「毒気も拍子も」
「ねえねえ! 次はこれ買ってっ!!」
「……一つ頼む」
「は、はーい……四百ヴォレオになります」
「あっ! ちょっとお前、どうして二つ買わないのっ? わたしの分は!?」
「貴女の分ですよ」
「自分のは!」
「もうお腹一杯です」
「だっらしない男ねぇ!」
お前が食い過ぎなだけだ。
金を払い、商品を受け取る。
湯気をあげるジャガイモにベーコンとバターが挟まり、それに塩胡椒を塗してある食べ物。受け取った瞬間、横からココウェルに掠め取られた。
「……ありがとう」
「ど、どうも……」
売り子の男子は惚けた表情で、食べ物にかぶりつくココウェルを見惚れている。
「!…………あンやだ。こぼしちゃったぁ」
当のココウェルもその視線に十分気付いており――気付いた上で、わざとその深い谷間にじゃがいもの欠片を落とし、指に掬い上げ――売り子の彼に流し目を飛ばしながら、指先ごと艶めかしく口に含む。
何度見ても、なんと、まあ、下品な。
そして一連の動きを終えた後、
「さっ。次に行きましょっ」
しかと俺の腕に抱き着き、胸をむいむいと押し付けながら俺に先を促すのだ。
これでもう、五軒目。
そのどれもが食い物屋である。
どんだけ食うんだ。全部乳にいってるのか、と月並みに突っ込みたくなる。
そして何故一々俺にくっつく必要がある。この人込みでそれは流石に暑苦しい。
最初は色んな意味で汗と動揺が止まらなかったが、今はただただ暑いのみである。
それにしても。
「……ココウェル。貴女はお金に困っていたのですか?」
「は? あんまナメたこときくなよ。金に困るワケないでしょ王女の私が!」
「そ、そうですよね」
自分を敬うこと。
その上で俺の出し物の時間まで、二人きりで学祭巡りをすること。
それが、あれだけ暴虐で歪な立ち回りをしてみせた姫君、ココウェル・ミファ・リシディアからのお願いだった。
裏があると思っていた。当然。
だが四半刻と少しを回った今となっては……本当に学祭を一緒に回ることが、本当に彼女の望みだったのだと結論付けざるを得ない。
当然、アヤメは近くに居る。
有事の際には俺を瞬転の数瞬で斬れるように、絶妙な距離からずっと付いてきている。
そこまでさせて、王女殿下が俺と二人きりの状況をご所望なすったのは何故なのか。
それは出会って程無い俺に気があるから、ということでは勿論無く、どうやら――
「ぶっっっさっ……」
『!!!!』




