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日報26『自動車』


 最近あまり見ない手描きの自動車のカットを引いた。CGで作業される事がほとんどになった現在、普通に走っている車が作画で上がってくるのは珍しい。事故後や爆発後の止め一枚なら作画にもなるが。


「まあ、このアニメにCGの車は浮くか。」


 引いたタイトルは幼児向けの線が少ないアニメだ。現に主人公家族の乗る車は少しデフォルメされた作画で描かれているのだが、今回のカットの車はリアル目のワンボックスだ。


「何でこんなに頑張った設定にしたんだろ?」


 車はメカ並みに線が多くなりがちだ。また、直線は2値化する際に斜めの線の方が整って出やすい。水平や垂直に近い線ほどドット欠けが目立つので補正が大変だ。


「うわ、結構時間かかったな。海外動画スキャンで線が汚いってのもあるけど。」


 久々に塗るせいもあってか、一枚塗り上げるのに想定よりも時間がかかった。これがあと二十枚ある。地味に憂鬱だ。

 カットとしては画面手前から中央に向かって走り込んで行く内容で、そんなに難しくないカットなのだが、パーツが多いせいか、なかなか塗り進まない。


「やっぱ、めんどくさいなぁ。」


 ぶつけどころのない文句を言いながら手を動かす。


 ようやく塗り終わって上がり棚にカット袋を置き、次のカットを取ると、同じタイトルの続きのカット番号だった。ダミーのカット袋だったので内容は分からないが、嫌な予感がする。

 自席に戻り、サーバーからトレスデータを落として内容を確認する。


「あー、車からキャラが降りてくるカットか。まためんどくさいな。」


 しかもタイムシートを見ると、車は完全に停止してはおらず、A1、A2の同トレスブレでずっと動いている。そこをキャラが降りてくるのだが、何人かは片手を車に添えているので、Aセルとクミが発生する。手を触れているのが一瞬ならば問題ないのだが、少しその場で止まっていると複数クミになってしまう。


「これは親指を上セルにして挟み込め・・・ないか。」


 クミの元になる車の作画が奥と手前で別セルに分かれていれば、クミを切る方のセルで元セルと上セルを作って挟み込むように撮影さんに対応してもらうのだが、現状の素材だと、さらにAセルにも上セルを作成しなければならない。それならば、タイムシート上にひとつ番号を増やしてA1とクミを切った物とA2とクミを切った物とを作成した方が、増やすセルは一枚で済む。仕上げ的にはこちらの方が楽なのだが、撮影さん的には枚数が増えても元のタイムシートが変更されない方が良いだろうか?

 車本体と開くドアだけでも少々面倒くさそうので、クミ部分は仕上げ的に楽な手段を取る事にした。

 フレームインしてくる車本体と、途中から別セルになるドアを先にペイントする。カメラアングルが車の斜め後方からなので、別セルになったドアが車内とキャラのクミは上手く隠してくれている。クミは前述した手の部分だけだ。

 ドアが開かれ、主要キャラが次々と降りてくる。キャラ自体の作画は単純なので、すいすいと塗り終わる。最後にA2セルとの複数クミになる部分のセルをコピーし、番号を書き替え、クミを切り直す。これでこのカットの作業は終了だ。


「もう一度見直して、と。」


 Aセルから順にタイムシートを見ながら見直していく。すると車体の線が一本消えているセルが一枚あった。直線だし長さも短いので、前後のセルを参考に描いてしまおう。これで線パカは無くなったはずだ。もう一度頭からセルを流してみて、不具合が無いか確認する。線パカがあった部分は上手く誤魔化せたようだ。キャラの方も問題はない。


「よし、終了。」


 上がり棚にカット袋を置き、まだ棚に山積みになっているカット袋を上からひとつ取る。また同じタイトルの近いカット番号だ。そしてまたダミーの袋なので内容は分からないが、こういう日は何か、続く気がする。

 データを落とし、セルを開く。やはり同じ車だ。


「今日はもうこの車の日なんだな・・・。」


 何かを悟りながらペンタブを動かし、大きなため息をつく。すると隣の北町(きたまち)さんが声をかけてきた。


「なぁに?でっかいため息ついて。」

「いや、自動車ってこんなにめんどくさかったですかね?」


 言いながら、カット袋の表を彼女の方へ向ける。


「まあ、デフォルメにも限度があるしねえ。省略出来ないパーツばっかりだし。」

「ですねぇ。朝からこの車ばっかり三連続で引いてるんですよ。」

「それはツイてるわね。」

「ツイてませんよ。海外動画スキャンで線もアレだし。」

「言っても引いた物は塗らないとね。諦めなさいな。」

「そりゃ、取った物はやりますけど。愚痴くらい言わせて下さい。」


 モニターに向き直り、改めて開いたセルを見つめる。やはり面倒くさそうだ。


 今日はこのカットで終わりかなと思いながら、作業を始める。モニターの中の車は右に左に車体を振っていた。



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