「希望の足音」
◆ ◆
いつの間にか、明かりが必要な程に日は落ちていた。
よろよろと歩きながら、人気のない袋小路の闇へと歩みを進める圭。
その背後を絶妙な距離でつけながら、両目を嗜虐心でいっぱいにしたココウェルが続く。さらにその背後には当然、感情の読めない瞳でアヤメが続く。
圭は突き当たった壁を、八つ当たりのように両手で叩き――――壁を支えに、膝から崩れ落ちた。
「………………」
ココウェルが、様々な感情がないまぜになった目で圭の姿を見つめる。
暗闇と、遠ざかった小さな喧噪の中、嗚咽とも呻きともつかない少年の声が、少女の鼓膜を震わせ。
やがて、王女は近付いた。
「何よその姿。無様にもほどがあるんじゃないの~? 大英雄さァん?」
圭は動きを止めこそしたが、応えない。
いや、もはや応える気力もないのか。王女には判断がつかない。
ココウェルはにんまりと笑った。
「おいおい、王女の問いに答えないなんてどういうつもり? それとも、答える元気も無いのかな? そりゃそうよねぇ、ただでさえ友達の少なそうなあんたが、その数少ない友達にさえ見放されて突き放されたんだもんねぇ。面食いなファンだって二、三人つきそうだったのに、あんなに人前でダサい姿見せられちゃったらねぇ。誰だってアンタに近寄りたくなんて無くなるわよ。哀れねホント」
「……お前に何が解るんだ」
「誰に口利いてんだ弁えろ、まだわたしが喋ってんだ。拝聴しろ病人が――つか。わたしが黙ったところで今のあんたに何ができるのよ。歩くのも精一杯なクセして偉そうなクチ――」
「そうさ。俺はもう何もできない」
「――――」
ココウェルが目を光らせ、言葉を切る。
圭は体を壁に向けたまま、両手で頭を抱えて叩き、やり場のない怒りをぶつける。彼の手の震えが、ココウェルの目にはやけに大きく映った。
「なあ、俺は何か間違ったか? 俺はただ、自分に出来る精一杯のことで皆に応えようとしているだけなのに。誰もそれを分かってくれない。みんな勝手に俺のことを好きになって嫌いになって、そして離れていく――――その上こんな病気まで――――俺が一体何したってんだよ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!」
「馬鹿ね。人間はハナから平等じゃないの。誰のせいでもない、全部アンタのせいよ。…………いや、そうとも言えないか。このプレジアに関しては」
「…………」
「言ったとおりだったでしょ、ここプレジアは差別と偏見の掃き溜めだって。あんたみたいな『平民』が、貴族サマを差し置いて主役張ったり、試験で優勝したり。ここでそんなことしたら、そりゃみんなあなたを恨むわよ。その程度の民度なんだもの、プレジアってのは。ここにいる限り、あんたは一生そうして虐げられて暮らすしかないのよ。掃き溜めの中でうずくまって」
「黙れよっ!! 俺にはな、ここしかないんだよ!! ここを出たって行く当てはない、頼れる奴もいない!! 俺は一生――――一生ここで生きていくしかないんだよ。気楽なお前とは違うんだよっ!!」
「行く当てがあったら、どうするの?」




