「デガラシ黒幕説」
そういえばいつの間にかじゃがバターは平らげ――次はピザ生地のようなもので肉野菜を包んだ食い物を売る屋台を指差す。
バターを口元につけたまま。
……為政者の娘とは思えない。
本当に、彼女は何の期待も抱かれぬまま、その通り何の才能も開花させず、ここまで成長してきたのだろうな。
箱入り娘、ならぬ箱閉じ娘。
秘蔵っ子、ならぬ死蔵っ子、とでも言おうか。
……そんなことを考えるくらい、無駄な時間である。
いや、無駄ではないか。
こんな労働でも、先に求める情報があるのなら。
「……それにしても、まあ……」
この世界に来て日の浅い俺はともかく、生来ここで暮らす者達まで彼女を王族だと認知していないのは、それはそれで問題なのではなかろうか。
誰一人、彼女が王族だと気付き近付く者はいない。
皆揃って鼻の下を伸ばすか、嫉妬の、或いは憐憫の目を向けるか。
往来で男を侍らせ見せつける嫌な美少女、くらいにしか見えていないようだ。
…………俺の目が節穴だということも、可能性としては考えられるだろうか。
実はココウェルは相当な芸達者で――とか。
「い、いらっしゃい……ませ……」
「ふふっ。ねえ、それ四つちょうだい?」
「よ、よっつ……八百ヴォレオになります」
「あ・り・が~・と♡ ケイ、なにやってんのホラ! お金!」
「……ああ」
……無いな。
こいつは本当にただの、性格が捻じ曲がった馬鹿な女にしか見えない。
きっとこうして色香を振りまくことで、王女がプレジアに来ているとバレる可能性など考慮していないのだろう。無論、それに伴う危険も。
……食い気と色気だけの、バカ。
果たしてこのような暗愚が、今回の事件の黒幕足り得るだろうか?
「ケイ!」
「……はい?」
「はいじゃないわよ。なーんかあんた上の空ね、何してても。わたしと居るのがそんなにつまらないってこと?」
「いいえ? ただ、ちょっと考え事を」
「何をよ? 言いなさい」
「食べているお姿もここまで魅力的な貴女のような方の傍に、どうして俺のような路傍の石が傍に居ていいことがあるだろうか、と」
「っ……!」
ココウェルが表情を変える。
どうやら、こんな適当な誤魔化しも通用してしまう頭脳をお持ちの様だ。
流石は出涸らし王女。
今はこいつに取り入る他ない。
プレジア襲撃事件を解決する為には、是が非でもこいつから情報を引き出さなくてはいけないからだ。
……そう思うにつけ、今の自分の状態が、力の無さが恨めしく思えてしまう。
痛みの呪いで力は出ず、恐らく力が万全でも奴には勝てない。
アヤメ。
あれだけ強いギリートの父親。それと同じ、ヘヴンゼル騎士長の候補者とまで言われている女騎士。
………………考えるべきことは山積みだ。本当に。
「ねえ、ケイ。あんたってなんかの病気なの?」




