日報31『海外動画スキャン6』
最近はデータ上がりばかりで紙の素材に触れていない。もう一ヵ月近くになるだろうか。
「スキャンの仕方忘れそうだなぁ。」
今日も棚にはダミーのカット袋が積まれている。合計枚数だけが書かれていて、どんな中身なのかはデータを落としてみてのお楽しみだ。
「さて、今日の一発目は・・・と。」
落としてきたカットフォルダを開いてみると、Aセルフォルダのみで五十枚ほど。内容は奥から手前にキャラが走ってきている。涙付きだ。そして原画データを開いて、げぇ、と声が出る。苦手な会社の上がりだったからだ。
「ここの原画スキャン見づらいんだよなぁ。」
スキャン面の背景になる部分が赤と黒と白に分かれていて、薄い原画用紙にそれが透けている。原画の絵にかぶさっている為、細かいパーツなどが見えにくくなっている箇所が出てくる。全面黒バックで原画スキャンを取ってくれる会社の物はそうそう見えにくい事は無い。やはりこの会社、苦手だ。ついでにスキャンゴミもかなりあり、全面的に汚れている。スキャナーの掃除はしないのだろうか?
「えっと、涙はトレス線と塗りのハイライトが実線より優先。塗りのノーマルと影は別セルにしてダブラシ処理。うーん、面倒だな。涙周辺仮色使って全部ペイントしてからバッチで分離するか、涙の塗り部分だけ後からクミ切りながらペイントするか・・・。うーん。」
前者のやり方だと、瞳、白目、まつげ、肌など何色もの仮色が必要だ。後者のやり方ではペイント前にフォルダごとコピーしておいて、不要な部分を消してしまい、涙のノーマルと影の二色のみを元セルからクミを切ってペイントする事になる。前者では仮色の数が多すぎるので、今回は後者のやり方でやってみよう。
取り敢えず通常通りにペイントしていく。が、それだけでもなかなか大変なカットだ。実線が途切れている、突き出ているのはもちろんのこと、パーツ抜けも多い。ただでさえ装飾の多い衣装でペイントするのに苦労しそうな上にこの動画上がりだ。時間がかかるのは否めない。
「どうしようもないパーツ抜けはメモに残すとして、ラグラン袖のラインは繋げなきゃまずいよな。絶妙に描き足せるぐらいが途切れてる・・・。」
袖と身頃で塗り色が違うので、線を繋げない訳にはいかない。不自然にならない角度で実線を繋ぎつつペイントを進めていく。途中、ポケットの作画が抜けていたり、イヤリングが無かったりにはノータッチだ。また、瞳の作画もかなり怪しい。涙が乗っているのでなおさらだ。動画が手元に無いので原画スキャンを見るしかないが、前述の通りかなり見づらいので困る。原画スキャンを参考にわずかに出ている涙の色トレス線を優先して、瞳の上を繋いでいく。その上でカラーモデルの色見本の作画を見ながら瞳のディテールを整える。これを五十枚もやっているとかなり時間がかかってしまった。
「こっからさらに涙の塗りか。仮色使って塗った方が早かったかな?」
少し後悔したが、後の祭りだ。観念して涙のペイントにかかる。実線の方が勝っていて色トレスは途切れ途切れになっているので、涙に不要な線を消しつつ雰囲気で繋げていく。ノーマルと影色の二色のみのペイントなので、さほど時間はかからなかった。
「あとは作画不備をメモに残して・・・終了っと。」
上がり棚にカット袋を出し、次のカットを取ってくる。もちろんまたダミーのカット袋だ。
「さて次は・・・。おっと、戦艦の止めイチが五枚か。」
動いていないがメカ物はペイントに時間がかかる。五枚だけとは言え結構大変だ。
「色指定は宇宙色・・・、あれ?船底の塗り分けラインが無いな。これはちょっと塗り分けるの無理だな。」
船底の塗り分けができないとかなり違った見た目になってしまうが、あまりに面積が広すぎて仕上げで描き足す訳にもいかない。
「アオリのカットだから余計に目立つな。でもどうしようもないからメモだけ残してこのセルは終了っと。」
原画スキャンを見てみても必要な線が描かれていなかったので、原画を参考に描く事もできず、メモを残す事しかできなかった。残りの四枚の小型戦艦はほぼ一色のベタ塗りだったので問題は無かったが。
「よし、終了。思ったより早く終わったな。まだカット残ってるかな?」
棚を見ると、まだ数カット残っていた。合計枚数は一枚。下にあるカットも一枚のカットのようだった。上から一袋取り、自席へ戻る。
トレスデータを落としてみると、キャラが二十人ほど後ろ向きに立っている。指定はモブ指定表から自由ペイントだ。
「後ろ向きなのは助かったけど、線荒いなぁ。ゴミも多いし、やっぱり海外上がりだなぁ。」
ため息をつき、ペイント作業に入る。今日はこれが最後のカットになりそうだ。
なるべく色が被らないように、かつ、悪目立ちする派手な色は使わずに、洋服をペイントしていく。髪や肌はパターンが限られているので、色が被るのはしょうがないが、なるべく隣りあわないように配色をする。
二十人全員のペイントを終え、上がりを出す頃には、今日の仕事は終わっていた。
「はあ、国内動画じゃなくてもいいから綺麗な動画上がり塗りたいなぁ。」
誰にともなく出た言葉が今日一日の内容を物語っている。明日こそは紙のスキャン素材が来ないものかと思いながら、帰り支度をし、帰路についた。