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「やはり接近戦は不得手」




◆    ◆




 深呼吸をひとつ。



 何度か小さく地を飛び、足に床の感覚をなじませ、英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)の具合を確かめる。

 問題はなさそうだ。



 飛んだ。



「……バレバレだぞ、そんなに動いたらよ」



 拳を、宙をける体ごとなされる。

 即座に反転、接近し――頭に体が追いつく限りの打撃を繰り出す。



 その全ての打撃を、余すことなく往なされた。



「――――」



 そう、往なされる。

 受け止めるでもなく避けるでもなく、あくまで反らし弾かれ、力を他所よそへと流されている。

 そしてすきを見せれば――



「その動きは無駄だ」

「っ!」



 肩を押される。

 後ろにかたむけていた体のバランスを崩され、後退を余儀よぎなくされる。

 はやる心をおさえ、一度大きく息を吐いて無理やり気息きそくを整える。



 焦るな。早まるな。

 相手はプレジア最強と謳われる教師だ。

 自分はあくまで稽古けいこを付けられる側。

 彼にかなう道理など無いと思い込め。

 思い込まなければ――



「闘争心をしずめろ。呪いに食われるぞ」

「……わかってる」

「重心の移動が下手糞へたくそだ。重心の移動がスムーズにやれるようになれば動きに無駄が無くなるし、体重が乗る分打撃も重くなる。ヘソ下三寸。ここだぞここ」

「いちいち指差さなくても――解ってるさっ!」



 飛ぶ。

 が、



「そうやってとりあえず飛ぶのも良くねえ」

「――――!」



 トルトが地を蹴り、俺との距離をわずかに空ける。

 それだけで、俺はもう奴との距離感を見失っていた。

 慌てて足を地にと動かすが、前に進み続ける体を止めるには足りず、



 踏み込む構えをとったトルトの拳が、ちょうど地に足を付け減速した俺の眼前で寸止められた。

 



「そら、初撃が安定しねぇだろ。瞬転(ラピド)で学んでねえのかいお前さんは。飛ぶのは勢いは付くが体の自由が利かなくなる。やたらに勢いづけて飛びゃいいってもんじゃねぇ」

「…………」

「さあ、もっぺん心を落ち着かせろ。ダメ出しちゃいるが、スジは悪かねぇからよ。地頭のキレるお前さんだ、一度言やぁ心がけられるだろ」



 拳を下げ、トルトが数歩後退(あとずさ)る。

 また奴との距離が開いた。

 息を吐き、熱を上げ始めた体のかたさをく。



 ――こうも違うものなのか?



「トルト」

「あ?」

「あんた、どこかで戦い方を学んだのか。師は誰だ」

「師なんぞ居ねぇな。もしくは思い出してねぇ」

「その戦い方は、今まさに思い出している戦い方だってことか?」

「いや、そりゃ違う。こいつは体に染みついてたモンだ」

「染みついてた?」

「ああ。自分の名前と、このやたら体になじんでる体捌たいさばきだけが、俺にとって『俺』の唯一ゆいいつ手掛てがかりだった」

「…………」



 ……そうきたか。

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