央部分と続けていき、最後に全体を見て色トレス線の影付けをする。何かもっと効率よく塗れる気もするが、とりあえずはこれでいこう。
今回のチェック模様の作画には濃い緑、真ん中の色トレス線はマゼンタで描かれている。最後の色置換バッチで消すのを忘れないように注意しておかねばならない。少し前に濃い緑を消し忘れるミスをしたばかりだ。その時はリテイクとして戻されたが、社内の検査さんでよかった。ミスに気付かないままでいる事が一番の問題、少なくとも自分はそう思っている。
「しっかし絶妙にめんどくさい大きさだな、コレ。」
キャラがもっとロングになると真ん中の色トレス線は省略されるようだが、このカットくらいの大きさだとフルに作画されている。それが四十枚弱あるので、少し気合を入れて作業スピードを上げなければ、下手をするとこのカットで今日の仕事が終わりかねない。面倒くさいカットになると途端に手が遅くなる自分の悪い癖は嫌というほど自覚している。まあ、簡単に直せないのが癖というものなのだが。
それでもなんとかペイント作業を終わらせ、検査に移る。すでに赤、青、緑を置いてある色置換バッチに濃い緑とマゼンタを追加し、全実行。彩色チェックで塗り漏れがないかを確認すると、結構な穴が空いていた。一枚ずつしっかりと確認していき、全セルの塗り漏れを潰して終了。続いてモーションチェックでセルを流し、色パカがないか確認していく。
「よし、大丈夫かな?」
念の為、もう一度さっと彩色チェックをして、セルを一枚ずつ送って見てから検査を終了する。手描きの模様にありがちな動画ガタもないようだ。上がりフォルダにデータを上げ、棚にカット袋を置きに行くと、まだ少し仕事は残っていた。
「これ初めて見るタイトルだな。」
少ない枚数のカットがいくつか積んであったが、残りは全て同じタイトルだった。自席に戻って色指定、カラーモデル、注意事項をサーバーから落とす。注意事項に一通り目を通すと、目、眉は髪に透けないし、瞳の処理も複雑ではない。最近では少数派な方の作品だ。ひとつ面倒くさそうなのは、Tシャツの模様が色トレスペイントだという事か。
「何だろうコレ?鳥かな?」
Tシャツの前面に大きく象られている鳥のキャラクターか何かのシルエットには影が落ちていて少し厄介だが、枚数は少ないので何とかなるだろう。ふぅ、と大きく息を吐いてモニターに向かい直す。おそらくこれが今日最後の仕事だ。初めて取るタイトルなので、ミスなく提出できるよう、注意深く作業しなければ。