「迫真」
四つん這いの体勢から起き上がろうとしていた圭の胸倉をビージが掴み上げ、彼を足が着かない高さにまで持ち上げる。
圭より遥かに高く見えるビージの大柄な体に圧倒され、ココウェルはまたも言葉を忘れて彼らを見上げながら数歩後ずさる。
圭は力無く手足を垂らしたまま、されるがままである。
「散々言ったよな俺達ァ、あぁ? 本番までには体調整えとけって。せめて段取り通り問題なく動けるくらいにはなっとけって。言わなかったかオイ!!」
恫喝の剣幕でまくしたてるビージ。
先程まで機神ディオデラを演じていた少年の怒号に、マリスタや他の役者達に群がっていた観客達は残らず沈黙、事態を静観している。
場はすっかり、彼らの空気に支配されていた――――ただ一人、アヤメを除いては。
「――――――……」
「解ってるよな。テメーのせいで芝居が滅茶苦茶になりかけたの。なあ? イグニトリオの機転で助かったからよかったものの、テメーあのまま落ちてたら大怪我だぞ? 魔法演出班の奴らは何にも悪くねーのにだ!!」
「…………彼らには、これから謝罪に行く予定だったんだ。だから」
「ほぉ? 俺には――」
「バディルオン君ッ!!!?」
ビージのそれに負けずとも劣らない大声と共に、楽屋から飛び出してくる桃色の少女。パールゥだ。
ビージは一瞬煩わしそうに彼女を見たが、すぐに圭へと視線を戻した。
ココウェルが目を瞬かせた。
「あ……クソイベントのメガネ女」
「何やってるか解ってるのあなたっ!!? 今すぐケイ君を――」
「ごめんねフォンさん。少し黙っててもらえるかな? 僕ら、いい加減もう限界なんだよね」
「お――オーダーガード君……!?」
猛然とビージに迫るパールゥの道を遮るように現れたテインツが、苛立ちを隠そうともせずパールゥを見る。
予想だにしていなかった人物から想定外の感情を向けられ、パールゥが一瞬怯む。
「君も随分長かったよね、そこの『異端』に抱き着いてる時間が、やたらにさ」
「な――」
「聞いてくれよテインツよ! こいつら、客の出迎えもせずに楽屋で二人っきり! 何やってたと思うよ?」
「聞きたくないね。みんなで作った劇なんかそっちのけでイチャイチャしてるかもしれない人たちのことなんてさ!」
テインツの声が、しかとその場の全員に届く。ナタリーの記録石のシャッター音が鳴る。
見ていられない、と群衆の中から歩み出でようとするシスティーナ。
彼女を止めたのは、チェニク・セイントーンだった。




