「空白」
「あんたもビージと一緒だ。指導室まで付き合ってもらうぜ」
「――――やっぱりコワいね、風紀委員って。何も悪いことしてない私を逮捕するんだ?」
「物騒なこと言って誤魔化すなよ。俺らは風紀だ、王国憲兵じゃねえ。逮捕なんて真似できるかよ。これはただの『指導』だ。祭りの雰囲気にのまれて、バカ騒ぎする奴らを取り締まるだけだ。あんたみたいなな」
「へーえ。……そうやって感情と一方的なレッテル張りで人を拘束したりするから信用されないんだよ。貴族クラブは」
「……あんた、メチャクチャ口悪くなったよな。それが本性か?」
「ホラ私情。どこまでも学生の組織だよね。……そりゃ風紀委員長の席も決めきれなくて空きっぱなしなわけだ。こんな人たちしかいないんだもんね」
「……ある意味始末に負えねぇな、あんた。連れてってくれ、ヴィエルナ」
「うん」
パールゥ、そしてビージを連れていくヴィエルナ。その間、ロハザーはマリスタを見遣る。
まだ戸惑いの残る彼女の目に、無言の言葉を送って小さく首を振り、彼はヴィエルナに続いていった。
ナタリーが駆け寄る。
「気にしてはだめですよ、マリスタ。あれは今頭がおかしいのです」
「…………」
「…………。 、あれがいなくて、よかったですね」
マリスタが、ゆっくりとナタリーを見る。
「いなくてよかった」――――その言葉の真意を解したマリスタは、肯定とも否定ともつかない身振りを返すしかなかった。
ナタリーが片手をマリスタの肩に置き、覗き込むようにしてマリスタを見る。
「一度、あれと友達であることを忘れてしまいなさい」
「!」
「ええ、あなたとパールゥは友達です、間違いなく。でも今は、そのことに苛まれている場合じゃない。そうでしょう? このプレジアの為に」
「……そう。だよね」
頭のどこかで、ナタリーがこんな大義にあふれたことを言う訳が無い、何か打算がある――と理解しつつも、マリスタはそれに頷いた。
頷くことでしか、パールゥと自分の関係、そしてそれに伴う様々な感情に、踏ん切りを付けることが出来なかったのだ。
答えたマリスタの表情を見て、ナタリーは小さく息を吐き――――そして壁によりかかる圭を見た。
「いつまでそうして病人面してらっしゃるんです? 貴方も」
「ナタリー、そんな言い方は」
「目障りです。誰かに支えられるのは嫌なのでしょう? だったらこんなところにいつまでもとどまってないで消えなさい、迅速に」
「ちょっとナタリー!」
「明日以降も舞台に立つつもりなのでしょうし、どの道休息は最優先でしょうが。それとも――実は構ってほしくてそこにいるのですか?」
システィーナ、エリダの非難の声を一切無視し、ナタリーが言い切る。
圭は振り向くことなく応じ、足を引きずるようにしてその場から歩き去った。
「――――――」
「ココウェル?」
遠巻きにその様子を見つめていたココウェルが、瞳を妖しく光らせてその後を追っていく。
『――――――――』
見はせずとも、その場の誰もがそれを感知していた。




