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日報27『海外動画スキャン4』


 もう二週間も紙の素材が来ていない。このままではスキャンの仕方を忘れてしまいそうだ。


 そして今日の作業分も海外動画スキャンのデータだ。

 番組改編期前後は最終回に向けてのラストスパートと新番組のストック作りが重なるので、どの制作会社も大変なのは理解してはいるが、とにかく海外スキャンの上がりが汚い。


「実線も色トレス線も繋がってないなぁ・・・。」


 開いたセルを一通り見て、ため息を吐く。繋がっているべき部分がことごとく隙間が開いている。

 キャラが早々に後ろを向いてくれるのはありがたいが、シャツの模様が色トレスペイントなのが痛い。しかもその緑のトレス線が2値化が上手くいっていないせいかブツブツと切れていている。


「模様は影に・・・入っちゃうな。影色トレスはわりと綺麗に出てるか。んー、綺麗ってよりはただ太いだけか。」


 赤、青トレスは必要以上に太く出ているのに、何故緑トレスはこんな掠れたような線で出しているのか?海外のスキャン作業者に問いただしたい。


「おはよう。難しい顔してるわね。」

「あ、おはようございます。北町(きたまち)さん、今日は塗りですか?相変わらず凄いスキャン上がりですよ。」

「今日は残念ながら塗りなのよね。持ってるそれ、タイトルは?」

「新番ですね。二話目ですけど。」

「塗り慣れてないとまた大変よね。さー、ちょっと頑張ろうかな。」


 北町さんが棚にカット袋を取りに行く間に、打ち込み指定のデータを開く。すると苦手なタイプの打ち込みだった。画像の端に必要なファイル名が羅列してあるだけの物だ。親切な色指定の人だと、キャラの近くにファイル名を書いてくれたり、さらにファイル名からキャラや小物に線を伸ばしてくれたりする。そうしてくれているとどれを何で塗ればいいのか一目瞭然なのだが、端に羅列してあるだけだと、どれがどのファイル名に対応しているのかを探しながらでないといけないので、まず把握するのに時間がかかる。


「んー、キャラは分かったけど、小物がよく分かんねえな。あ、写真参考ある。」


 キャラの後ろにゴルフバッグが一枚止めで置いてあるのだが、入っているクラブの種類がいまいちよく分からない。


「北町さーん、ゴルフって分かります?」

「えっ、何?分かんないけど?」

「ゴルフクラブなんですけど、写真参考見てもよく分かんなくて。て言うか、ドライバーとアイアンとパター以外にもなんかあるんですね。写真でどこに何が差してあるか図解してあっても、作画されてるのがどれがどれだかいまいち分かんないっス。」

「あー・・・、これは、写真参考信じて手前から塗っていくしかないんじゃない?」

「そうすると本数が合わなくなるんですよ。」

「全部色違うの?」

「いや、アイアンとかは書いてある番号が違うだけで、本体の色は同じですね。」

「じゃあ、そこで数ごまかせるんじゃない?こういう時の合言葉は臨機応変!」

「なるほど、ありがとうございます。やってみます。」

「頑張れ〜。」


 覚悟を決めてモニターに向かう。最近は原画も手元に無く、データ上のみなので、少し見にくいのだが、なんとかズームアップして確認する。するとどうも一枚止めにもかかわらず少し作画が溶けているようだった。


「どうりで辻褄が合わない訳だ。よし、こうなったら全力でごまかす!」


 腹を括ってしまえばどうにでもなるものだ。目立つ手前のクラブからペイントしていき、最後パターでペイントを終える。中ほどはもう敢えて考えない。これでいいものとして終了だ。

 次はキャラ。色TPのシャツの模様がやや面倒くさいが、そこさえクリアしてしまえばなんとかなりそうだ。


「にしても、線途切れすぎじゃね?どっかしら穴開いてるし・・・。原画はちゃんと繋がってるっぽいんだけどなぁ。」


 今さらスキャン上がりに文句を言ってもしょうがないが、恨み節のひとつも言いたくなる。

 途切れた線を繋ぎ、今回は少ない突き抜けた線を削り、掠れて消えた色トレス線を原画データと前後のセルを参考に描き足していく。単純なボーダーやストライプ柄なら描き足しもしやすいが、生憎と鉤爪で引っ掻いた痕のような模様だったので、少し面倒だ。色トレス線が一辺がまるまる消えているセルもある。


「模様だけ先に片付けるか。」


 面倒な作業を先に片付けようとするのは自分の癖だ。カットの最後は楽な作業で終わらせたい。

 シャツの模様を先に全て処理してしまい、キャラのペイントに入る。瞳の作画が少し怪しいが、その他は線が途切れているだけで大きな問題は無さそうだ。と言うか、それが一番の問題なのだが。


「まったく・・・、一発でバケツ塗りできるパーツがほとんど無い。」


 塗り溢れる度にコントロール+Zを押し、途切れている箇所を探して繋ぐ。それを繰り返しながらキャラを塗り進めていく。枚数の割に時間がかかってしまった。

 塗り終わったセルを流して見てみるが、やはり色TPの模様が少しガタついて見える。こちらで描き足した部分の形が少し歪だろうか?しかし自分は動画さんでも動検さんでもないので、修正にも限度がある。ある程度スムーズに動くようになった所でこのカットは出す事にする。


 次に取ったカットも同じタイトルで別のキャラだった。しかもカラーモデルを見ると、金髪で色トレスの髪だ。


「これまた時間かかりそうだな。変わらず線汚いし。」


 作画時には実線描きで仕上げ時に色トレスに直すパターンは、最近では定番の処理だ。仕上げにとってはとても面倒くさい処理なので、できればあまり引きたくない。

 モニターに向かい手を動かす。相変わらずバケツ塗りができない素材だ。少しイライラしながら作業を続けた。今日はこのカットで終わりそうだ。


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