日報25『料理』
今日のラストは一枚止めのカット。ただし内容は料理だ。
「一枚止めとは言え、絶対に時間かかるヤツなんだから、最後の方に置かないでほしいよな・・・。」
自席へ戻りつつ、ため息をひとつつく。
ちなみに本日のメニューはサンドイッチにナポリタンスパゲティー、それとオレンジジュース。当たり前と言えばそうなのだが、食器以外は全て色トレス処理になる。
ひとつ幸いな事は、原画をコピーした物に色鉛筆で細かく塗り分けがされた上で、明確に食材が記入されている事だ。個人的には『料理の取説』と呼んでいる。サンドイッチの中身は玉子、きゅうりにレタスとハムにレタス。ナポリタンの具材はウインナー、ピーマン、マッシュルーム。
さて、まずはどこから手を付けよう。
取り敢えず飲み物からいってみよう。オレンジジュースには氷が浮かんでいて、水面上と水面下ではもちろんペイント色が違う。さらに氷の輪郭トレスはノーマルと1号カゲで別色だ。
「うぅ、めんどい・・・。」
何とか氷を塗り終わり、ジュースの側面、上面をそれぞれの色でペイントすると、オレンジジュースの出来上がりだ。次に手を付けたのはサンドイッチ。つい癖で面倒くさい物ほど後に回してしまう。ナポリタンはまだ視界に入れたくない。
「よしよし、パンも具材も一色トレスだな。」
指定打ち込みとを見て、少し安心する。全部が全部、影トレスもあったならば何時間かかるか分からない。
まずはパンの輪郭を実線色から指定の色に塗り変える。次に色トレスで描かれている具材を食材ごとに色分けする。動画に使える色トレスは赤青緑の三色だけなので、パーツが多い場合には全てを別色でトレスする事は不可能だ。その上カゲ付け、ハイライト付けもあるので、どうしても輪郭線は一色になりがちだ。このカットも輪郭は緑、カゲが青、ハイライトが赤といった風に作画されている。
「玉子、きゅうり、レタスっと。取説が無かったら厳しかったな、これ。」
綺麗に塗り分けされた原画コピーを見ながら作業を進める。ハムサンドも同様に塗り、いよいよラスボスのナポリタンの番だ。
「まずは具材を潰して・・・。」
こちらも具材は色トレス、麺は実線色で作画されていたので、色トレスに食い込んだ実線を丁寧に消し、それぞれの具材の輪郭線に色付けする。
「ピーマン、ウインナー、マッシュルームっと。このナポリタン、ウインナー多めだな。」
三種の具材を塗り終わり、麺に手を付ける。皿と接している部分を麺の色トレスで区切り、ペイントする。普段はノーマル、カゲの順番でペイントしているのだが、細かい麺が無数にある為、まずは面積の少ないカゲとハイライトを塗っておき、色置換バッチで不要な赤青緑の線を消す。そして本来ヌキの部分を仮色で塗り潰す。すると、麺のノーマル部分だけが塗られていない状態になる。そこからさらに、透明部分を麺のノーマル色に、ヌキの部分に塗った仮色を透明に色置換バッチをかけると、麺が全て塗られた状態になるわけだ。麺を一本一本塗るより、圧倒的に早く塗り上がる。
「よっし、完成!」
動画も綺麗だったし、スキャンも綺麗に出ていたので、思っていたよりも早く作業は終わった。
上がり棚に出しに行くと、今日の分のカットは既に捌けていた。社内に残っている人も少なかったので、だいぶ前に終わっていたようだ。やはり料理は時間がかかる。もう少し内容の重さを考えたカット袋の積み方をしてほしいものだ。
グッと背伸びをし、パソコンの電源を落とす。なんだか無性にナポリタンを食べたくなってしまった。帰りにコンビニへ寄って、パスタコーナーを覗いてみよう。