日報14『デジタル動画3』
デジタル動画ではギザギザした線の先が四角くダマになる事が多い。今回は腕を振っている残像部分があちこちギザギザしているので、その先端部分をシャープに尖っているように形を整える。何ヵ所もあるのでそれなりに面倒な作業だ。それが何枚も続く。
「うおー、ちまちましてるのイライラする!全体的には綺麗だけど、この、先端部分だけは・・・!」
一本ずつ線の先を尖らせる修正をしながら腕を塗っていくと、次に顔が見えてくる。すると今度は髪の毛先で同じ処理が必要になってくる。髪の毛束が細かいほどダマになっている毛先が目立つので、丁寧に修正しなければ、最悪リテイクとして返ってくる事になる。今日のこの作品では納期までまだ時間がある為、そういう可能性も有り得るのだ。
「リテイクは嫌だけど、正直、手ぇ抜きたいよな。」
「この作品は特に顔が命なんだから、見た目がいまいちだったら容赦なくリテイク出すわよ。」
すぐさま、隣の席の北町さんに突っ込みを入れられる。そう、この作品は彼女が色指定検査の担当なのだ。
「分かってますよ。だから丁寧に補正してます。でもデジタル作画って、変な所で実線が1ドットはみ出てたりするんでイライラするっス。」
「ボロボロかつガサガサな実線の海外スキャンよりはマシでしょ?」
「それはそうですけど。」
「とにかく!そのカット、結構な決めカットだから、補正甘かったらリテイクさせるからね。」
「は~い。了解っス。」
逃げ場を無くした所で、改めてモニターに目を向ける。腕の振りは早々に終わったが、次は流れる前髪がお待ちかねだ。この作品では眉が髪に透けるキャラと透けないキャラがいる。今塗っているキャラは眉が透けないタイプなのだが、原画ではアタリの意味もあり、眉が透けて描かれている。すると、動画さんはその通りに描き上げてくるから困る。作画注意事項やキャラクター設定には、眉が透けるか透けないか、きちんと書いてあるはずなのだが。
「作画注意事項って、何の為にあるんだろう・・・。」
手は作業で動かしつつも、ため息を漏らす。毛先を整えるだけでなく、余計な眉の作画も消さなければならないので、更に時間がかかってしまう。
「でも確かに全体的には綺麗な線だし、この作品にはデジタル動画が向いてるんだろうなぁ。ってか北町さん、俺この作品、デジタル動画の上がりしか塗った事ないんですけど。」
「ああ、うん、最初の方の話数は普通に作画で回してたんだけど、スキャンかけるとどうしても細かいパーツが太い線で潰れるとか、逆に細い線が出ないとかあって、デジタルに落ち着いたらしいわよ。」
「これから他の作品でもどんどんデジタルに移行していくんスかね?」
「そうなるのかなー。アナログの良さもあるとは思うけどねー。って言うか、南花あんた無駄口叩いてていいの?」
「ちゃんと作業はしてますよ。検査いらないくらいに綺麗な顔にして出しますから。」
「大きく出たわね。検査が楽しみだわ。」
実際にここ最近の中では一番二番くらい丁寧に作業をしていた。かかる時間は度外視だ。まずはリテイクで戻って来ないような仕上がりでないと。
「よし、これなら大丈夫だろ。」
作業を終え、上がり棚にカット袋を出す。
「北町さん、終わりましたよ。」
「ご苦労様。じゃあ早速見るから。」
このまま横で待っていたいところだが、次のカットを取りに行かなければならない。次のカットを取って帰ってくると、北町さんのモニターには俺の塗ったカットが表示されていた。
「うん、綺麗に塗れてる。時間かけただけはあるわね。」
「これでもかってくらいに丁寧にやりました。他の所でミスしてないっスか?」
「うーんと、・・・うん、大丈夫。」
「良かった。これで心置きなく次のヤツ塗れますわ。」
席に戻り新しいカット袋を見る。次もまたデータ上がりのカットだ。サーバーからトレスデータを落とし、モニターに向かう。さあ、もうひと仕事気合いを入れて頑張ろう。