日報16『メカ爆発』
朝イチに取ったカットに言葉を失う。定期的に入ってくるメカ作品のカット袋だったからだ。それでも、キャラの場合も勿論あるので、カット袋の端を見る。シャトルと爆発の二つの単語。枚数もそこそこあるので、今日の大半はこのカットの作業に費やされるだろう。
「ロボット系じゃないだけマシかなぁ?」
中身を取り出して内容を確認してみると、ビームに被弾した貨物用シャトル後方の噴射ノズルが爆発、煙が伸びるというカット。シャトルは原型を留めながらフラフラとフレームアウトしていく。全体が爆発して木っ端微塵になるようなカットもよくあるから、やはり少しはマシなカットかもしれない。
「ああ、でも船体が残ってるのは残ってるので面倒くさいか。全部爆発してれば後は破片と煙だけだもんな。」
スキャンを取りながら動画を眺める。まあまあ作画も綺麗で色トレス線も輪郭、影線、爆発光と使い分けられていて仕上げに優しい動画だ。二値化した線も綺麗に出ている。ただ、シャトルと言うか、ほとんど直線で構成されたコンテナのような胴体部分は、ドット線のガタが気になるので丁寧な補正が必要だろう。サーバーから色指定打ち込みのデータを落とし、該当するカラーモデルを揃える。すると、ひとつ嫌な事に気付いた。
「この爆発煙、色TPと内線じゃねーか。うわっ、めんどくさっ!」
よくある煙や水のペイント方法は、輪郭線を一色でトレスして囲われた中をノーマル一号影二号影とペイントしていく。この方法だとコントラストが強い場合、輪郭線をノーマルと影色、どちら側に寄せても見た目で浮いてしまう事がある為、そういった時に輪郭線を作らずにペイントする方法を取る事がある。輪郭線を含めたエフェクト全体を色TP、トレスペイント、で塗り潰すのだが、今度は輪郭線より内側に伸びた線が消えてしまう為、内線という別の色でトレス線を残す作業をする。ただ輪郭線と内線とは一本の線なので、内線を区切る作業に少々手間がかかる。見た目の仕上がりとしては色TPプラス内線の方が綺麗なのだが、仕上げ作業者にはあまり優しくない指定だ。
「コンテナの直線部分のドット欠けも目立つから丁寧に補正しなきゃいけないし、これ結構時間かかるな・・・。」
ビームや噴射光も含めて六十枚弱、なんとか夕方までには終わらせてもう一カット取りたいところだ。
「何?大変なカットでも引いた?」
隣の席の北町さんが声をかけてきた。
「今日は私も塗り~。メカなんて塗るの久しぶりだわ。」
カット袋から引き出された動画を横目で見る。
「なんだ、メカは止めイチじゃないスか。メカの無いこっちと取り替えません?」
「どれ?やだ、爆発してるじゃない。煙嫌い。」
「俺だって好きじゃないっスよー。しかもTP内線。」
「余計に嫌よ。自分がやりたくないからって他人に押し付けようとしないでよね。」
「ですよねー。しょうがない、やりますか。」
渋々モニターに向かい作業を始める。案の定、補正にも煙の塗りにも時間がかかった。横で北町さんはスイスイと作業を進め、次のカットを取りに行っている。枚数までは見なかったが止めイチのメカにはそれなりに時間がかかるはずだ。やっぱり俺は手が遅い。
目標の夕方、まだ煙の作業は終わらない。だが、爆発はあと数枚だ。ビームと噴射光は枚数も少ないし、簡単な作業だからすぐ終わる。
「まだ苦戦してるみたいね。もう棚は少なくなってたわよ。今日は早く上がれそう。」
「ええっ?マジっスか?もう一カットくらいは取りたかったのに。」
「あと十人分くらい?」
「うわ、早くこれ終わらせます。」
この一カットで一日を終えるには枚数も少ないので、なんとかもう一カットは取りたい。急いで残りの爆発煙とビーム、噴射光をペイントする。
「よし、終わった!」
「ちゃんと検査したの?テキトーに検査してたらミス見逃すわよ。」
「大丈夫っスよ。塗ってる間も何度もセル前後させて確認してましたから。」
「だといいけど・・・。」
北町さんの言葉はよそに、急いで上がり棚にカットを出しに行く。しかしもう作業前の棚にカット袋は残っていなかった。
「一足遅かったか。」
トボトボと自席へ戻ると、北町さんが作業をしながら声をかけてきた。
「時間あるなら、もう一回カット見直しときなさい。念の為。」
「大丈夫だと思うんスけどねぇ。」
先ほどまで作業をしていたカットフォルダを開き、Aセルから順に確認していく。
「シャトルの補正もガタには見えないし、煙のパカもない。Bセルの噴射光も問題ない・・・って、あれ?真ん中の色が抜けてる?」
噴射光は計三色の色TP。中心、外側、更に外側へと段々色が濃くなっていくのだが、その真ん中の色が塗られていなかった。
「ヤバい。バッチでミスった?」
慌てて作業をやり直す。横からはそれ見た事かと、その様子を北町さんが眺めていた。
「まだ検査には行ってないな。さっき上げたデータを消して、新しいデータをアップ、と。あっぶねえ、こんなでかいミスで出すとこだった。」
「だから言ったじゃない。」
「ご忠告ありがとうございます。助かりました。」
「大変なセル塗り終わった後に気ぃ抜いてるからそんな事やるのよ。簡単なセルは見返さないのも良くないわね。どのセルも何度か確認しないと。」
「肝に命じます・・・。」
今回は北町さんのおかげで事なきを得たが、作業は慌ててするもんじゃないなと再確認した。自分を過信せず、二重三重の警戒心を持ってペイント及び検査をしなくては。
「やっぱり俺はまだまだですね・・・。」