日報15『リテイク』
今日は朝からリテイク祭りだ。仕上げにおけるリテイクとは一度ペイントされたカットの一部分、あるいは全部分を描き直された動画をスキャン、ペイントし、元データに貼り付ける事を言う。簡単な物から全部塗り直した方が早いと思うような複雑な物まで、難易度は様々だ。
「リテイク表の内容は『顔が不安定です』と。さて、動画の方は・・・。『A1~8カブセ修、A9~12描き込み修、計12枚』」
カブセ修正とは元ある動画の上に新しい動画用紙を重ね、修正部分だけを新たにトレスした物。描き込み修正とは元動画に足りないパーツなどを直接描き込んだ物になる。
カット袋から中身を取り出し、さらにリテイク動画を引き出す。A1、4、8は瞳のみを修正した物、A2、3、5、6、7は顔全体を修正した物になっている。A9から12は抜けていた瞳のハイライト2と睫毛を追加した物だった。
何とはなしに動画用紙を裏返すとA9とA12の動画裏には修正した部分に色鉛筆で丸印が付けてあるが、10、11にはそれらしい印が無い。リテイクの流れと元データとの比較で追加された部分は何となく分かるが、本当にそれが全てか、確認する術は無い。
「ちゃんと印付けてくれないと困るなぁ。」
リテイクはほぼ元データをスキャンしたスキャナーとは別のスキャナーでスキャンする事になる。するとどうしても歪みやズレが出てくる。その微妙なズレがリテイクされた物なのか、そうでないかを判断する為に、動画裏の丸印が必要不可欠なのだ。
今回の描き込み修正は元データと比べてみると、足りないパーツがはっきりと分かったので、たぶんそれで間違いないだろう。だが、最初と最後だけの丸印はいただけない。ちゃんと全ての動画裏に印を付けてほしい。
「顔のカブセ修って面倒くさくて苦手だ・・・。」
初めに簡単な描き込み修正の部分を終わらせて、顔のカブセに渋々手を付ける。元データの前髪とクミを切りつつ、新作部分の瞳やら顔の輪郭線をパズルのように嵌め込みながらペイントしていく。これがまた面倒くさい。前髪と耳の線は元データを残しつつ、輪郭線と耳の横の髪束、瞳は新作。おっと、鼻筋の線も元データのままだ。うっかり肌色で塗り潰してしまうところだった。
「よし、終わり。次は、っと・・・。」
上がり棚にカット袋を置き、次のカットを取る。次もまた同じ作品のリテイクだ。と、言うか今日は今のところこの作品のリテイクしか棚に乗っていない。いつもは何作品か同時に動いているので、一作品しかない日は珍しい。それだけこの作品が切羽詰まっているのかもしれない。いち仕上げの人間には作品ごとのスケジュールは分からないが、色指定・検査さん、その後の撮影さんは今頃、大変な思いをしているのだろうか。
「ま、俺はただ塗るだけだな。」
新しく取ったカットは単純な作画抜け、上着のボタンが描かれていなかったので、それの追加。ただし、枚数が多い。スキャンにもそこそこ時間がかかる。
「顔の修正よりは断然楽だな。動画裏の印もちゃんとある。・・・ん?」
動画を裏返してパラパラと送って見ていると、一枚だけボタンとは違う所に丸印が増えている物があった。リテイク表には無いが、動検さんが物を見ていて気になったのだろう、シルエットの修正がされていた。
「あっぶね、見落とすところだった。」
スキャンをしながらメモ帳にメモを残す。D42追加修正あり、と。作業自体は単純で簡単なカットなので、単調な繰り返し作業しているうちに忘れる可能性が無きにしもあらず。自分の記憶力を過信してはいけない。メモ帳をモニター前にわざとらしく置き、ペイント作業を始める。
「枚数稼げてラッキーなカットだったな。」
次のカットを取りに行くと、棚からはだいぶカット袋が減っていた。一枚二枚の修正のカットがほとんどだ。
「合成親の瞳の修正か。」
取ったカットは口パク計三枚の合成親、一枚の修正カット。リテイク作業自体は合成親の一枚だけだが、それを三枚のセルに貼り付けるので、少しお得なカットだ。
「しかし瞳の修正、多いな。」
瞳の描き方に特徴のある作品なので、そこにこだわったリテイクも多くなるようだ。
作業を済ませ、上がり棚にカット袋を持って行くと、もう新規のカット袋は無くなっていた。今日はこれで終業だ。
今日は最初のカットが一番キツかった。モザイクのように、パズルのように部分部分の修正をするセルは面倒くさいしミスも多くなりやすい。何かミスをしていたら、社内の検査さんの作品なので戻しがあるだろう。戻しがなかったという事は無事に検査を通ったのだと思いたい。
明日はどの作品が入るだろう。メカじゃないといいなと思いつつ、帰路についた。




